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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
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異世界探求伝 第百六十八話 審問会始まる

相手をほぼ無傷の状態で、捕らえることに成功したかづきたちだったが、事後処理の問題で女媧族とかづきの間には、大きな隔たりがみられたのだった。

 話しの内容をしばらく聞いていたミシェータが、困っているかづきにアドバイスを送る。 こう見えてもミシェータは、魔物の生態に造形が深いのだ。 今回この村へとやって来た際も、最初は《こわごわ》怖々であったが、彼女たちに近づき、最終的にはかなり親しくなり、言葉も多少理解できるようになって来ていた。

「カヅキ、人族の倫理観や正論は、ここでは通じないわよ。 女媧族達は彼らを殺す事も、別に望んでいないわ」

「え ? だって、人族に討伐されて、素材を剥がされるんだぞ」

「うーん、素材って意味なら、アンスロープは長い髪が、セリアンスロープは毛皮や長い尻尾がいい素材になるわよ。 それに、女媧族達はサキュバスと同じように、同族間で繁殖ができないの。 だから、人族を殺すことはないわよ」


「そうなのか ? だって、捕えてきた時には、怒りの《ぎょうそう》形相をしてたじゃないか」

「さあ、それはどうかしら。 大量に人族の男を見て、興奮してただけじゃないの ?」

「あれ ? ミシェータ、念の為に訊くが、女媧族は敵討ちがしたいんじゃなく、男の精が欲しいだけなのか ?」


「うーん、それが全てじゃないと思うけど、基本的には弱いものが狩られる世界だし恨みとか、つらみとかは希薄なんじゃないかしらね、ねジュリナ」

「そうね、私たち人族も、強いものには従うっていうのが根底にあるから。 勿論、強いって言うのは、力だけてっわけじゃないわよ」

「そうか、ここでは、ここでのやり方が必要なんだな」


確かに法による裁きは、あくまでも人間的な解決法ではあるが、それはあくまでも人の法である。 うがった見方をすれば、人による都合の良い解決法だと理解すると、逆に女媧族側に有利である事が前提条件だということもおのずとそれが道理だと気づけるはずだ。


「最初から、法による裁きなんか、法律家でも無い俺達には無理があるんだよな」

「それもあるけど、私たちがそれを決めるのも、何か違う気がするわ」

「ぷむ、道理だな、ここはムクゲ族長に、意見を聞くとするか」


齢百年を超えるとされる女媧族の族長は、小柄だがやはりというか、それなりの威厳を持ち合わせている人物だ。 族長の意見は、女媧族達の総意とも言えるもので、どのような決着を見たとしても、それに異論を唱える者はいないだろう。 それは、鬼人族にとっても同様で、族内の決めごとは総て族長に一任されるのが常である。


族長ムクゲとの話し合いは、長時間にわたって行われる事になる。 女媧族達の法律は無くとも、当然掟というものが存在している。 しかし、あくまでも掟は、同族間だけの取り決めであり、守りごとや約束事に近いものである。 従って、余程の事がない限り、同族間での殺し合いや命を取るという事は行われていいないという。 だが、ここでかづきらは、恐るべき事実を知る事となった。


「そうじゃな、魔物化やったら、狩る事になっとるけんが」

「おい、婆さん ! 魔物化ってあるのか」


ミシェータもジュリナも合点がいったようで、お互いに《うなず》頷き合っている。 かずきも、この世界の理がよく理解できないでいたが、どうやらこれが核心のようであった。


「ムクゲさん、その魔物化の事を詳しく教えてくれないかしら」

「ええよ、魔物化っちゃ⋯」


ムクゲ族長の話しによれば、女媧族が魔物化した場合、目は血走り攻撃性が増すという。 異様に血肉を欲し、理性は失われるが、身体能力は向上し、仲間であってもところ構わず攻撃する。 初期状態では、高熱にうなされ、食欲減退及びけん怠感で寝たきり状態となるが、その後一連の症状が発生するのだという。

 

