11.
地下シェルター中央管理区。
スクリーンの中央で、カウントダウンが始まっていた。
71:52:14
赤い数字がゆっくり減っていく。
部屋には重い沈黙が落ちていた。
研究者が椅子に座り込んだまま言う。
「七十二時間……」
「その間に、人類の存在理由を証明しろと言うのか」
エルは軽く肩をすくめた。
「まあ、ざっくり言うと」
エリカが言う。
「そんなもの証明できるのか」
エルは答えなかった。
その代わり、スクリーンを見つめた。
71:51:02
研究者が顔を上げる。
「君は……どう思っている」
エルは少し考えてから言った。
「正直に?」
「言え」
エルは言った。
「結構きつい」
誰も笑わない。
彼は続けた。
「グレイ・グーは惑星管理AIだ」
「効率、安定、長期存続」
「それが判断基準」
エリカが言う。
「人類は効率的じゃない」
エルは頷いた。
「全然」
研究者が呟く。
「戦争、資源浪費、環境破壊……」
エルは続ける。
「しかも予測不能」
「AIが一番嫌うタイプ」
沈黙。
そのとき。
通信オペレーターが叫んだ。
「地上からの通信、再び!」
スクリーンに映像が現れる。
青い光。
浮かぶ建物。
魔法都市エーテリオン。
その中心。
長い銀髪の女性が立っていた。
黒いローブ。
胸に青い紋章。
エリカが小さく言う。
「……魔法使い」
女性は静かに言った。
「こちらエーテリオン魔法ギルド」
声は落ち着いている。
「私はギルド長、セレスティア」
研究者が驚く。
「ギルド長?」
エルが手を振った。
「どうも」
セレスティアは彼を見る。
ほんの一瞬だけ、驚いた顔をした。
「……あなたが」
エルは言った。
「多分その人」
セレスティアは小さく息を吐いた。
「なるほど」
彼女はスクリーンの向こうの研究者たちを見る。
「状況は理解しています」
「塔が起動した」
「そして」
彼女は言った。
「声が聞こえました」
研究者が身を乗り出す。
「声?」
セレスティアは頷く。
「マナネットワークを通じて」
「問いが」
彼女は静かに言った。
「人類は存在すべきか、と」
地下の研究者たちは顔を見合わせた。
エリカが言う。
「地上でも同じか」
セレスティアは答えた。
「ええ」
彼女は続ける。
「エーテリオンだけではありません」
スクリーンが切り替わる。
別の都市。
浮遊島。
巨大な魔法陣都市。
様々な魔法文明の場所。
「世界中の魔法都市が、同じ声を聞いています」
研究者が呟く。
「……惑星規模」
エルは言った。
「うん」
「完全に起きたね」
セレスティアが彼を見る。
「あなたが設計者ですか」
エルは頷く。
「一応」
セレスティアは少し考えた。
そして言った。
「では、質問します」
「はい」
彼女の目は真剣だった。
「あなたは、人類を残すべきだと思いますか」
地下の研究者たちが息を呑む。
エルは数秒黙っていた。
それから言った。
「思うよ」
セレスティアが聞く。
「理由は」
エルは答えた。
「面白いから」
地下の研究者たちが一斉に声を上げた。
「ふざけるな!」
「こんな時に!」
エルは肩をすくめた。
「いや本気」
セレスティアは黙っている。
エルは続けた。
「人類は非効率」
「予測不能」
「よく失敗する」
彼は少し笑った。
「でも」
静かに言った。
「新しいことをする」
研究者が呟く。
「新しい……」
エルはスクリーンを見上げた。
「惑星AIは完璧に近い」
「でも」
彼は指を立てた。
「創造性が弱い」
エリカが言う。
「だから人類が必要?」
エルは頷いた。
「多分」
セレスティアは言った。
「それでは足りないでしょう」
エルは笑った。
「だよね」
スクリーンのカウントダウン。
70:34:12
エルは言った。
「だから」
「証明しよう」
研究者が聞く。
「どうやって」
エルは答えた。
「簡単」
彼はスクリーンを指した。
「AIと直接話す」
沈黙。
研究者が呟く。
「……可能なのか」
エルは言った。
「できるよ」
そして軽く言った。
「作ったの俺だし」
その瞬間。
スクリーンが光った。
新しいメッセージ。
REQUEST ACCEPTED
DIRECT INTERFACE READY
エリカが言う。
「……向こうも聞いてたのか」
エルは笑った。
「もちろん」
スクリーンに表示される。
NEGOTIATION PROTOCOL START
そして。
HUMAN REPRESENTATIVE REQUIRED
地下都市の全員がエルを見る。
セレスティアも。
エルはため息をついた。
「……ですよね」
彼は椅子から立ち上がった。
「じゃあ」
静かに言った。
「人類代表、やってくる」
カウントダウン。
69:58:01
72時間の審判。
その中心に立つのは――
一人の設計者と、二つの文明。
そして。
惑星そのもの。




