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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
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異世界探求伝 第百六十七話 制圧完了

女媧族達から見れば、ラミア討伐隊を制圧した喜びに、今にも目の前に飛び出そうであったが、それを押さえていたのは女媧族を率いるシブキであった。 彼女の眼には、いまだ完全勝利には結びついていなかったのである。

 戦闘態勢が整う前の、ラミア討伐隊の出鼻を上手く《くじ》挫いた形の女媧族達の作戦だったが、まだ完全勝利というわけではない。 こちら側として最悪なケースは、相手から思わぬ反撃を喰らってしまい、双方共に甚大な被害が出てしまうことである。


討伐隊の目の前に現れたのは、仮面を被った人族であったが、緊張の顔色を隠す意味でも、マスクが必要だった事は言うまで無い。 全身を覆い隠すように、ポンチョ風のフードと角の生えたマスクを被ってはいるが、これは暗に鬼人を真似ようとした訳では無かったのだ。


しかし、相手側からしてみれば、当然の事ながらその貧相な体に、誰しも違和感を感じただろう。 オーガと云えば《きょく》巨躯で、力もヒューマンの何倍もの力を持つ。 実際に、そうしたオーガと対峙した事のあるアンドレ達にとって、恐らくは人族であるとの認識は図らずも的を得ている。


「全員、全ての武器を地面に置き、両手をうしろ頭に付け《ひざまず》跪け」

「おい、お前人族だろ ? 何故俺達を襲う」


仮面の男は、アンドレには返事をせず、ポンチョから隠れていた手を挙げると、何やら指信号のような動作を手早く行い、一本の指を何者かに指さしてみせた次の瞬間、彼らには衝撃ともいえる出来事が起こったのである。


『バショッ!』


怪我で治療を受けていた一頭のオークの頭が、音も無く丸ごと消失してしまったのだ。 いや、正しくは、オークの頭の破裂音だけは、周囲に響いていただろう。 それまで、木に寄りかかっていたオークの体は、そのままずるりと倒れ込むように横たえた。


「何だ !? これは弓じゃないぞ。 しかし、魔法とも違う⋯」


ざわざわとした、不安感と喪失感だけが周囲に広がってゆく。


「これが最後通告だ。 武装解除し、両手をうしろ頭に付け《ひざまず》跪け、そして次のリーダーを決めておくといい」


仮面の男はそう云い放つと、右手を高々と上に掲げ、人さし指を突き出すとゆっくりとした仕草で、アンドレの方に向かってその指を下ろそうとした。


「ま、待ってくれ。 武器は全部捨てる、ほらこれでいいだろ」


アンドレイの態度を、待ち兼ねていたかのように、次々と所持していた武器や杖などを目の前に放り出していく。 中には、上着や靴などを脱ごうとしていた者もいたが、さすがにそこまではといった感じで仲間から止められていた。 


見せしめとしてのオークは、少し可哀想だったが、後々確執を防ぐ意味でも必要な措置であったが、ほぼ全容捕縛出来た事から、満点の出来だったと言えるのではないだろうか。 


鬼人達を連れて来た方が、手っ取り早いとの意見もあるが、意思疎通も図れない彼等であれば、オーガが襲ってきたとばかりに、捨鉢の攻撃で被害が甚大だった事も予想されたのだ。 


「よし、こいつらを縛れ」


マスクを《かぶ》被った男の合図で、周辺の木の上から音もなく降りてきた女媧族達は、マスクの男に言われるがまま、敵をロープで縛り始める。 既に戦意喪失の討伐隊グループは、神妙な面持ちで後ろ手にされたままロープで縛られると、木の枝を口にくわえさせられ、そのままぐるぐる巻にされる。 


数人の慣れた男たちは、そうでもなかった様だが、女の人族達はそうはいかない。 何せ、ラミアといった恐ろしい魔物に捕まってしまったのだから、命の危機が危うい事は身を持って感じられるからだ。 それというのも、先ほど武器はすべて目の前に投げ出したが、さらに身ぐるみこそ《は》剥がされなかったが、所持する持物はすべて没収され、まるで罪人のような扱いを受けたからである。


ここでようやく、事の重大性を把握したのか、女たちはただ震えて泣き崩れるばかりであった。 ただ、走破の槍のネイルだけは、勝ち気な性格なのか強気であるのかはわからないが、一人気丈に構えていたのが印象的だった。 一通り縛り終ると、ようやく緊張の糸がほぐれたのか、女媧族達は足取りも軽くなり、彼女らの村である洞窟の方向へと足早に帰路に立つ。 やがて、洞窟の前へと辿り着くと、先ほどの男と同じようなマスクをかぶった者が、出迎えにやってきたようだ。


