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異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
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異世界探求伝 第百七十話 いざモガオウガの地へ

女媧族の村を飛び立ったかづきら一行は、しばし飛行艇での旅を堪能する事となった。 一つ山を抜け、谷あいを森林沿いに北東へと進む航路は、約一日がかりの工程である。


挿絵(By みてみん)



 船の名称が白狼号という事もあって、当然の事のようにジュリナが船長として舵を握っている。 ゴーレムのアロンによる自動航行も可能だが、メンバーの何人かは操縦に慣れておいてもらわなければならないのも事実だ。 実際に、空を滑空する魔物も存在する事だし、いざ戦闘となった場合、遠距離の攻撃方法を持たないジュリナは足手まといになる可能性も高い。


地図作成も順調に行っている。 当初は、地図作りはモモの役割であったが、現在はゴーレムのアロンにその役割を譲っている。 体重の重いアロンは、小さな気球に乗ることは難しいが、白狼号は搭乗者三十名まで乗ることができる為、ゴーレムのアロンにとっても安全な地図作成が可能なのだから。


「ほう、やっぱあ、こん飛行艇ちゆうんは早かばい。 もうこげなとこまできちょる」

「ふむ、うむ⋯むむむ」

「ダルザは、空の上がよっぽど怖いんだな、もうすぐ着くからな。 モモ、ダルザの汗を拭いてやれ」


「ティターン族戦士ダルザ、怖いものなどない。 土中龍とも戦った勇者」

「そうか、今から降りるが、それなら安心だな。 ハハハ」


ジェットコースターや飛行機など、上昇する時よりも下りるときの方が怖い。 急激に上昇する際には、脚や腹筋などに力を入れ、Gが掛かってもある程度の対処が可能だが、逆に重力の負荷が軽くなるとその対処法がほとんど無くなる事と、こうした感覚が非日常であるからだ。 高い所から落ちる夢見で、慌てて跳び起きるといった経験は誰しも味わった事があるだろう。


やがて飛行艇は、モガオウガの城塞の見える範囲へようやく到達したようだ。 空から見ると、かなり小さく見えるが、城塞というだけあって、山の麓に構築したまさに山城といった風格がある。 白狼号が近づくにつれ、モガオウガ族の戦士らしき者たちが手に武器を携え、やはりというか大騒ぎしているようである。


「ギガン爺ちゃん。 あの騒ぎ、どうにかできるか ?」

「任しちょけ、オラアー !」

「うるさい !  ちょ、ちょっと待ってくれ。 風避けの障壁で音が⋯ ミシェータ、頼めるか」

「いいわ、ちょっと待ってね、ギガン族長」


 飛行艇白狼号は、比較的低空を飛ぶ仕様だが、それでも地上から千mもの高度がある為、地上との温度差が六℃は低くなる。 夏場は快適な気温が期待できるが、既に外は冬の気配であり、風を遮断するとともに、万が一の衝撃物に備えて自動的に障壁が張られているのだ。


ミシェータは、拡声機代わりに使用される『ドラフトゥ』の魔法を唱えた。 拡声機と異なるのは、音の増幅を行うのではなく、声の空気振動を一つの塊として打ち出す事で、障害物にぶつかると、その場で音声が周辺に拡散される仕組みで、あまり長い距離を飛ばすような事が出来ないのが欠点である。


『わしじゃがのお ! 客人ば連れて来とっとうとーけんが、そこん広場空けちょけ !』


 ギガン族長が身を乗り出し顔を見せると、飛行艇に乗り込んだ人物が誰なのかが分かった事で、先ほどの戦闘態勢は解かれ大きく手を振る姿も見受けられる。 やがて白狼号は、徐々に高度を下げ、人のいなくなった広場に着地する事に成功したのだった。


白狼号は、五十名ほどの鬼人達にすぐに取り囲まれ、不思議そうに飛行艇に触れようとするが、族長に一括されると仕方なしに遠めから眺めるだけにしたようだ。 ギガン族長と胸をドーンと突き合わせ、軽く抱擁を交わしているのは、この砦を守る責任者ガガンである。 他の者はいつの間にか周囲に散らばり、片膝をついて《こうべ》頭をたれ、族長たちに敬意を表しているようである。


ギガン族長から紹介され、余所から来た者の挨拶である、両の《てのひら》掌を広げて見せ軽く頭を下げる。 今回はギガン族長の客人という事もあって、正式な挨拶ては無く略式の挨拶で済まされる。 しかし、驚く事に、将軍と同等の位を持つであろうガガンはその後片膝を着き、かずきに敬意を表したのであった。


