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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
171/172

異世界探求伝 第百六十九話 審問会の審判の行方

審問を受ける事となった一同は、まさに戦線恐慌の面持ちで、首座に座る仮面の男の一挙手一投足を見守るしかなかった。

「さらに、ここで重要な証人喚問を行う」


別な場所から連れてこられたのは、オーク達を使役していた男だ。 すでに彼は、無理やりオーク達に対して、拷問による強制支配を行った事を自白し、犯罪が確定している為、現在の所一人だけ拘留が確定している。 《テイマー》調教師ならば、問題は無かったのだが、拷問による隷属は《どこ》何処の国でも違法扱いされている為だ。


「お前は、これまでも度々、ラミア討伐部隊に参加してきたと言っていたが、同様に複数回参加してきた者を指差せ」


「ち、違う。 俺達は初めてだ」

「あ、あたしたちを指ささないで」

「ふむ、複数回以上参加した者らは、もはや確信犯と言う他あるまい」


指揮官アンドレイを含む副官たちと、冒険者の数人、そして先ほどの無関係を装っていた女たち三人は、《さすが》流石に動揺を隠しきれずにいるようだ。


「そう、そいつが我々をはめようと、嘘をついているのだ。 仲間だと思って《かば》庇っていたが、本当はその魔物使いが首謀者だ。 なお前ら」

『ああ、そうだそうだ。 そいつが俺達の責任者だ』

「ケッ、言うに事欠いて俺だけに責任をなするのかよ。 こうなりゃ、俺だけ冷や飯は嫌だからな。 観念しろよお前ら」

「この魔物使いが、嘘をついていると言うのなら、さらに証言者を召喚しよう。 連れて来るがいい」


仮面の男の声は、低音でこもった声ながらドスの利いた《すごみ》凄味のある口調である。 その合図で、審問の場に連れて来られたのは、実際に魔物使いに操られていた三匹のオーク達である。 先ほどと同様に、仮面の男が指さしを命じると、魔物使いの男と同様の人物達を指差してみせたのだ。


「こいつは笑っちまうぜ、ハハハハ。 そいつらオークは、その男の指図通り動くだけだろう。 魔物使いの男と使役役の組み合わせなんざ、冗談にも程があるな。 おい、お前らも笑ってやれ」

「アンドレイと言ったか、そのオーク達は既に隷属から解き放たれておる。 ほら、首に隷属の首輪があるのかよく見るがいい。 何なら命令してみるか ?」

「くっ、そんな馬鹿な。 隷属の首輪が外されているだと !」


「お前達は、集団で共謀してアンチアモン鬼国を侵犯しただけでは無く、女媧族を殺害あるいは拉致しようとした。 しかも、数人は常習犯として、拉致あるいは殺害に深く関わっているとする。 よって、速やかに本国に送り、適切な審判の後、刑に処する事とする。 以上、これにて審議を終了とする」

『そ、そんな⋯ いやだ。 命ばかりは』


「少し、よろしいかしら ?」


部屋へ入って来たのは、気品のあるピンクのワンピースドレスで着飾った、いかにも金持ちといった面持ちのお嬢様である。 つばの広くて可愛らしいリボンのついた帽子から、長く伸びた髪を編み込んだ美しい白銀で、鳥のうわ毛のように取り巻いて彼女をより美しく魅せているようだ。 両脇にはスーツ姿の少し垂れ目の赤髪の少女と、少女よりも少し背の高い黒髪の男性の姿がある。


「これは、ヴァレンチノ家のお嬢さま、何用ですかな 。 申し訳ありませんが、現在審問会で立て込んでおりますので、お話しがお有りでしたら後ほどお伺い致しましょう」


「実は、その審問会の事について、ご相談がありますの」

「はて、貴女ほどの方が、他国の罪人どもに何の用事が ? まさか、この中にお知り合いでも ?」

「それはないわ、ただ同じ人族として、《ゆくえ》行方が少し気になっただけだわ」


「おい、ヴァレンチノ家のお嬢さまと言ったか ? あんたこいつらの言葉がわかるんだろ。 俺たちを助けちゃあくれねえか ? 勿論、報酬はそれなりに支払わせてもらおう」

「貴様 !! 勝手に口を開くんじゃない !」


「審問会も終わったのでしょ ? なら、少しお話しするだけなら、いいんじゃないかしら」

「ふう、まあ、手短に頼む」

「ありがてえ、報酬は金貨百枚でどうだ。 足りなきゃ多少の上積みも考えてやる。 どうだいお嬢さんよ、悪くねえ話しだろう」


 ヴァレンチノ家のお嬢様は、《むろん》無論ジュリ・ナデリカである。 そして、《かたわ》傍らに控えているスーツの男女は、ミシェータ・アベルニキュア、そしてもう一人の男性は黒沢かづきであった。 ここで一つ、疑問を感じるのが、審問会の議長を務めていた仮面の男であろう。


