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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
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異世界探求伝 第百六十六話 来襲

ラミア討伐遠征隊が迫りくる中、女媧族の村ではかづきの指揮の下、着々と襲撃に向けての準備が整っていた。

 一報が入ったのは、夜が明けて間もない頃の事であった。 新たに設けられた《やぐら》櫓から、外敵と《おぼ》思しき一行の反応があるという。 かづきはモモに、その位置を探らせ、全員が《あらかじ》予め決められた所定の配置に就く事となった。


モモの目は、肉眼で一キロ先の物体を、ライフルを撃てるほどの高性能である。 しかも、彼女愛用のミミズクには、スコープとしてコンパクトサイズの遠眼鏡が取り付けられており、より遠くを《のぞ》覗き見る事ができるのである。


モモは女媧族の物見の者から、煙が見えたといった範囲をくまなく探っていた。 すると、およそ五キロほど離れたその場所に、確かに武装しているとみられる団体を発見するに至ったのである。


『コール:お兄ちゃん、北十二時方向敵発見 ! 人族十八・うち女性四、オーク十二:オバー』

『アンサ:そのまま待機、随時定期的に報告せよ、モモ:オバー』

『了解 !』


「よし、全員に通達だ。 敵影北十二時方向、数は全部で三十、うちオーク十二、人族だけは生かして確保しろ。 以上 !」

「了解! クロサワ殿、全員に通達します」 

「ねえ本当に、女媧族だけに任せちゃっていいの ?」


「元々こいつは、女媧族だけの問題だからな。 鬼人は別として、そこに同じ種族の俺達が出しゃばっても、話しがややこしくなるだけだろ、そう思わないか? ジュリナ」

「そうね、かづきの言う通りかもしれないわ。 鬼人もそうだけど、人族の国では女媧族認定されていないのは事実だし、ましてやサキュバスやオーガとか、ラミアは魔物扱いだからね。 ジュリナと同様、私たちもそうを教えられてきたわ」

「そういうことだ。 但し、サポートはするがな」


「ふうん、根本的な解決にはならないって事ね」

「だな、ということで、そろそろ現場に向かうとするか」

「えっ、直接介入しないんじゃないの ?」

「ああ、そこでこいつを使う」


ジュリナとミシェータに渡したのは、顔の表面だけを覆うタイプのマスクである。 ただし、お祭りなどに使うお面というよりも、額から角が二本飛び出た鬼のマスクであった。


「なるほど、鬼人達に偽装するってわけね」

「ま、マスクじゃ偽装には程遠いが、正体を隠す意味なら十分だろう。 それから、チーム竜の外套は外して、これを身に着けておいてくれ」

『わかったわ』


かづきが仲間に渡したのは、フード付きのレーンコートのようなポンチョである。 多少ダボついた着心地だが、ウッディフログの表皮から作られたものだ。耐水性や迷彩色による《いんぺい》隠蔽効果もあり、防御効果も多少あるが、彼らはインナーに丈夫な装備を身につけている為、簡単に言えばあまり目立たない格好をしたかったと言えば、分かりやすいのかも知れない。


「本当は、あまりこいつは着たくないんだがな」

「カヅキは、爬虫類が苦手だっけ」

「いや、カエルの類いが、な」

--------


「よし、この辺で小休止だ」

指揮官のアンドレイの一声で、ラミア盗伐遠征隊の面々は、しばし休憩を取る事になった。 この間に、簡単に腹ごしらえを行い、最終的な指示と確認が行われる。


「しかし、この辺は白い石がゴロゴロあって歩きにくいな」

「ふう、少し疲れたわ」

「ほら、スープがあったまったぞ」


「何? とろみがあって美味しいわね」

「芋と香草や干し魚を、粉末にしてお湯に溶かしたものだ。 親父の所に寄ったついでに貰って来たんだ。 ハハハ」

「オイオイ、干し肉は《あぶ》炙るだけにしておけ」


仲間達で《くつろ》寛いでいた『走破の槍』メンバーだったが、その時少し離れた場所で、何やら鈍い音と男の罵倒が響いてきた。


「何しやがるデメエ !」

「煙の出るものを焼くんじゃねえっていったろうが」

「けっ、肉から油が弾けただけだろうが ! いきなり殴んなくてもいいだろ。 消せばいいんだろ、消せば !」


「おい、待て !」

「あっ」

「馬鹿野郎 !」


殴られたのに《いらだ》苛立ったのだろう。 氏かられた男は、焚き火の火にいきなり水を掛けて消してしまったのだ。 熟練者の傭兵であれば、絶対にやらないことだが、おそらくこの男も雇われ冒険者といったところだろう。 寒くなり大気の冷えたこの季節は、焚き火を水で消してしまうと、大きな水蒸気が煙のように立ち上がってしまうのだ。