後で、ダルザに聞いたところ、一般の客人では無く、国賓扱いという事でそうした扱いになったらしい。 《とりで》塞は城塞といったものに《ふさ》相応しく、レンガ造りの高い壁に覆われている。 山の《ふもと》麓の高台という事もあり、かなり見晴らしが良く、南側には広い大森林が見え、北西から北東にかけて冠雪した三千m級の峰が連なっているのが見える。


 モガオウガ城塞があるのは、当然の事であるがヴァレンシア皇国との国境沿いである。 同時に、北部の国境を越えた先には、ウエルネット火山があり、多くの竜種の住み家として名高い危険な場所だ。 国境の先には、徒歩で数日もかかるブロードの町があるだけで、皇国の軍事的拠点などもほぼ皆無である。


詰まる所、モガオウガ城塞といった拠点を構えている意味は、翼竜を始めとする竜種に対する対策と言えるもので、およそ人対策とは思えない程のバリスタや投石機が周囲に配置されているのも、魔物対策ならばこうした重兵器の設置が《うなず》頷けると云うものだ。


飛行艇が着陸した時点では見かけなかったが、族長の客人と素性も明らかになり、モガオウガ族の女たちも建物の中から小走りにやってくる。


「よう、来らっしゃいました。 モガオウガ族一同、皆さんをば歓迎するけんね」

「ああ、長居はしないが、しばし世話をかける」


モガオウガ族の女は、同族の男よりも少し薄い緑のかかった若草色の肌である。 ティターン族であるダルザと同様に筋肉質で、派手ではないが他の種族と同様にエビル紋々を入れている。 かづきの持つ魔物図鑑では、薄緑色のオーガが描かれており、討伐ランクはBで気性はかなり荒く、オークなど他の種族を従えるとの表記がみられる。


確かに、知り合ったばかりのギガン族長は、かなり気性の激しさを感じたが、打ち解けてみると決して理不尽や暴虐無人といったふうでは無く、むしろ勇気ある誇り高い戦士といった印象がぴったりである。


北にはウエルネット火山のあるこの地域は、地下に多くの水源のある温泉地としての側面も持っている。 ただ単に湧き出る潤沢な温泉は、建物内にまで引き込まれ、源泉を使った高温の蒸し料理や獲物の皮剥ぎや、毛や羽根をむしるのにも随分と重宝しているようである。


 かづきら一行は、温泉があると聞くと、すぐさま浴場へと向かう事にした。 案内された場所は、塞の二階部分に外にせり出すようにして造られた簡単な岩風呂であったが、ウエルネット火山から少し離れた位置にある為か、透明度はかなり高く、匂いもさほどきつくないアルカリ性温泉のようであった。


アルカリ泉質は、さらりとしたお湯だが、肌にまとわりつくようなスベスベ感が特徴的である。 良く、美人の湯と呼ばれるのがこうした泉質で、お湯に浸るだけで老廃物を綺麗に洗い流してくれる役割があるのだ。


「ふう、火山があるから温泉が気になっていたが、まさかこの城塞の中に温泉場があるとはな」

「ほんと、初めて温泉に浸かったけれど、今までかづきが作ってくれたお風呂とは全然違うのね」

「まあな、火山には多くのミネラル分が含まれているからな。 これはヌルっとした肌心地だから、アルカリ泉質だな」


「アルカリ泉質って、何か薬効があるの ?」

「ああ、ジュリナ。 美白効果があるから、美人の湯とも呼ばれているな」

「えっ、美人になれるの ?」


「傷や関節痛にもよく効くぞ。 周囲に白い湯気が立ち昇っている所を見ると、湧出量も豊富なようだ」

「持って帰りたいわね」

「そうだな、俺の収納袋には大量に入るから、一週間分くらいは貰って帰ろう。 ハハハ」


「うーん、温泉には文句ないけど、気を抜いたら溺れちゃいそうね」

「だな、鬼人族基準で作ってるだろうし、俺達にしたら立ち湯だな。 そうだ、モモにはこれをあげよう」


いついかなる時も、かづきは自分の収納袋だけは何処にでも持ち込む癖がある。 中から取り出したものは、一抱えもある水運搬用の革袋だが、ただ単に空気を入れれば、浮き輪代わりにもなる。


