表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

横倒れの樹木の上で。


 目の前には、白髪の頭が、俺の胸に顔を埋めている光景。


 意識が、ようやくハッキリと覚醒した。


 結局、俺は二度寝の誘惑に負けて、本日二度目の起床を……いや、朝も入れれば三度目か。


 想像以上に、俺という人間はだらけ者らしい。


 ……さて。

 もう一度、彼女へ視線を向ける。


 俺の片腕が下敷きとなるような形での、抱擁。

 そのまま寝たせいで、動くことすらもままならない。


 今変に動けば、彼女を不機嫌にさせてしまうことは、目に見えている。


 ……前にも、似たような状況になっていたような。


 …………。


 ……少し、首元に熱を感じた気がした。


 横目に、空を見る。

 木々の隙間から差し込む陽光は、角度をつけて、こちらを微かに照らしていた。


 まぁ、あの時間帯から二度寝もしたんだ。

 結構な時間が経っていようと、別に不思議ではない。


 …………。


 ……帰るのは、もう少し後でいいか。


 腕の中にうずくまる彼女を、軽く抱き寄せて。

 柔らかな白髪を、撫で付ける。


 ……しばらくは、こうしていようか。


 俺という人間は、のんびりとした時間を好むのだ。

 静かな森の中、彼女の寝息だけが、静かに響く。



◇◆◇



 目を覚ましても、前のように彼女が俺の身体に傷をつけることはなかった。


 強いて言うなら、寝起きのその目で、俺の首元を見つめたあと、不愉快そうに顔を顰めて、小さく舌打ちをしたくらい。


 その苛立ちは、俺に向けてではなく、彼女自身に向けられたものだったように感じてしまう。


 これが、俺の勘違いであるのか。


 …………。


 ……分からないことだらけだ。


 特に最近は、この白髪の少女と出会ってから、そう自覚することが、多くなった気がする。


 枯れた枝葉を積もらせる。


 木の枝どうしを擦り合わせて出来た細かな木片を一纏めにして、山なりの枝葉の中に手を入れる。


 そのまま、微細な魔力を人差し指のてっぺんに集め、口を開いて。


『《火花》』


 人差し指の、爪の先。

 そこから、小さな炎が、花の形を型どるように破裂して、溢れ出していく。


 緋色に、枝分かれした、火の粉。

 炎特有の、香ばしい匂いが、森の中を漂い始めていて。


 日が傾き、暗くなり始めた森の中では、その光景はチンケなもののはずなのに、何故か幻想的にすら見えてしまう。


 ……前世の、線香花火を、思い出すな。


 たぶん、この感情には、後悔とかはない。


 昔の記憶を思い出した。

 ただ、それだけだ。


 火花を散らし、段々と熱を帯びていく枯れ枝たちを、ぼーっと、気の抜けたように眺める。


 視界の端。

 俺の右肩の少し後ろから、彼女は、俺の指先を興味深そうに……あるいは、物珍しそうに、見つめている。


 少なくとも、不機嫌である訳では無いようだった。


 表情筋が凝り固まっているのであろう彼女からは、それくらいしか、推測することができない。


 少し、顔を向ける。

 そこには、顔のほとんどを本で覆って、本の端から、ジトっとした目だけをこちらへ覗かせる、龍人の彼女。


 …………。


「……さて、何を作ろうかな」


 そう呟くと、彼女の目は、少し柔らかくなった気がした。


 ……そもそも、なんでジトっとした目で見られていたのかは、よく分からないけど。


 そうして、また同じ位置へと、戻る。

 横倒れの樹木の上に、彼女の隣へ。


 その様子を見た彼女は、一瞥だけして、また本の内容へと視線を戻す。


 白い、鱗で覆われた尻尾は、俺の膝の上に置かれて。


 定位置、みたいなものを感じてしまう俺は、今の状況に、愛着のような何かを、感じているのかもしれない。


 目の前で、緋色に揺らめく炎を見て。

 ぼんやりと、そう考えた。


 膝上の尻尾を、撫でながら。


 ……心地良い、のかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