表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界探求伝  作者: 勘乃覚
窮境編
165/172

異世界探求伝 第百六十三話 チェインの町のとある冒険者の話

今回はヴァレンシア皇国、チェインの町でのお話となります。 

地図つき 

挿絵(By みてみん)

ヴァレンシア皇国


 ここは、ヴァレンシア皇国第六の都市であるチェインの町である。 首都からは、遠く離れた南西の地域にあり、アンチアモン鬼国の国境とは一日余りの距離にある。 チェインの町は港町で、東側には広大な森が広がっており、妖精族の治安領となる不可侵の地域が存在している。


ヴァレンシア皇国は、先の大戦でも積極的に戦争に関わりを持たない国であったが、商工業国家としての体裁を成し、金属製武器や防具などを始める鉄鋼業が盛んな国で、先の大戦では武器商人としての役割を果たしていた。 現在は基本的には、どの国とも友好な状態を保ち、主な取引き相手は隣接するラピスラズリ王国と、ニショルクサ王国である。


 チェインの町と称されているが、決して小さな田舎町などではない。 それというのも、ヴァレンシア皇国領内には、大きな火山が北と南に二つあり、共に大規模な鉱山が存在しているのだ。 そのうちの南の火山がウエルネット火山で、良質な鉄鉱石あるいは様々な鉱石が多く産出する事でも知られている。


この、ウエルネット火山周辺の山々の鉱山では、ブロードの町・ランスの町と共にチェインの町が、こうした鉱石を精錬あるいは加工を行い、運河を利用したチェインの港町が、海路での輸送を担っているのだ。 また、ヴァレンシア皇国に連なるこれらの町は、総てが大都市と呼べるほどの規模で、各町に防具の名称が付けられているのが特徴だが、これは他国を侵略しない防衛国としての意思表示とも云われている。


但し、こうした町で防具ばかりが作られている訳ではなく、当然様々な武器なども作られている。 また、チェインの町は港町という事もあり、二十万人とかなりの人口を有する都市である。 当然ながら、こうした大都市には様々なギルドが存在し、冒険者ギルドも他の国と同様に、一部独立した存在で街の一角に設けられている。


ズナンの町の商工会ギルドのように、どの町のギルドも同じ建物に存在する訳では無く、大まかには商いを専門に執り行うギルド、革職人や織物職人鍛冶職人、木工職人や陶器作り職人たち手工業を取り仕切るギルドなどがある。 また、木工匠職人や石工職人などを始め、土地や建物など家づくり及びアーキテクト《あっせん》斡旋を業とするギルドは建築ギルドといったように、専門職によっても様々な商業系や工業系のギルドが存在している。


そんな中で、商工業どちらにも属さない単独の団体が冒険者ギルドであり、組合員制度を取っているワーカーの団体でもある。 一見すると、特に特殊なスキルを必要としない冒険者達は、誰にでもなる事のできる職業の一つであるとされている。 但し、冒険者の中にもクラス分けがあり、低いレベルの冒険者であれば、薬草の採取や荷物運び、あるいは様々な雑務が仕事として与えられ、中級者以上では護衛や魔物狩りや素材集め、探索などが主な役割となっている。


国に所属する兵士や騎士などは、国あるいは領主の命により戦などに従事するが、冒険者は一般的には戦に駆り出される事はないが国や領主などの依頼によって、傭兵として雇われる可能性もある。 勿論、高ランクとなり名声が広まれば、こうした国や領主に召し抱えられる事もあり、さらに働きによっては叙爵などを受ける可能性もある事から、貴族としての栄誉や地位も得られる可能性もある。


ヴァレンシア皇国、第六の都市であるチェインの町は、港町という事もあり人も多く、交易や産業も発達している。 そんな、チェインの町の冒険者ギルドは海に面している為、海産物が豊富で長年の治安維持や冒険者の活躍によって、チェインの町近辺に魔物が出没する事は《ほとん》殆どない。


勿論、海に住む魔物も居るのだが、交易の港という事もあり、軍の兵士が定期的に排除している為、冒険者に対しての依頼は殆ど無いのが現状である。 しかし、南にはチェインの湖を中心に森が広がり、低いレベルの魔物の狩場となっている。 また北には、不可侵の森であるレヘイエル大森林があり、そこから漏れてくる魔物なども討伐対象となる。


普段からこうした討伐がなされており、ある程度平和とも言えるチェインの町だが、中級者以上の冒険者には物足りなく、あまり面白みがないと言えるだろう。 従って、ある程度実力を伴った冒険者達は、更に、街道と運河の中継地であるブロードの町を拠点に、ウェルネット火山周辺のかなり強力な魔物に狙いを定める事となる。


