表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

自業自得の後の暗がりで。


 このゲーム世界、『エターナル・ラインズ』の世界には、"魔力"なんてモノが、存在する。


 魔法だの、魔術だのを使ったり出来る、意味の分からない力だ。


 前世にはなかった力。

 それが、魔力という存在だ。


 であれば、そんな力を持つこの世界の人々は、前世の人間たちと違うところがあったとしても、何らおかしくはないのだろう。


 命が軽視される価値観。

 それは、この魔力という存在が関係するのかもしれない。


 平たく言えば、この世界の住人は、魔力さえ残っていれば、死ぬことはあまりない。


 それほどまでに、タフだったりするのだ。


 …………。


 ……じゃなきゃ、俺がまだ生きれているのに、説明がつかないだろう。


 風に吹かれれば、簡単に消えてしまいそうな程の、意識の中。


 それでも、ただひたすらに、体内の魔力へと意識を向ける。


 ……まさか、こんな形で活きることになるとはな。


 この世界に来てから覚えた魔法。

 その殆どは、攻撃性など皆無の、舐め腐ったモノたち。


 けれど今、こうして俺の命を救うのは、その魔法たちだった。


 ……あぁ、彼女の尻尾が、温かい。


 僅かに、手を動かして。

 そんな、気持ちの悪いことを考える。


 彼女が、今の俺をどんな様子で見ているのか。


 分からない、分かるはずもない。

 だけど、少なくとも、拒絶の意志がないということだけは、今の俺でも理解できて。


 ……やっぱり、温かい。



◇◆◇



 気づけば、夜だった。


 身体中に出来た傷も、完全では無いものの、治ってきているのが分かった。


「……おきたか」


 横から、声がした。

 目を逸らせば、そこにはまだ、彼女がいた。


 ……あぁ、だから。


 てっきり、前のように居なくなるものとばかり思っていたが、そうでもないらしい。


 未だある、手の中の感触に、そんなことを考えた。

 少しざらついていて、それでいてツヤのある、白い鱗に覆われた尻尾。


 冷んやりとして、今はなんだか、それが心地よい。


 辺りには、木々と、夜の暗がりだけが、広がっている。

 月光──あの青白い光だけが、俺と彼女を、木々の隙間から照らしていて……


 ……あぁ、いや、もうひとつ。


 黄金に輝く、彼女の瞳。

 その目は、俺をただ、見ていて。


 俺だけを、照らしているように、感じてしまう。


 …………。


 ……変な考えを、するものじゃないな。


 これは、凡夫が感じていいものじゃない。

 だからきっと、これは──




──勘違い、なんだろう。


 勘違いに、過ぎないものなのだろう。



 何を思ってやったのか。

 俺にも分からない。


 ただ、求めるように手を動かせば、彼女の尻尾は、逃げるように退いてしまった。


「……なんだ」


 不満気な、声色。

 見れば、彼女は俺をジトっとした目で、見つめている。


 ……なんて、言うべきかな。


 彼女の元へ戻された尻尾は、ゆらゆらと、草花を撫でるかのように揺れている。


 …………。


「……許してくれると、助かるんだけどな」


 愛想笑いのような笑みを浮かべて、倒れたまま動けない身体で、彼女に向けて。


 さっきよりも、目が鋭くなっているのは、何故なんだろうかな。


「……ふん」


 その目を逸らすことなく、ただジッと、見続けていれば、彼女は鼻息を鳴らして、微かに目を逸らす。


 月明かりが照らす、森の中。


──俺の手の内には、白い尻尾。


 その先端が、ちょこんと、遠慮気に置かれていた。



◇◆◇



 身体が、熱い。

 明らかに、体温が上がっている。


 あれだけ野晒しの状態で傷だらけになったのだ。

 何らおかしくはない、か。


 水浴びで清潔を保とうとしても、石鹸なんて使う機会はなかったんだろう。


 爪から菌が入っても、無理はない。


「……ハァ、ハァ」


 息が、荒くなる。

 顔が熱い、じっとりとした汗の不快感が、体表を這いずっている。


 視界の端には、カバンの横ポケットに入れられた、皮水筒が。


 彼女の尻尾を握っていない、もう片方の手を伸ばして、取ろうとして──取られる。


 視界の端。

 見えないそこから現れたのは、彼女の手。


「……これが、ほしいのか」


 何を考えているのか、分からないような声色。


 顔を見ても、無表情で。

 不愉快なのか、何も思っていないのか。


 ……この行動は、俺に何かを思っていると、そう解釈していいのだろうか。


 それすらも、分からない。


「…………」


 無言で、彼女は俺を見ている。

 その表情は、無表情のはずなのに、どこか不満気にも見えた。


「あっ……」


 尻尾が、俺の手から、遠退いていく。

 俺の手は、名残惜しそうに尻尾を追って、項垂れる。


 ……喉が、乾いた。


──ゴトッ。


 顔の横に、蓋の開かれた水筒が現れる。

 思わず、彼女の方を見れば──




「──これで、おあいこ」


 そっぽを向いて、小さく、彼女はそう呟いた。

 そのまま、冷んやりとした彼女の尻尾は、俺の額に、無造作に置かれる。


 ……ははっ、おあいこって、そんなこと気にしてたのか。


 そんな彼女の様子が、拙いながらに、それを伝えようとする彼女が、なんだか可笑しくて──




──それでも、これは伝えないといけないから。


 水を、一口。

 彼女の目を、しっかりと射抜いて。

 役に立たない身体に、鞭を打って、言葉を紡ぐ。


「おあいこ、だなんて……謙遜するなよ」

「こっちはまだ、借りすらも返せていないんだ」


 この俺に借りを作ったなどと、傲慢な考えをする彼女に向けて。


 あの日、俺を見逃したあの日の借りを、俺はまだ、返せていない。


 命よりも重い"借り"が、あっていいはずが無いのだから。


「……ふんっ」


「──ぐァ゛ッ」


 不機嫌な声。

 それと同時に、俺の額に、彼女の尻尾が振り抜かれた。


 一歩、一歩と、彼女が去って行くのがわかる。


 どうやら、今回はここまでのようだ。


 …………。


 ……最後に、これだけは言っておこうか。


「……じゃあね。また、逢いに行くよ」


 俺に、背を向ける彼女へ向けて、精一杯に、張り上げた声を、押し付ける。


 ……あぁ、少し、肌寒いな。


 視界の先に、彼女はもう、いない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