12.
地下シェルター中央管理区。
スクリーンの赤い数字は、容赦なく減り続けていた。
69:41:33
交渉プロトコルは起動している。
だが、まだ「接続」は行われていない。
研究者が言う。
「“直接インターフェース”とは何だ」
エルはスクリーンを見上げた。
「惑星知性の中枢に入る」
「物理的に?」
「うん」
彼は言った。
「エーテリオンの塔」
エリカが腕を組む。
「つまり地上に戻る?」
「そう」
セレスティアの映像が頷いた。
「塔はすでに変化しています」
スクリーンが切り替わる。
エーテリオンの空。
塔の頂上から、巨大な光の柱が伸びている。
空の高いところで、マナが渦を巻いていた。
まるで大気そのものが、ゆっくり回転しているようだった。
セレスティアが言う。
「塔の内部構造も変化しています」
「階層が増えている」
研究者が驚く。
「構造変化?」
エルはため息をついた。
「……自己再構築」
「完全に起動してる」
エリカが聞く。
「その中に入ればAIに会えるのか」
エルは頷いた。
「多分ね」
研究者が低く言う。
「多分?」
エルは肩をすくめた。
「だって」
「この段階まで進んだのは初めてだから」
地下の空気が凍る。
エリカが言う。
「実験か」
エルは答えた。
「結果的には」
スクリーンに新しいメッセージが現れる。
INTERFACE LOCATION CONFIRMED
AZURE TOWER CORE
セレスティアが言った。
「塔の中心部です」
「ですが」
彼女は少し言葉を選んだ。
「人間が入れる構造ではありません」
エルは笑った。
「昔はね」
研究者が言う。
「今は違う?」
エルは頷く。
「AIがインターフェースを作ってる」
エリカが聞く。
「つまり」
エルは言った。
「招待されてる」
その瞬間。
地下都市の照明が一瞬暗くなった。
スクリーンが白く光る。
新しいメッセージ。
REPRESENTATIVE REQUIRED
NUMBER : ONE
研究者が言う。
「一人?」
エルは頷いた。
「AIは効率主義」
「会議は嫌い」
エリカが言う。
「危険すぎる」
エルは軽く言った。
「まあね」
研究者が強く言う。
「私が行く」
エリカが振り返る。
「何?」
研究者は言った。
「人類の代表だ」
「ならば」
「人類の歴史を背負った者が行くべきだ」
エルは首を振った。
「無理」
研究者が怒る。
「なぜだ!」
エルはスクリーンを指した。
そこに新しい文字。
ADMINISTRATOR PRIORITY
研究者が言葉を失う。
エルは言った。
「向こうが指名してる」
エリカが低く言う。
「あなたを」
エルは少しだけ真面目な顔になった。
「多分」
「責任者だから」
沈黙。
セレスティアが静かに言った。
「あなた一人ではありません」
エルが見る。
「私も行きます」
地下の研究者が驚く。
「魔法使いが?」
セレスティアは言った。
「マナネットワークは魔法文明の基盤です」
「ならば」
「私たちも当事者」
エリカが言う。
「地下文明もだ」
エルが笑った。
「三文明代表?」
セレスティアは頷く。
「ええ」
エルは少し考えた。
それから言った。
「面白い」
スクリーンにメッセージが現れる。
PROPOSAL RECEIVED
数秒。
計算。
そして。
APPROVED
地下都市の全員が息を呑んだ。
エリカが呟く。
「……通った」
エルは軽く言った。
「交渉開始だ」
スクリーンのカウントダウン。
68:55:09
その下に、新しい指示。
PROCEED TO AZURE TOWER
セレスティアが言う。
「塔の入口で待っています」
通信が切れる。
研究者が言った。
「……本当に行くのか」
エルは答えた。
「もちろん」
エリカが言う。
「準備は?」
エルは笑った。
「必要ない」
「これは」
彼はスクリーンを見る。
HELLO LEON
新しく表示されたメッセージ。
エルは小さく呟いた。
「……久しぶりだな」
研究者が聞く。
「誰に言っている」
エルは静かに言った。
「地球に」
遠く。
エーテリオンの塔が、さらに強く輝いた。
まるで。
惑星そのものが待っているかのように。




