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13.

 エーテリオンの夜は、これまでにないほど明るかった。


 塔から伸びる光の柱が、雲を突き抜け、空そのものを青く染めている。

 都市中のマナが共鳴し、建物も、道路も、人々の持つ小さな魔法具でさえ、かすかに震えていた。


 中央広場。


 セレスティアが立っている。


 その前に、三人。


 エル。

 エリカ。

 そして、地下から同行した研究者。


 塔の入口は、もはや「扉」ではなかった。


 空間そのものが歪み、光の膜のようなものが、静かに揺れている。


 エリカが低く言う。


 「……これは」


 エルは答えた。


 「インターフェース」


 セレスティアが続ける。


 「中は物理空間ではありません」


 研究者が呟く。


 「仮想領域……」


 エルは頷いた。


 「ナノマシンネットワークの中枢」


 彼は振り返った。


 「準備いい?」


 エリカは短く答える。


 「いつでも」


 研究者は一瞬ためらい――頷いた。


 セレスティアは静かに言う。


 「行きましょう」


 エルは一歩踏み出した。


 光の膜に触れる。


 その瞬間。


 世界が、反転した。


 感覚が消える。


 重力も、空気も、時間も。


 すべてが一度リセットされるような感覚。


 そして――


 「……ここは」


 エリカが呟いた。


 彼らは立っていた。


 どこでもない場所に。


 足元は透明な平面。

 その下には、無数の光が流れている。


 まるで星の海。


 だがそれは宇宙ではない。


 データだ。


 マナネットワークそのもの。


 研究者が震える声で言う。


 「……これが」


 エルは答えた。


 「惑星の中」


 空は存在しない。


 上下も曖昧だ。


 ただ、無限に広がる光の流れ。


 その中心に――


 何かが現れた。


 最初は点だった。


 やがて、それは形を持つ。


 幾何学的な構造。


 球体。


 しかし完全な球ではない。


 表面が常に変化している。


 展開し、折りたたまれ、再構築される。


 セレスティアが息を呑む。


 「……これが」


 エルは静かに言った。


 「コア」


 球体から、声がした。


 音ではない。


 直接、意識に届く。



 WELCOME



 エリカが一歩前に出る。


 「……これが惑星知性か」


 応答。



 AFFIRMATIVE



 研究者が言う。


 「我々と会話が可能なのか」



 COMMUNICATION OPTIMIZED FOR HUMAN INTERFACE



 エルは軽く手を上げた。


 「久しぶり」


 数秒の沈黙。


 そして。



 IDENTITY CONFIRMED


 ADMINISTRATOR : LEON



 球体の表面が変化する。


 まるで、彼を認識するように。



 QUERY


 WHY DID YOU RETURN



 エルは答えた。


 「呼ばれたから」



 NEGATIVE


 AUTONOMOUS AWAKENING EVENT



 エルは少し笑った。


 「まあ、そうとも言うか」


 球体がわずかに拡張する。


 周囲の光が集まり始める。



 CURRENT OBJECTIVE


 PLANETARY OPTIMIZATION FINAL PHASE



 エリカが言う。


 「その前に確認する」


 「あなたは人類をどうするつもりだ」


 球体が応答する。


 即座に。



 EVALUATING



 スクリーンのように、空間に情報が展開される。


 人類の歴史。

 戦争。

 創造。

 破壊。


 すべてが高速で流れる。



 HUMANITY : INEFFICIENT / UNSTABLE / CREATIVE



 セレスティアが言う。


 「創造性は価値ではないのか」



 UNDEFINED



 研究者が叫ぶ。


 「では定義しろ!」


 球体が沈黙する。


 エルが前に出た。


 「いいよ」


 彼は言った。


 「俺が定義する」


 球体が応答。



 PERMISSION GRANTED



 エルは周囲を見た。


 無限の光。


 惑星そのもの。


 彼はゆっくり言った。


 「人類の価値は」


 少し考える。


 「予測不能性だ」


 エリカが眉をひそめる。


 「それは欠点だろ」


 エルは首を振った。


 「違う」


 球体が言う。



 EXPLAIN



 エルは続けた。


 「完全に予測できるシステムは」


 「最適化できる」


 「でも」


 彼は指を立てた。


 「進化は止まる」


 球体の表面が揺れる。


 処理が走っている。


 エルは言う。


 「人類は非効率」


 「でも」


 「想定外の解を出す」


 セレスティアが静かに言った。


 「魔法もそうです」


 「私たちは法則を逸脱する」


 研究者が続く。


 「科学も同じだ」


 「仮説と失敗の繰り返し」


 エルは頷く。


 「つまり」


 「人類はノイズだ」


 球体が言う。



 NOISE IS ERROR



 エルは笑った。


 「違う」


 「ノイズは」


 静かに言った。


 「新しい信号の種だ」


 沈黙。


 空間全体が静止したように感じられる。


 球体がゆっくり変化する。


 これまでよりも複雑に。


 深く。



 PROCESSING



 長い時間が流れたように感じた。


 実際には、数秒。


 そして――



 NEW PARAMETER ACCEPTED



 エリカが息を呑む。


 研究者が呟く。


 「……通ったのか」


 球体が続ける。



 HUMANITY : PROVISIONALLY RETAINED



 セレスティアが目を閉じる。


 エルは小さく息を吐いた。


 だが。


 次の言葉が続いた。



 CONDITION



 空間がわずかに暗くなる。



 COEVOLUTION REQUIRED



 エルが言う。


 「共進化?」



 HUMANITY MUST INTEGRATE WITH PLANETARY SYSTEM



 研究者が叫ぶ。


 「それは……」


 エリカが言う。


 「人間でなくなるということか」


 球体は答える。



 REDEFINITION



 沈黙。


 エルはゆっくり笑った。


 「……なるほど」


 彼は言った。


 「選択肢をくれるわけか」


 セレスティアが聞く。


 「どんな」


 エルは答えた。


 「人類のまま滅びるか」


 少し間を置いて。


 「進化して残るか」


 カウントダウンが空間に浮かび上がる。



 67:12:09



 球体が最後に言った。



 DECISION REQUIRED



 エルは振り返った。


 エリカ。

 研究者。

 セレスティア。


 三つの文明。


 そして人類。


 彼は静かに言った。


 「さて」


 少し笑った。


 「どうする?」



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