チェインの町自体は、人口も二十万人とかなり多いが、そのほとんどは工業系の生産業に従事する者が多い為である。 とは言え、冒険者もかなり多く、チェインの町に本拠を構える冒険者だけでも、五千人は下らないとされている。


勿論、凄腕とされる冒険者はその一割にも満たないのだが、中レベル以下の魔物を安定して討伐する事ができる為、冒険者にも人気のあるエリアの一つだと言えるだろう。 ここは、そんなチェインの町にある、ごくありふれた居酒屋の一角である。 


「な、俺達『走破の槍』も、そろそろブロードの町を拠点に移した方がいんじゃないか ?」

「そうね、私たちならBランクのモンスターでも行けるんじゃないかしら」

「駄目だな !」


「ちっ、わかってるよリーダー。 まずは全員がCランクになれって言うんだろ」

「わかってるなら早いな。 急いでも早死にするだけだ」

「でも、ここいらの魔物の素材じゃ、あまり儲けになんないし、もっと装備も整えたいよ」


走破の槍は、チェインの町出身の者で構成する仲間達で、同じ学園を卒業したメンバー五人で立ち上げたものだ。 全てがヒューマンで、全員がこの町の出身若者達という事もあってか、まだ十代でレベルもリーダーのケーヒンのランクÐを除き、後の四人はEランクとまだまだ初心者に毛の生えた程度の実力しかないのが実情である。


「でもな、茶色や灰色の装備一色てのも考えものだよなあ」

「そうそう、Bランクのパーティーとは行かないまでも、赤とか金色とか派手な装備で着飾ってみたいわよね」

「リーダーが、地味なのが一番だって言ったろう。 おかげで大規模な依頼に参加しても、魔物に標的にされる事も少ない」


リーダーのケーヒンの父親は、冒険者上がりだが、数十人以上を束ねる傭兵団の団長でもある。 その父親から、幼くして武技を叩き込まれたケーヒンは、学園でも常にトップの存在であった。 そうした彼が、父親から生きる《すべ》術も学んでいる事は当然で、彼が冒険者になるにあたって、装備を地味にする事さえ律義に行うのも、生き残る術として教え込まれていたせいだ。


「装備を強化するのはいい事だ。 但し目立つ色は無しだぞ」

「魔物に目を付けられにくくするんだろ。 わかってるよ、おかげでこれまで俺達に大きな怪我人も出ていないのは、リーダーのお蔭とはわかってるが⋯」

「地味⋯」


「ぶっ !」

『はハハハハハ』

「そう言うな、小さな怪我なら治せるが、部位欠損は俺達から全てを奪うんだぞ」


「わかってるよ、ケーヒン。 俺達『走破の槍』が順調なのも、リーダーの考えがあってのものだ。 だが⋯」

「たまには愚痴を言わせてくれよ。 だろ」

『ぶはハハハハハ』


 チェインの町に所属する『走破の槍』は、ケーヒンのお蔭で冒険者になり立ての頃でも、ほかのパーティーに特に目を付けられる事もなく、順調に依頼をこなしている。 ここで言う他のパーティーとは、素行のあまり良くないグループの事である。


冒険者達は、ギルドという組合に入会する事によって、身分の保障と共に仕事の《あっせん》斡旋を行い、何らかの訴訟に巻き込まれた際など、身元引受の役割を担ってくれるといった側面も持っている。 その代わりに、冒険者達は魔物から得た肉や素材などを冒険者ギルドに卸す事が、半ば義務付けられているという事になる。


勿論、こうした魔物の素材の卸し元となる冒険者ギルドであるが、冒険者がほかの店に個人的に売却する事も当然ある。 しかし、魔物の素材をギルドに卸す事は、それだけで貢献ポイントとして加味されるものだからして、ランクアップを目指すのであれば、冒険者ギルド以外に売却する事は、本人にとってもあまり得になるとは言えないだろう。


「さて、明日は休養日だし、みんなゆっくり休んで装備を整えておいてくれよ」

『ハーイ、リーダー』


走破の槍のメンバー達は、その日の依頼が終了すれば、この日のように反省会を兼ねての夕食が常である。 食事を兼ねての話し合いという事もあり、アルコールはエール程度の飲み物しか飲まないが、メンバーの中にはまだまだ飲み足りないとあって、そのまま居残り杯を重ねる者もいる。


走破の槍の副リーダーを務めるクラビスも、そうした酒好きの一人である。 そしてもう一人、先ほど装備のファッションに不満の言葉を露わにしていた女が、走破の槍の後衛を担当する魔法使いのバネッサであった。 二人が残ったのは、ただ単に飲み足りなかったのと、バネッサ一人では放置できないという事があった。 