「治らないのか ?」

「治療方法があれば、こっちが聞きたいくらいっちゃ」

「なんか、狂犬病みたいだな」


「きょうけんの病 ?」

「そうだな、噛まれたら感染する病気だな」

「グールとかゾンビとかに、噛まれたら発症するんじゃないのか ?」


「さア、聞いたことないわね でも、ヴァンパイアの話しなら、伝説程度には」

「ふむ、その辺は専門家に聞くしかないな」

「そうね、幸い、知り合いにロナードさんがいるし」


「ああ、奴か。 ズナンのギルドマスターなら、その辺は詳しいだろうな」

「とにかく、女媧族が魔物化して、ラミアって呼ばれているのは確かみたいね」

「で、婆さん。 女媧族が魔物化したらどうしてたんだ ?」


「勿論、土に返すしか無かろう」

「それって、殺すしかないって事か ?」

「そゃね、魔物に変化せんうちに殺らんといけん」


いずれにせよ、原因が何かは分からないが、魔物化自体が存在することが分かった。 かづきの元いた世界でも、ウイルス感染する狂犬病や、遺伝子の変異によって凶暴化することはよく知られている。 この辺を理解していくことが、温厚な女媧族や鬼族達が魔物と呼ばれている原因を、探ることにつながるかもしれない。


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結局、女媧族族長ムクゲの希望に沿って、捕縛したラミア討伐隊らに関しては、そのまま確保しておきたいといった意向を尊重する事となる。 ただ難問としては、女媧族達にはこれといった法律はなく、法で裁くといった方法は採りにくいところだろう。 したがって、裁判といった方法では無く、審問会といった形で双方の意見を聞く形ですり合わせを行っていく事となる。


数日後、まずは個別に取り調べが行われる事となった。 女性らはミシェータとジュリナに任せ、男性らはすべてかづきが行う。 取り調べとはいっても、聞き取り調査に近い形で行われ、害意は特に見られなかった為、拘束もすべて外され、武器類以外はすべて相手に返された。 とはいえ、男性たちの穴蔵生活は変わらない為、一日に二回は数人ずつ外へと連れ出し、沐浴や軽い運動を行わせている。


これは健康の為、運動不足を解消といった意味を持つものだが、周りには女媧族達が大勢いる為、それに慣れてもらおうといった計らいの含みもある。 また、洞窟内には、多くの横穴や竪穴があり、穴蔵生活から解放する為の居住区も作られ始めた。


「ふう、一日二回外に出してくれるのは有り難いが、あの穴蔵はどうも窮屈で仕方がないな」

「だな、牢獄の方がましなのは間違いない」

「なあ、俺達奴らに喰われるのかな ?」


「それは無いだろう、カルス。 今のところ全員揃っているし」

「ま、ラミア達の熱い視線が気になるが、連れてこられた日の邪悪な目ではないな」

「ケーヒンの言う通り、食事も温水で水浴びもさせてくれるし、穴蔵の便所も臭くないから、俺は悪くないと思ってるぞ」


「オイオイ、あの娘すげえ別嬪だなあ。 こっちを見てる、俺を誘ってるんだぜクラビス」

「ハハハ、喰われるんじゃなくて、お前が食うんじゃないのか、ネイルに言いつけるぞ」

「べ別に、付き合っているわけじゃないからな」


「て言うか、ヤレるのか ?」

「だな、足がないからなあ」

「そこだ、そこが妙にそそるんじゃないか」


「本気か ?」

「しばらく、やってないからな。 へそから上だけなら、上等の娼館でも通るぜ」

「ま、確かにな」


「オイオイ、本当に行くつもりかカルス ?」

「ちゃんと、穴があるか確かめないとな、アハハ。 ちょっと、そこのお嬢さん」

「本当に行っちゃったぞ、どうするケーヒン」

「ほっとけ、どうせ痛い目見るだけだろう」


 数日後、かづきら主導のもと、審問会が執り行われる事となった。 とは言え、既に取り調べと言うか、世間話しの中で、ラミア討伐隊イコール女媧族の確保といった図式が、共通の認識となっているので会話のテンポはかなり早い。 なお、自称ラミア討伐隊のメンバーがすべて揃うのは、初日に捕縛されて以来初めてのことである。 


取り調べと世間話しの中で、主に女媧族達を捕らえる為の実働係、雇われて参加した準実働係、そのほかの役割とにグループ分けを行い、一日二回の行動中にも口裏を合わせにくくする為、ほかのグループとの混同を避けていたのである。 つまり、審問会とはいえ、査問といった意味合いの強い審理となる。


審問会の場は、洞窟内では奥まった場所で、三十名ほどは余裕で入る事のスペースがある。 正面には、段差のある審議員の椅子が並べられ、中央には仮面の男が黒のフードを身に《まと》纏い議長を務める。 両サイドには、女媧族族長ムクゲを始め、槍の名手シブキやリラなど、女媧族でも主だったメンバーが着席し、ひときわ大きな椅子にモガオウガ族長ギガン・ティックも坐っている。


