横倒れの樹木の上で。
目の前には、白髪の頭が、俺の胸に顔を埋めている光景。
意識が、ようやくハッキリと覚醒した。
結局、俺は二度寝の誘惑に負けて、本日二度目の起床を……いや、朝も入れれば三度目か。
想像以上に、俺という人間はだらけ者らしい。
……さて。
もう一度、彼女へ視線を向ける。
俺の片腕が下敷きとなるような形での、抱擁。
そのまま寝たせいで、動くことすらもままならない。
今変に動けば、彼女を不機嫌にさせてしまうことは、目に見えている。
……前にも、似たような状況になっていたような。
…………。
……少し、首元に熱を感じた気がした。
横目に、空を見る。
木々の隙間から差し込む陽光は、角度をつけて、こちらを微かに照らしていた。
まぁ、あの時間帯から二度寝もしたんだ。
結構な時間が経っていようと、別に不思議ではない。
…………。
……帰るのは、もう少し後でいいか。
腕の中にうずくまる彼女を、軽く抱き寄せて。
柔らかな白髪を、撫で付ける。
……しばらくは、こうしていようか。
俺という人間は、のんびりとした時間を好むのだ。
静かな森の中、彼女の寝息だけが、静かに響く。
◇◆◇
目を覚ましても、前のように彼女が俺の身体に傷をつけることはなかった。
強いて言うなら、寝起きのその目で、俺の首元を見つめたあと、不愉快そうに顔を顰めて、小さく舌打ちをしたくらい。
その苛立ちは、俺に向けてではなく、彼女自身に向けられたものだったように感じてしまう。
これが、俺の勘違いであるのか。
…………。
……分からないことだらけだ。
特に最近は、この白髪の少女と出会ってから、そう自覚することが、多くなった気がする。
枯れた枝葉を積もらせる。
木の枝どうしを擦り合わせて出来た細かな木片を一纏めにして、山なりの枝葉の中に手を入れる。
そのまま、微細な魔力を人差し指のてっぺんに集め、口を開いて。
『《火花》』
人差し指の、爪の先。
そこから、小さな炎が、花の形を型どるように破裂して、溢れ出していく。
緋色に、枝分かれした、火の粉。
炎特有の、香ばしい匂いが、森の中を漂い始めていて。
日が傾き、暗くなり始めた森の中では、その光景はチンケなもののはずなのに、何故か幻想的にすら見えてしまう。
……前世の、線香花火を、思い出すな。
たぶん、この感情には、後悔とかはない。
昔の記憶を思い出した。
ただ、それだけだ。
火花を散らし、段々と熱を帯びていく枯れ枝たちを、ぼーっと、気の抜けたように眺める。
視界の端。
俺の右肩の少し後ろから、彼女は、俺の指先を興味深そうに……あるいは、物珍しそうに、見つめている。
少なくとも、不機嫌である訳では無いようだった。
表情筋が凝り固まっているのであろう彼女からは、それくらいしか、推測することができない。
少し、顔を向ける。
そこには、顔のほとんどを本で覆って、本の端から、ジトっとした目だけをこちらへ覗かせる、龍人の彼女。
…………。
「……さて、何を作ろうかな」
そう呟くと、彼女の目は、少し柔らかくなった気がした。
……そもそも、なんでジトっとした目で見られていたのかは、よく分からないけど。
そうして、また同じ位置へと、戻る。
横倒れの樹木の上に、彼女の隣へ。
その様子を見た彼女は、一瞥だけして、また本の内容へと視線を戻す。
白い、鱗で覆われた尻尾は、俺の膝の上に置かれて。
定位置、みたいなものを感じてしまう俺は、今の状況に、愛着のような何かを、感じているのかもしれない。
目の前で、緋色に揺らめく炎を見て。
ぼんやりと、そう考えた。
膝上の尻尾を、撫でながら。
……心地良い、のかもしれない。