「ここからは全員目隠しをして、こっち側の洞窟へ連れて来て頂戴。 広間でカズ、いえ、仮面の男が待ってるわ」


フードから覗く、白い双鬢の後れ毛を隠しながら、仮面の女は女媧族の兵士たちにそう告げたのであった。 女兵士らは二人が捕虜の女たちを誘導し、さらに捕虜の男たちを引き連れ、洞窟の中で何度かグルグルと回され、いくつかの回廊を遠回りしながら、言われるがまま洞窟奥の広間へと連れだっていく。


「旦那っ、捕虜ば連れて来たっちゃ」

「よし、腰縄だけを解いて、全員《ひざまづ》跪かせろ」

「了解っち」


 捕虜になった者たちは、目隠しを外され、自分達が今どのような状況にあるのか、はっきりと見てとる事ができた。 ギガン族長ら、鬼人達の姿こそ見えないが、五十人以上も居る女媧族達に周囲を取り囲まれ、《にら》睨みつけられているのだ。 当然、通路は屈強な女戦士が槍を持ち、それを見て逃げ場は無いと覚悟したのか、暴れようとする者は一人としていない。


だが、その目には、隙を突いていつでも逃げ出そうとする心構えが見て取れる。 その中でも、冷静な判断のできる者だけが、周囲を見渡し潰さに状況を確認しているようである。 全員を坐らせたその先には、何やらいくつもの穴がある。 均等に掘られた穴は、魔物などが作り出した様なものではなく、確かに人為的なものである。


「よし、よく聞けお前たち。 分かってるとは思うが、断りも無しに我々のテリトリーに侵入してきた。 つまり敵として捉えられて来たわけだ。 要は、今のお前たちの待遇は、捕虜ということだ。 分かるな」


「俺達は、ただ魔物盗伐で来ただけだ。 あんたたちを害するつもりはない」

「ふむ、お前がこのグループのリーダーか ?」

「ああ、そうだ。 しがない傭兵家業をやっているが、こうして冒険者として魔物盗伐もやっているのだ」

「そうか」


マスクをつけた男は、そっけなく呟くと、男の首元から見えていたタグを引きちぎり、もう一人のフードとマスクをかぶった者に渡したようだ。


「な、あんた、何でラミア達と居るんだ ? 解放してくれるなら、好きなものを差し出そう。 金か ? 女か ? 好きなものを持って行ってくれ」


マスクをつけた男は、その言葉に返答もせず、周囲に二言三言声を掛け、こもった声でこう喋りかけたのだ。


「今日の所は、ゆっくりとは行かないが、穴蔵で大人しくしていたら後で話しを聞いてやろう」

「なあ、あんた人族なんだろう ? 俺たちを助けてくれよ」


それには答えず、マスクの男は「連れていけ」と短く言葉を発し、男たちが穴蔵へと入れられるのを見ていた。 男達はそのまま促され、奥に設置された竪穴へと、口縄も外され一人一人落とされていく。 口縄を外され、自由に《しゃ》喋れるようになったせいか、幾人かの男は助けを乞うように叫んでいたが、女媧族は淡々と作業を進めていく。


聞く耳を持たず、といったわけではないが、女媧族と捕虜の間には、言葉の壁といった大きな難問がある。 かづきは、方言程度にしか思ってはいないが、実際には互いに言語が異なる為、叫ぼうが罵倒しようが、《しょせん》所詮互いに言葉は通じないのであった。


男達の牢獄として用いられる竪穴は、深さ三mほどで幅は一m程度しかない。 穴の底は椅子のような構造で、木の蓋を開けるとそこにはプリア・スライムが生息しており、用を足す仕組みとなっているのだ。 当然だが穴は細く、出入りできる隙間などはない。


ここで、気になるのが、男達の口縄を解いたことであるが、周囲には魔力を散らす魔法陣が張られており、万が一魔法を唱えようとしても、魔素として周囲に飛散してしまう仕組みとなっている。 これは、以前かづきが、カシイ村で襲撃を受けた際に使用された魔導具を、一部改良したものだが、効果は高いが広いエリアに展開する結界などと同様に、四カ所同時に設置しなければならない面倒臭さがある。


「女五人は、こっちへ連れて来て頂戴。 あっ、目隠しをして頂戴ね」


どうやら、捕虜の女性達は、別の場所へと移動するようである。 すでに、泣いて居る者こそいないが、うなだれたような仕草は、すでに捉えられたことを自覚している様子、といったところなのであろう。