呆れて棒立ちになってしまった男の方は、アンドレイの指示で、焚き火の跡を土魔法で覆ったが、煙のように立ち上ってしまった水蒸気は、風魔法でもあまり散らせる事が出来なかったようである。


「ちっ、水蒸気だから、まだましってか」


これ以上言い争っても無駄だとばかり、アンドレイの号令で一行はいよいよ、ラミアの本拠地に向うことになった。


「よし、ここから、あの小高い丘を目指す。 ここからは、前もって指示した通り三人一組だ。 五十歩ずつ離れて横に広がって進むぞ。 目標を補足したら合図を送れ、質問が無ければ以上だ」


三人一組となってしまったが、走破の槍メンバーは、副リーダーのクラビスを始めとするバネッサとカルス、そしてリーダーのケーヒンは、ネイルと同じ組だが残念な事にもう一人は、先ほど怒鳴られていた男と一緒の組となった。 三人組ではあるが、それぞれの組の前にはオークが二頭程先行し、その後を付いていく形となる。


前日まで、このオークに少しビビりがちだった女達だが、魔物使いの話しに少しは納得したようだ。 と言うのも、これら奴隷オークたちは、街の中ではあまり見かけることはないが、船着き場や鉱山などではごく普通に使役されている。 勿論、人族よりも数倍の力持ちの為、主な仕事は荷物運びや鉱石の運搬など力作業が多いが、人族には害のないように調教されていると言う。 


使役されている《しるし》証として、《れいぞく》隷属の首輪が《は》嵌められているが、それとは別にギルドによって去勢が義務付けられている。 隷属の首輪が、正しく作動していれば、本来は何も問題ないのだが、ゴブリンやオーク・オーガなどの風評で、念の為にといった措置なのであろう。 勿論、大人しくさせるといった意味でも、去勢は大いに効果があるのは間違いない。


奴隷オークたちは、腕や頭部などに金属ビスの入った革鎧を身につけ、《さすまた》刺股の様に先端が二股に分かれた槍を持ち、地面の草むらをかき分けながら、先へ先へと進んでいく。 成程、道先案内役としても、壁役としても味方になれば、かなりの安心感はある。


『カラカラカラッ』


「おっ、何だ ?」

「プギヤッ !」

「おい、こっちに罠だ」


奴隷オークたちの、後を歩いていた男たちから、悲壮感にも似た声にならない叫び声が上がる。 行動中は、大きな声を出してはならないとの通達で、風魔法による伝達が使用され、小さな声でもよく耳に飛び込んでくる。


「ちっ、これまで、こんな罠は無かったんだがな。 奴ら知恵をつけやがったか。 どうしますか隊長 ?」

「全員よーく聞け ! オークたちの手当てを優先しろ。 動けない奴は、その場に休ませて置け」


女媧族達の罠は、効果的に彼らを追い詰めていく。 と言うのも、全ての罠に同じものは無く、目の前の邪魔なツタを切った途端、紐に結び付けられた《とげ》刺つきの丸太ン棒が、まるでブランコのように襲いかかってくる罠。


同様に、鞭のように横薙ぎしてくる刺つきの竹製の罠も、かなり極悪である。 前へ進もうとすると体に食い込んで来るし、斜めへ下がろうとすると、そこには更に罠が仕掛けられてあり、地面から突き出た鋭利な杭に悩まされる事となる。


これらの刺には、致命傷となる毒などは塗られていないが、傷口に猛烈な痛みを伴う神経過敏性のキノコ毒が塗られている為、幹部が腫れあがり、発熱や激しい痛みを感じるものだ。


当然、簡易型のヒールの魔法では、毒の成分が体内に残ってしまう為、キュアなどで体内の異物を取り去ってから清めた後、ヒールや創薬のポーションなどを使用しなければならないという事もあり、治療には非常に手間がかかる。 


「くそっ ! こっちは動けねえ、致死性の毒じゃないが、ポーショーンだけじゃあ、痛みで動けねえぜ」

「くっ、こっちもキュアを頼む」


回復魔法として、ヒールを使える者は何人か居るが、中級のキュアを使えるものは、走破の槍のネイルを含め三人しか居ないのも、大きく足止めを食ってしまった理由である。 勿論、解毒のポーションはあるが、効果はあくまでも毒の中和である。 今回の毒は、生死にかかわる毒性は無いとはいえ、タイプの異なる解毒のポーションでは全く無意味という事になる。


