転生者
ちょー怒られた。
あたりまえでは、あるのだろう。
ついこの間、死に目にあったばかりだというのに、誰にも何も言わず、たかが10歳そこらの子供が、夜中までそこらをほっつき歩いていたんだ。
母は鬼の形相をし、父は木剣を抜き俺の心を叩き直そうとする。
ついさっき起きた、そんな出来事を思い出した。
夜中の、3時頃だろうか。
家の庭には、父と俺の二人。
母は、窓辺から俺たちを、ただ見ている。
……全く、この世界の倫理観はやっぱおかしい。
子供を一人歩きさせるのは駄目で、圧倒的体格差のある父が、木剣とは言えど、子を教育の名の元叩きのめすのは良いだと?
「準備は、いいか」
冷徹な、物言い。
父も、母程でないにしろ、怒りはあるらしい。
それっぽい構えをした父からは、気迫が溢れ出す。
子供が見れば、泣き出してしまいそうな、気迫だ。
……月とすっぽんとは、こういうものなのか。
白い少女の、あの魔力を、思い出した。
アレからすれば、父の気迫など、児戯に等しい。
昔見た時よりも、今の父は、なんだか小さく見えた。
体内の魔力を、身体強化に全振りする。
管を通して、その中から、魔力という液体を、身体中に、流し込むように。
子供の、小さな手で木剣を持ち、見様見真似に構える。
──瞬間。
父が、動き出して──
──気づけば、朝だった。
あくまでも、父の気迫にビビらなくなっただけ。
俺自身は、何の能力もない、凡夫に過ぎないのだ。
そう、再認識した。
◇◆◇
やはり俺は、ただ転生して、特別な知識があるだけの、凡人に過ぎない。
自室の、ベッドの上。
大の字に、動かせない身体のまま思考する。
あの日、災悪に遭っただけの、ただの凡人。
物の見方が、少し変わっただけの人間。
……それだけの話だ。
そんな事実で、安堵してしまう俺は……。
…………。
陽光が、俺を少し避けて、部屋に満ちる。
父は、俺のことを少し、認めていた。
母は、子供の反抗期だと割り切り、微笑んでいた。
少し前。
様子を見に来ていた、両親を思い出す。
……これは、俺が転生者、だからなのか。
俺はまだ、親を、親族を。
本物として、見ることが出来ていない。
エル爺の一件が、その思考に、更なる拍車を掛けた。
父は、本質的に、俺の事については怒っていない。
親友であったエル爺が裏切った。
その事実に、憤慨していただけなのだ。
あの時を見ていた俺だから、そう断言出来る。
……冷たい。
何が、だなんて。
そんなの、心に決まっている。
目を瞑れば、あの日見た"白"が、ありありと浮かび上がってくる。
無意識に伸ばした手は、空を切っていた。
……やっぱり、俺は……俺すらも、解らない。
◇◆◇
窓辺から、月光が薄く照らしている。
自室の、机の上。
そこには、鍵付きの箱。
鍵を差し込み、開いていく。
「……ッ」
魔法に、薬草やポーションまで使ったのにも関わらず、身体が痛む。
それに目を背け、箱から、分厚いメモ帳を取り出す。
開いて、捲っていけば、空白のページなど、殆ど見つからない。
……転生後は、記憶が徐々に薄れていくのがセオリー、だったかな。
かつての日。
前世の友人が、鼻高々にそう語っていたのを、思い出した。
ページを捲っていく。
やがて、そのページを開いて、読み直す。
…………。
……どうした、ものか。
思わず、天を仰ぐ。
「あぁ、ほんとうに──寒い」
無意識に、温もりを求めた自分がいることなど、ずっと前から、気づいているさ。
紙同士、擦れ合う音だけが、ただその部屋に響いた。