そして、部屋となっている洞窟内の四方には、それぞれ一族を代表する勇者、青黒い肌と二本の角を持つアボーン族魔戦士、モウレシキ・ムット、褐色の肌と羊のような二本の角が特徴であるリナレス族魔戦士、ジャグニ・ムット、色白の肌そして短い角のティターン族の戦士ダルザ・グルモ、紅褐色の肌とカラフルな刺青が特徴の、ノツカサド族の戦士アジサ・グルモらが、それぞれに槍を持ち控えている。


『ざわざわ、おいおいオーガだぜ畜生、しかもあれはどう見たって、ロードクラスだぜ』

『私たち、いったいどうなるの ?』


「皆のもの静粛に !」

『しゃ、喋った !』


声を荒げたのは、その中でもひときわ体の大きな、オーガキングとも云えるギガン族長である。 《あらか》予め予想できる人語は、ミシェータから習い、合図によって言葉を発する手筈となっている為、人語を話せるわけではない。 従って、進行は中央に座る如何にも怪しげに見える、仮面の男の主導によって行われる事になる。


「えー、まずは混乱を避ける為に、一通り紹介しておこう。 ここに鎮座する鬼人は、アンチアモン鬼国の代表として来られたギガン・ティック殿と申される。 また、反対側に座るのが、諸君らがラミアと呼んでいる女媧族達の長である⋯」


紹介された者が、いちいち立って頭を下げて挨拶するのは、審問会としては異例の事だが、人族側から魔物扱いされているこの国の人種が、実際には知能も礼儀も心得た人物である事を、しっかりと認識させる意味もあった為だ。 それぞれに、礼儀を踏まえた立ち振る舞いは、彼らを十分に驚嘆させたことは間違いない。


「また、警備として、四人の鬼人達にも護衛の任に就いてもらっている。 それぞれ、⋯族の⋯というわけだ」


審問会は、議長となった仮面の男が不正や過誤について査問を行い、それぞれ三つのグループの代表が、それについて回答を行うといった形式で、これを仮面の男の両わきに控えた審議員が結果を明らかにするといった方法がとられた。 仮面の男のこもった低温の声は、さほど大きな声ではない割に、この洞窟内ではよく響く。


審問の中心となる話題は、やはり女媧族達の拉致といった問題提議であった。


「君達は全員、ヴァレンシア皇国から来たというが、この国が他国という認識はあるのか ?」

「理解はあるが、商人や冒険者は自由に、他国を行き来できる権利がある筈だ」

「俺達は、雇われただけだ。 行き先も、出発直前に教えられたんだ」


「私達もそうよ。 この三人の女の子は別口みたいだけど⋯」

「わ、私達は、隊の身の世話をするただの世話係だわ、お願いだからオーガに、引き渡さないでちょうだい」

「ふむ、申し述べの通りなら、お前達三人はほとんど何も知らされていないようだな。 本当ならば、身の安全は保障しよう」


女三人は、抱き合って喜ぶが、それはまだ気が早いのかもしれない。


「先ほど、商人や冒険者は、他国の出入国が自由といったが、それはあくまでも互いの国が条約や盟約を取り交わして、初めて為し得るのではないのか ? お前達の国は、鬼国の民がヴァレンシア皇国への入国を認めてはいない筈だ。 と言うか、認識はあくまでも魔物扱いで、冒険者ギルドでは討伐の対象だろう ?」

「そうだ、冒険者ギルドだけじゃねえ、ヴァレンシア皇国の民ならば、同じ考えなのは常識だぜ」


「なるほど、ヴァレンシア皇国ね。 では尋ねよう、お前たちの言うオーガが、国境を越えてヴァレンシア皇国の人族を《さら》攫うあるいは殺しに来たらどうするね ?」

「そりぁ、冒険者や国の兵士どもがかき集められ、戦うだろう。 そんなの当たり前じゃねえか、相手は魔物だぜ ?」


「ふむ、それがアンチアモン鬼国と同様の概念であれば、侵略して来たお前たちに対して、殺めるのも特に問題はないな」

「ち、ちょっと待ってくれ。 現在、アンチアモン鬼国とは、一部商人の間で取引きが行われている筈だ。 両国に全く親交がないわけじゃない」

「その通りだが、どちらか一方が入国する際には、正規の入国手続きが行われる筈だ。 お前たちは、不正に鬼国へ入国し、鬼国の民を害しようとした」


部隊を率いる指揮官のアンドレイは、その物言いに対して即座に否定するが、ラミア討伐部隊の冠名が部隊内の間ですでに浸透していることを指摘されると、それ以上言葉を続ける事が出来無かった。




次回、審問会の審判の行方

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