『ヒュッ、パスッ!』


様々な罠によって、隊列が乱れたところに、見えない位置から狙い澄ましたかのように、何本もの矢が飛んで来る。 誰もが、静止してしゃがみこんでいるのだから、これ以上に狙いやすい的は無い。 飛んで来るどの矢も、正確にふくらはぎや太ももに突き刺さり、先程と同様の毒が塗られていたのだろう、激痛に顔を歪めて痛みに耐えきれず、大の男が涙を流す姿さえ見え隠れする。


「敵襲だっ! 防御障壁を張り、盾を構えろ。 応戦だ」


そうは言っても、かづきの助言によって、女媧族達は既に茂みの中に潜んた状態で矢を射こんでいるのだ。 木の幹に尻尾を巻き付け、高い位置からの攻撃は、通常の索敵で場所を把握していても、なかなか見破れるものでは無い。 


しかし、矢の飛んでくる角度と、風切り音である程度の場所は特定可能である。 仲間内の数人は、矢の飛んでくる方向に戦闘用の矢、あるいは魔法の水矢や風矢を撃ってはいるが、なかなかに当たる気配が無い。 それというのも、女媧族の戦士達は、何射かをこなすと器用に別の幹へと飛び移り攻撃を仕掛けるので、場所がなかなか特定できないでいるのだ。 


万全の防御障壁であったが、女媧族達は矢の種類を変え、再び攻撃を仕掛けてくる。 威力の上がった《やじり》鏃は、数発のうちに強固な防御障壁をも打ち破り、念のために構えていた盾をも打ち抜いてしまったのだ。


「くそう、何だこの矢は !? もう一度障壁を張り直せ」

「こっちに、回復と魔素ポーショーンを回してくれ。 血が止まらねえ」

「くっ、いったいどうしたってんだ。 場所は知れちまっているし、どこから攻撃しているのか分からねえ。 このままじゃ、じり貧だぞ、どうするアンドレイ」


流石に場数を踏んでいるのか、指揮官のアンドレイの班だけはほぼ無傷な状態である。 しかし、副官らしき男が述べたように、このままでは、魔力もポーショーンも尽きてしまい、姿が見えない相手に対して後がない事は明らかな事実だ。 隊の責任者として、アンドレイは撤退か対策を講じるかを、考えあぐねていたその時であった。


『お前が、指揮官らしいな』

「だ、誰だ !? これは、レソナンスの魔法か」


レソナンスは、風魔法の音声を伝える為の魔法である。 但し、一方的に相手に送るもので、風向きによっては相手に声が届きにくい場合もある。 兵士の間では、伝達方法の一つとして、一般的に使用されている魔法だ。


『近いから、よく聞こえるだろ。 まあ、《ありてい》有り体に言えば、降伏勧告ってやつだ。 これまでは、手加減してやっているが、返答次第では息を止める事になる。 時間は1分だけやろう。 だが、逃げようとすればわかるな。 降伏の印は、木の棒に白い布きれを結び付けて、大きく横に振るだけだ。 以上』


風魔法であるレソナンスの魔法は、当然特定の誰かだけに送れる音声ではない。 辺りに鳴り響いた声は、当然隊の全員の耳に入り、誰もが隊長であるアンドレイを見つめ、その《いっきょしゅいっとうそく》一挙手一投足に目を凝らしている。


最大の戦力、そして肉壁としての役割も果たせず、《まんしんそうい》満身創痍で手当てを受けているオークの姿と、足を射抜かれて治療を行う部下の姿を見て、アンドレイはがっくりと肩をうなだれ、意を決するように配下に命じるのであった。


「おい、そこの棒きれを拾ってくれ」


白い布を棒に巻き付け、部下に旗を振るように命じたアンドレイは、何があってもよいようにと、部下達にいつでも攻撃できるように準備をさせていた。


「いいかお前ら、合図をするまで、決して手出しをするなよ。 言葉が通じる相手なら、どうとでもなるからな」


あくまでも、強気な構えを崩さないアンドレであったが、これは配下を率いるものとしての《きょうじ》矜持でもあった。 鏃の破壊力も目を見張るものがあったが、それ以上の戦力を有しているのか、それを見極めなければ、その先どう転ぶのか彼本人にも分からないからだ。


旗を振ってしばらくすると、茂みの中から一人の男が、ゆっくりと歩いてきた。 頭からすっぽりと、魔導士が身に着けるようなフードの様なものを被り、顔には仮面のようなものを着けているが、額からは二本の角が生え、いかにもオーガだと言わんばかりの姿であった。


ラミア討伐隊の出鼻を、くじくことに成功した女媧族達の作戦だが、問題はここからなのだろうと、さらに緊張の手を緩めることはできないかづきであった。


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