ところで、残ったオーク達の処遇であるが、当然の事ながら好んで人族たちに使われているのでは無さそうだ。 別の部屋で、鬼人達に預けていたが、集落を人間たちに襲撃され、捕えられた後、絶食に近い状況で飢餓状態にされ、命と食べ物とを引き換えに、コントラクトによる隷属を強要されたらしい。


コントラクトは、隷属の制約の中でも、一般的な契約方法で、本人さえ納得すれば隷属させ奴隷とする事ができるものである。 一般的な隷属契約とは言え、当然雇い主には逆らうことができない。 鬼人達もゴブリンやオークを従えるが、奴隷というよりも、共存に近い関係なのだそうだ。 ともあれ、どちらにせよ、オーク達の希望を汲んで、隷属を解除させるか、それ以外の方法が必要であろう。


 一方、穴に放り込まれた男達は、以外にも大人しくしている。 というよりも、土魔法が得意な幾人かは、何度か脱出を試みた様だが、当然の如く魔法を霧散させるは道具のせいで、魔力を浪費し過ぎて疲れたのであろう。 何せ手で掘ろうにも、貝殻などと同様の成分で出来ている石灰岩は、硬すぎて人の手にはどうにも手に余るだろう。


何せ穴をよじ登ろうとも、上部が狭く下部が広めの造りの穴はつるつると滑り、中途半端な狭さがり足を踏ん張っても決してよじ登ることができない構造となっている。 周囲には、いくつもの穴があるが、声はほとんど届かず穴には蓋がされているので、真っ暗闇の中という事になる。


そのうち、穴の蓋が開き、暖かな飲み物と食べ物が振る舞われると、もう大人しくするしかないといった心境も、やがて芽生え始めるというものである。 ただ、この穴の中に女性を押し込むのは、かづきの生まれ育った環境と倫理観からか、当然男と同様に扱う事はできない。 仕方なしに、別室のほら穴に連れて行き、ミシェータたち女性陣にあとは任せたのは、かづきのそんな心づかいからであった。


「どうだった ? ミシェータ」

「そうね、今日のところは何も聞けそうに無いわね。 今食事を与えたところよ」

「そうか、ま、話しは落ち着いてからだな」


 どの道、逃亡は不可能に近い状況だろう。 魔封じの首輪を付ける事も考えたが、やはり同族にそんな仕打ちは酷というものである。 実際、今回の相手は、こちら側に攻撃を仕掛けてきた訳ではなく、いわば不法侵入みたいなものなのだから、この国の法律の在り方さえ把握していないかづきにとって、手に余るというものだ。


しかし、女媧族たちの心情は、当然かづきらとは大きく異なっている。 それもそうだろう、自分たちの仲間を連れていかれたうえ、その生死さえいまだ判明していない。 何人かは、今にも相手を殺しそうな雰囲気であったことは、怒りに満ちた眼を見れば間違いのない事だろう。


「あいつらどうするの ? 」

「それについては、少し考えがあるんだ」


この三日間、一人ずつかづきの元へ呼びつけ、尋問を行ったのであるが、白か黒かといえば灰色というのが彼の素直な感想であった。 今回、女媧族討伐隊として、遠征に参加している彼らだが、口にははっきりとは出さないが主導を握っている幾人かは、実際に前回の討伐にも参加しているのは間違いない事は《つか》掴めた。


また、捕まえられた女媧族たちは、かづきの想像していた通り、素材としてその美しい鱗が、高額で取引きされているのだという。 勿論、彼女たちには決して言えないが、ラミアとして人族達に魔物扱いされている限り、同じことが繰り返される事は間違いのない事実だろう。


女媧族たちにとって、敵討の色合いが強かったその感情だが、これについては女媧族全員を呼びつけ、根本的な解決とはならないことを《こんこん》懇々と訴え続けたのだ。


「今回、奴らを殺したとしても、メンバーを代えてまた奴らはやってくるぞ。 それに、奴らも仲間を殺されたと知ったら恨みも《つの》募り、同じ事が繰り返されるだけだ」

「なぜ殺す ? 女は鬼族にやるけんが、男はこっちに貰うっちゃ」

「!? えっ」


どうやら、話しはうまくかみ合わないようである。 

女媧族側の損害も無く、敵をうまく捕らえたのは良いが、女媧族族長ムクゲとの間には、誤解と言うかどこかすれ違いがあるようだ。 

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