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3.

 地下シェルター中央管理区。


 巨大スクリーンに映る魔法都市エーテリオンは、青白いマナ光に包まれていた。塔の信号はまだ断続的に続いている。


 部屋の中央に円形の会議卓があり、その周囲に数人の人影が集まっていた。


 研究者――先ほどの白髪の男が、静かに口を開く。


 「結論は一つだ」


 机上のホログラムに、エーテリオンの立体地図が浮かび上がる。


 「地上調査隊を送る」


 沈黙。


 それを破ったのは、軍服を着た女性だった。肩章には作戦主任であることを示す階級章がある。


 「危険です」


 「承知している」


 「地上はマナ汚染領域です。装備なしでは三日と持たない。それに――」


 彼女は言葉を切った。


 「魔法使いがいる」


 地下シェルターの住民にとって、魔法文明は未知の存在だった。


 データはある。

 観測もしている。


 だが直接接触した例はほとんどない。


 研究者は言った。


 「だからこそだ」


 彼はスクリーンを指した。


 静謐の塔が青く輝いている。


 「塔が設計者を認識した」


 部屋の空気が張り詰める。


 「もしそれが本当なら――」


 研究者は低く言った。


 「人類の歴史は、今日書き換わる」


 彼は作戦主任を見た。


 「隊を編成してくれ」


 女性は数秒考え、頷いた。


 「……分かりました」


 数時間後。


 地下シェルター深部、装備庫。


 巨大な金属扉がゆっくりと開いた。


 内部には、人型外骨格スーツが並んでいる。

 表面には旧文明のロゴが刻まれていた。


 EXO-FRAME TYPE VII


 それは地上環境用の戦術装備だった。


 隊員たちが装着していく。


 防護スーツ。

 環境フィルター。

 神経接続インターフェース。


 隊長の女性――名をエリカと言った――がヘルメットを手に取りながら言う。


 「任務を確認する」


 隊員たちが整列する。


 「目的は三つ」


 彼女は指を立てた。


 「一、エーテリオンへの潜入」


 「二、塔構造体の調査」


 「三――」


 そこで彼女は一瞬だけ言葉を止めた。


 「設計者個体の確認」


 若い隊員が思わず口を開く。


 「もし本当にいるなら……どうするんです?」


 エリカは即答した。


 「接触する」


 「敵だった場合は?」


 「その時は――」


 彼女はスーツの腰部に装着された武器を確認した。


 「現場判断だ」


 発進ハンガー。


 地上へ通じるエレベーターシャフトは、まるで巨大な井戸のようだった。


 そこに、細長いカプセル型の輸送ポッドが吊り下げられている。


 調査隊五名が乗り込んだ。


 内部は狭い。


 機械の振動だけが響いている。


 エリカが通信を開いた。


 「こちら調査隊アルファ。発進準備完了」


 管制室から返答。


 『確認した。地上到達まで二時間』


 「了解」


 ポッドの扉が閉まる。


 次の瞬間――


 重力が消えた。


 ポッドがシャフトを上昇し始める。


 地下シェルターから、地上へ。


 一万年以上ぶりに、人類が本格的に地表へ戻る瞬間だった。


 二時間後。


 地上。


 夜の森。


 エーテリオンから数十キロ離れた場所に、ポッドが静かに着地した。


 ハッチが開く。


 冷たい夜気が流れ込む。


 隊員の一人が呟いた。


 「……これが地上か」


 頭上には星空が広がっていた。


 地下で生まれ育った彼らにとって、それは初めて見る光景だった。


 エリカが命令する。


 「感傷は後だ」


 彼女は森の向こうを指した。


 遠くに、青く輝く都市が見える。


 魔法都市エーテリオン。


 空に浮かぶ建物。

 走る光の列車。

 塔から広がるマナの光。


 隊員の一人が言った。


 「信じられない……」


 別の隊員がセンサーを見ながら言う。


 「マナ濃度、想定の三倍。スーツのフィルターがフル稼働してます」


 エリカは静かに言った。


 「だからこそ、急ぐ」


 彼女は都市を見つめた。


 「潜入する」


 同じ頃。


 エーテリオン中央広場。


 エルはまだ塔を見上げていた。


 信号は弱くなっている。


 彼は小さく首を傾げた。


 「……ん?」


 その瞬間。


 彼は森の方向を見た。


 遠く。


 肉眼では見えない距離。


 だがエルは確信していた。


 「誰か来たな」


 彼は少し考えてから、楽しそうに笑った。


 「しかも……」


 彼は呟いた。


 「旧文明の人間だ」


 森の中。


 調査隊は静かに進んでいた。


 だが彼らはまだ知らない。


 エーテリオンという都市が、


 単なる魔法都市ではないことを。


 そして――


 都市そのものが、彼らを観測していることを。



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