マスクと黒いマントを身につけた仮面の男の正体は、実をいうとミシェータの従者でゴーレムのアロンであった。 なぜ、巧みに言葉を《しゃべ》喋っていたかというと、マスクの内側にスピーカーの役割を持つ魔導具が備え付けられていたからだ。 つまり、かづきが別の部屋から部屋の様子を見ながら、喋っていたのがその真相のカラクリである。


そして、ジュリナに向かって、上から目線で取引きを持ち掛けているのが、このグループのリーダー格であるのアンドレイである。 確かに、彼の提案する金貨百枚の報酬は、悪くない条件である《はず》筈だ。 しかし、彼らを捕縛した際に持ち物検査をしたが、全員の持ち金を全て合わせても金貨三十枚程しか満たなかった事も承知している。


つまり、残りの報酬は、自国に戻っての後払いという事であり、実際に支払われるかどうかは不透明だ。 勿論、かづきがこうした取引きに応じるわけはなく、目で合図を受けたジュリナは、アンドレイの話しを無視すると、議長の仮面の男に話しかけたのであった。


「で、この者達は、いったい何をやらかしたのかしら ?」

「そうですな、端的に言えば、こ奴らは我が国に不法に分け入った挙句、女媧族を殺害及び拉致し、わが国の民に隷属の首輪を強制的にはめ、無理やり強制労働をさせたなどといった罪が主なものですな」

「まっ ! そうなの ? で、これから本国お送りになる訳ね」


「左様、まあどの道、自国へは戻れますまいて」

「そうね、罪の軽度にもよるけど、ニショルクサ王国でも、拉致監禁は重罪、殺害や強制的な隷属は死刑っていうのが相場だしね。 仕方が無いわね」

「日ごろ取引きいただいているお嬢さまに、そう言っていただけると⋯ では、これにて閉会⋯」


「ちょ、ちょっと待ってくれないか、ニショルクサ王国のヴァレンチノ家のお姫さま」


ジュリナたちが踵を返し、部屋を出ようとするのを引き留めたのは、『走破の槍』リーダーのケーヒンであった。 《いらだ》苛立ちが極限に達したのか、いつもの冷静なケーヒンの姿はそこに無く、悲壮感に《あふ》溢れた声が部屋中に鳴り響く。 退出しかけたジュリナは足を止め、ゆっくりと口元にハンカチを押当て、冷静な受け答えで事を収めようとした。


「あら、物憶えが良いのね。 貴方お名前は ?」

「わ、私はヴァレンシア皇国の小さな町で、冒険者をやっているケーヒンと申します」


ケーヒンは、自国の挨拶なのだろう、つかつかとジュリナの元へ歩み寄ると右手を優雅に回し、丁寧なお辞儀の仕草をしてみせた。


「せっかくだけど、冒険者にはあまり興味がないの」

「はい、勿論承知しております。 しがない冒険者ですが、こいつら四人の仲間の減刑をお願いしたく⋯ 報酬は私の持っているもの全て。 無論、奴隷でも何でも、私の命はご自由になさって構いません」

『リーダー !』


仲間達の手を振りほどくようにして、ジュリナの足元に《ひざまず》跪くと、ケーヒンは涙ながらに堪えかけるのであった。


「そうね、価値があるがは別として、現実味のない百枚の金貨よりも、貴方との取引きの方が現実性があるわ」

「そ、それじゃ、お助け下さるのですか ?」

「いいえ ? それはこれからの取引内容次第よ」


 自分達が助かるかもしれない一筋の光明に、先ほどのアンドレイが口を挟むが時すでに遅し、これまでに関わって来た悪事の実行犯だった事も露見しており、誰が見ても救いようの無い状況であった。 特に、重い処罰が予想される、この隊を率いていたアンドレイと副官、そして魔物使いの男ら三人は引きずられるように穴蔵へと戻される事になった。


結局、形としては、ジュリナのとりなしで、走破の槍リーダー・ケーヒンが残り十数人の責任者扱いとなり、女媧族達の支援を名目に減刑がなされ、二十四カ月間この地で労働で《あがな》購う事で決着がついた。 当然、ジュリナによる《コントラクト》簡易契約が交わされ、これを刑罰とする事でプラスマイナスゼロという訳だ。


 ケーヒンは、思いのほか頭の切れる男であった。 三日間ほど綿密な打ち合わせを行い、平面図と合わせてパースを見せながら計画の内容を彼に示すと、興味深そうにその話しを聞いていた。


