10歳そこらの、少年と少女。
戸惑っているのか、彼女は一向に食べようとしない。
席に着いて、器まで受け取ったのだから、信頼はなくとも、ある程度の信用はされていると思っていたけれど、違うみたい──
──グイッ
裾が、引っ張られる。
壊さないよう、最大限力を抜こうとしたのか、服のシワすらも満足に引っ張られていない。
……不器用なものだ。
反応し、視線を向ければ、僅かに戸惑った視線を俺に向けて、その後、器へ視線を向ける。
…………。
……あぁ、そうか。
そもそも、食器を使う、なんてことをしたことが無いのか。
彼女の境遇を考えれば、当然のことなのかもしれない。
そんな、考えに至る。
だけど──
──いや、だからこそ。
俺は彼女から目を背け、彼女のことを気にしないよう、食べ始める。
……彼女が、施されることを嫌うことくらい、分かっている。
ならば、教えなければいい。
少なくとも、見て勝手に学ぶだけの知能を彼女は持ち合わせていることを、俺は知っている。
横目に見れば、真似をするように、指を動かしていた。
彼女は、不器用な手つきで具をすくい上げ、一口。
表情に、目立った変化はない。
無表情で、咀嚼していることが、僅かに分かるくらい。
……なのに、どうしてだろうな。
その黄金の瞳の輝きを見る度に、彼女が何を感じているのかが、分かってしまう気がするのは。
…………。
「……さて、今度は、何を作ろうかな」
「……」
空を見上げながらに、独り言。
彼女の尻尾は、ピクリと反応していた。
膝の上に、彼女の尻尾を置き、軽く撫でながらの食事。
……体の芯まで温まる、だったかな。
今だけは、この言葉の意味が分かる気がした。
◇◇◇
血の味がする。
冷たくて、水っぽい。
ぐちゃぐちゃと、口の中を転がる。
身体が、冷たくて、紅くなる。
『──キャァァァ!』
『──ば、化け物……ッ!』
『──逃げろォ!!』
紅い私を見て、誰が声を上げていた。
でかい肉《死体》を見て、叫んでいた。
誰かは、私の目を見ない。
──冷たい。
体の奥が、冷たい。
◆◆◆
なんの味か、分からない。
今まで、食べたことの無い味。
体は、紅くなくて、冷たくなくて。
変な味なのに、嫌じゃない。
『──さて、今度は、何を作ろうかな』
「……」
ゆったりとした、声だ。
視界の端に、黒髪の男が映る。
こいつは、変なやつだ。
何故か、私の横にいる。
変なやつで、イライラして。
私は、唸り声を上げる。
なのに、こいつは私を見る。
私の目を、見ている。
…………。
……少し、温かい。
体の奥が、冷たくない。
◇◆◇
鍋の中は、もう空っぽだ。
黄金の瞳は、俺を見ている。
その瞳のど真ん中を、俺も見つめる。
無言の、間。
森の雑音だけが、寂しげに響いている。
彼女が何を思って俺を見るのか。
彼女ではない俺には、やっぱり分からない。
…………。
……分かった気にも、なりたくない。
焚き火の燃えカスの匂いだけが漂う、横倒れの木の上で、俺と彼女。
気まずい、と。
そう感じるはずなのに、なんでだろうか。
今は、この静寂が心地良い。