メンバーにはもう一人、弓などの扱いに長け、回復呪文を担当とする女性がいるが、下戸な上に人付き合いがあまり得意では無くこの場に居残る事は無い。 二人は少し強めの酒を頼み、新たなつまみを注文すると、取りとめのない話しを交わしていた。


「や、相席いいかい」


普通は男女で飲んでいる場合、わざわざ男一人がその中に割って入るように、相席を求めたりもしないものだが、先ほどまでチームで広いテーブルに陣取っていた為、そこに空いた隙間は確かに店にとっても有り難いものでは無かろう。


「あ、仲間が来るのかい? 俺達はカウンターに移るから、自由にしてくれ」

「いやいや、ちょっとあんたと話しがしたいと思って」

「俺 ?」


「ああ、お前ら好みの討伐がらみでの儲け話ならあるぜ」

「俺ら好み ?」

「そうだな、簡単に言えば高ランクの魔物を捕獲する依頼だ。 出発は五日後だが、返事は早い方がいい。 報酬だが、前払いで一人頭銀貨二十枚、指定の魔物を捕獲すれば、一匹につき銀貨百枚出そう」


「そ、その一人頭銀貨二十枚ってのは、指定の魔物を捕獲できなくても貰えるって事か」

「そうだな、捕獲した魔物の警護の代金も入ってるからな」

「えらい破格の話しだが、これはギルドの依頼じゃないって事だよな」


「そうだ、指名依頼と考えて貰っていい。 但し、この依頼に関して言えば、冒険者ギルドは一切関与していない」

「やばそうな話しだな。 内容を聞いてもいいか ?」

「高ランクのモンスターの捕獲だから、やばくないとは言わないがまともな依頼だ。 内容は依頼を受けてからしか話せないが、報酬が高いのも、その機密性と関係があると思ってくれ」


「しかし、俺達走破の槍は、ほとんどがランクEだぞ。 魔物の討伐もランクCまでしか経験がない。 せめて魔物のランクぐらい教えてくれないか ?」

「そうだな、討伐対象の魔物はランクBだ。 これ以上は依頼を受けてからしか話せない」

「うーん、俺達にはランクBの魔物は、少し荷が重い気がするんだが」


「ああ、そこが不安なのか、それは問題ない。 捕獲専門のチームは既に編成済みだ。 基本的にお前達は、俺達に同行して馬車の警護や夜間の見張りを頼みたいんだ。 つまり、お前たちの手で魔物の捕獲をする必要はないが、もし捕獲できたらボーナスとして銀貨百枚を支払うという事だ。 勿論、この場でお前達二人が承諾してくれれば、すぐに前金を渡そう」


男は懐から革袋を取り出すと、それをテーブルの上に置き、おもむろに中を開いて見せた。 勿論、手の平大の革袋とはいえ、パンパンに入った銀貨は優に百枚を超えているだろう。 二人《おもむろ》徐に顔を見合わせると、互いにごくりと唾をのみ込み、どちらかが言葉を発するのを待っているかの様である。


「そうか、他をあたるとしよう」

「いやっ、ちょっと待って下さい。 なぜランクが高いとは言えない私たちが ?」

「ふむ、疑問点はもっともだ。 実は、いくつかのパーティにあたりを付けていていな、その中でお前たちのパーティは依頼による失敗が無く、統制が取れていると見込んで話しを持って来たんだ。 ただ、何と言うか」


「え ?」

「すまん、率直に言おう。 お前たちのリーダーは少し堅物なようだな」

「あーっ」


二人が揃えて納得したのも無理はない。 先のパーティでの話し合いの通り、普段の依頼でもリーダーが無理だと判断すれば、受けて問題の無い依頼であっても事あるといった可能性も否定できない。 石橋を叩いて渡る性格とあって、よく言えば仲間の安全を優先するという事だが、それでは冒険者の冒険たる意味があまりない。


「ね、クラビス。 取り敢えず、私たちだけでも受けましょうよ。 構わないわよね? えっと⋯」

「ああ、申し遅れた。 俺の事はダガーと呼んでくれ、さん付けも不要だ。 ではこうしよう。 お前達二人を先に雇う、だが申し訳ないが秘密漏えいの為、契約を先に行わせてもらう」

「分かった、俺はクラビス、でこいつがバネッサだ。 あと二人は何とか説得する。 最悪四人になるがいいだろうか ?」


「ああ、それでいい。 ただ、返事は明日の夕刻までだ」

「それで構わない。 場所はここでいいのか ?」

「いや、契約を済ませた後、場所を指定する。 話しはそこでしよう」


冒険者ギルドを通さないこの手の依頼は、別に違反という事ではない。 ただし通常は、個人的に依頼を行う際に報酬料が高くなりやすく、好んで依頼を行うことはない。 また、怪しげな依頼が存在することも否定はできない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