「わあい」

「おいこら、足をバタバタするんじゃない !」

「ゴメーン」


「おーい、ザジオ。 本当に一緒に入らなくても良かったのか ?」

「を、おいら、白巫女様の警護役でもあるから、だ、大丈夫 !」

「ちょっと、かづきやめてよね」


「何を言うミシェータ、古今東西正式な温泉場は、男女混浴が普通だぞ」

「嫌よ、かづき意外に肌を見せるなんて ! ね、ジュリナ」

「当たり前じゃない。 ザジオっ ! 覗き見したら殺すわよ」


「いえ、決してそのような。 白巫女様の玉のお肌などを一瞥しようものなら、目が潰れちゃいます」

「そう言えば、お前達一族の移動の話しはどうなった ?」

「もう既に移住が始まっているみたいだぜ、あんちゃん」


「そうか、困ったことがあれば、クラークに相談すればいいからな」

「そう言えば、夜中に時々遠吠えしてるのザジオでしょ ? あれは仲間との連絡 ?」

「ヘッドハントの仲間との定期連絡だぜ、モモ」


「へーえ、便利だよね。 言葉みたいに送れるんだ」

「いんや、送れても要点だけだな。 それに、夜中しか声が通らないから、少し不便だぞ」


ヘッドハントとは、人狼達だけで構成されたメンバーで、連絡網としては辺りに散らばっている一部の狼を仲間とし、夜中の遠吠えを真似る事で、伝言ゲームのように遠くまで意思の疎通を図る事ができるものだ。


「さて、これ以上長居すると、《のぼ》逆上せてしまいそうだな。 髪の毛を乾かしてやるから、交代で上がってこい」

『アーい』


 歓迎会は、広場で何カ所かに設置された《かまど》竈と《かがりび》篝火の炎で、《さすが》流石に昼間とまでは行かないが、夕暮れ程度の明るさは十分に確保できている。 急な来訪で、料理にはさほど期待はしていなかったが、低めのテーブルの上には、様々な山の幸が並んでいる。


この国独自のパン『クニャペ』の香ばしい匂いと、木の実を炒ったものや干した果実、豆や根菜類など種類もかなり豊富である。 大皿に大胆に盛られた焼き魚は、恐らくはこの周辺で取れた川魚であろう。 他にも、鴨に似た大型の鳥『ヒシクイ』や山鳥などの丸焼きも豪快に盛られ、竈の傍にはステーキ肉のように分厚く切られた生肉やトウモロコシのような野菜も並べられて行いる。


この《かまど》竃は、バーベキュー用の為に設置されたようで、二mほどの縦長に軽く穴を掘り、丸い石を底びっしりに並べ、大量の薪をくべている。 穴の周囲には、煉瓦というよりもブロックのようなものを積み重ね、横には薪が炭になった後乗せるのであろう金網が置いてある。


肌寒い夕暮れ時には、暖炉代わりにもなるであろうこの大型竈は周囲の四カ所に設けられ、その中心付近に設けられた四角い舞台が、かづきら一行が案内された場所である。 鬼人達は、基本的に食事の際には地べたに座る。 その為、様式のテーブルというよりも、和式に近い四角形の高さの低いちゃぶ台が利用されている。


地べたに座るとはいっても、《むしろ》筵のようなものを敷き、そこに《あぐら》胡坐をかいて坐るといったスタイルである。 また、鬼人達の酒宴の特徴として、木の大きな樽が《ひしゃく》柄杓と共に《あちらこちら》彼方此方に置かれている事だろう。


勿論、中身は鬼人が好む穀類や果実の混ざった酒で、酒の度数はさほど高くはないようである。 意外な事だが、酒造りは若い女の仕事である。 《いわゆる》所謂『噛み酒』と呼ばれるもので、最古の酒造りの形であろう。 以前、かづきがゴブリン達に貰った、『ゴブリンの雫』も同様の噛み酒だが、霊木のうろて熟成させたもので魔力がこもっているもので、この鬼人達の酒とは根本的な違いがあるようだ。


アンチアモン鬼国の都周辺でも見かけたように、麦の収穫も行っている為、エールも同様に好まれている。 この大陸の様々な国で見られるエールだが、麦の品種や作り方によっても色や香りが異なり、往々にして甘めでアルコール度数の低いのも、これらエールの特徴である。


「貴しゃんたちに、改めて紹介するけんがくさ、こん人がアンチアモン鬼国の客人、クロサワカヅキしゃんたい。 末永う付き合うけんが、皆宜しゅう頼むばい ! カヅキしゃん、何か一言ゆうちくり」

「で、えっと、種族の垣根を越えて、今後とも仲良く頼む」

「そいから、ここん来る途中、カヅキしゃんらと土中龍ば退治したけんが、後で見せちゃるけん」


『うおー !! ほんなこつか、楽しみバイ』

「おう ! 飲めや歌え、好きなだけ食えや」


こうして、モガオウガ族の《うたげ》宴が今まさに始まろうとしていた。


無事に、モガオウガの塞へと辿り着いたかづきら一行だが、鬼人たちの歓迎を受け、祝宴でもてなされるのであった。

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