かづきの計画は、この鍾乳洞全体を保養所にしてしまおうというものであった。 水はふんだんに沸いてくる為、いくつかの天然の棚田状のリムストーンプールを利用すれば、わざわざ浴槽を造る必要も無く、自然情緒あふれた天然洞窟のホテルの完成である。 何カ所かに分けて、休憩所と宿泊所、土産物売り場を設置し、一つのリゾートランドを作り出してしまうという計画である。


勿論、男性の喜ぶ施設を造り、そこでアルコールと共に、女媧族達の手厚いアフターケアを受ける事ができ、彼女達にとっても一石二鳥のシステムが出来上がるのだ。 かづきは、女媧族族長ムクゲとリラに、イヤーカフを授ける事にした。 これで遠く離れていても、的確な指示を出せるのは勿論の事、何らかの危険が迫った場合、素早くアシストが行える。


--------

「さて、思いがけない寄り道だったが、それなりの収穫はあったな。 それに、ジュリナのお嬢さん姿と、ミシェータのスーツ姿は思いのほか眼福だったぞ」

「まあね、私って本物のお嬢さまだもの」

「わたくしの方が、お嬢さまの装いは似合っていたのに」


ミシェータのお嬢さま姿も捨てがたかったが、スーツ姿の彼女が《そば》傍にいる事で、結果ジュリナを余計に際立たせる事に成功したのだ。 すかさず、そうフォローをすると、ミシェータの機嫌はすぐに良くなったようだ。 どちらかといえば、機嫌を悪くしていたのは、出番の少なかったザジオとモモだったのかもしれない。


しかし、それも杞憂だったようで、ザジオは女媧族達と鍛錬に励み、モモは人形制作に時間が取れたとあって、さほど機嫌を損ねることはなかったようである。 


また、鬼人族の四天王のうち、ティターン族出身の戦士ダルザを除く三人は、ここで別れる事と相成った。 念の為、もうしばらく女媧族の村に留まり、安全を確保してい貰う必要があった為である。 かづきたち五人は、ダルザと族長ギガンと共に、これからモガオウガの拠点へと赴く事となった。 当然、本来の予定であった鉱山の査察である。


本来は来た道をもどり、湖沿いに東に向かい、北上するのが最初のルートであったが、ここからモガオウガの鉱山採掘場へと向かうには、そのまま東に山越えのルートが近い事から、飛行艇『白狼号』を使って直接モガオウガ城塞へと向う事になった。 ラグビーボール状の気球をベースとした白狼号は、全長約三十mほどの長さがある。


逆に言えば、それほどの広さの平地がなければ、利用不可能ということにもなるのだ。 周辺は密林のジャングルだが、幸いにして鍾乳洞自体が大きな山になっており、その頂上はほとんど草木の生えていない石灰岩である。 かづきは、女媧族族長ムクゲに許可を得て、この頂上を平らに整地し、発着場を造る事の許可を得た。 まあ、発着場とはいっても、土属性の魔法でただ平らにならしただけの台地である。


エアポートを造ったついでに、簡易エレベーターと監視塔も作る事にした。 山の高さ自体は標高二百mほどだが、辺り数十キロ四方は見渡すことができる為、監視強化にはかなり役立つことは間違いがないだろう。 少し名残惜しいが、女媧族達と別れを告げ、次の目的地へと向う事になった。


「あっ、雪が降ってきたの」

「違うわモモ、これは雪虫っていうのよ」

「雪虫 ? 虫なのこれ」


「どうなのかしら、文献によっては雪の妖精とも呼ばれているわね。 どちらも共通しているのは、冬が近いということだわ。 それから、雪虫に出会えたら、幸せが訪れるとも聞くわよ」

「へーえ、ケサランパサランみたいな奴か。 ロマンチックだな、ミシェータ」

「そうね、ふふ」


そう言いながら、かづきに寄り添うミシェータは、周りの目は特に気にならないらしい。


「ちょっと、くっつき過ぎ」

「まあ、ジュリナ姉さま、ヤキモチ妬かない焼かない」

「膝の上で抱っこされてるモモに言われたくないわ」


「だって、女媧族の村じゃ、かづき兄ちゃんに甘やかされてないもの。 これはモモのご褒美なの、それに船長が他所見してたら事故の元だよ」

「まあまあ、ジュリナも後で可愛がってあげるからな、航行に集中しろ」

「ハアーい」


ギガン族長は、酒とつまみを頬張りながら、気ままな空の旅を楽しんでいるようだが、ダルザの様子は同じ鬼人族でありながら異なっているように見える。



モモ:「うああ、何度見ても、空からの景色は最高だね、ジュリナ姉様」

ジュリナ:「ちょっと黙っていてモモ。 えっと、これが緊急回避ボタンで、これが⋯」

モモ:「むう、ダルザのおじちゃん、きれいよ見てみて」

ダルザ:「ダルザ、十分堪能した」


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