第四十八話 平和な日常
季節は秋、冬になれば異世界に転移して一年になる。
すっかり肌寒くなったそんな朝、冬太は久しぶりに動物園で仕事をしていた。
というのも水族館は人魚達だけで回せるようになったし、植物園もだいぶ客足も落ち着いてきた為、動物園に戻って魔獣達の餌やりと、魔獣達の部屋の掃除を勇者兼園長代理のアリサと共に行っていた。
すっかり動物園の仕事に慣れたアリサはてきぱきと仕事をこなしていく。
「アリサさんもだいぶ仕事に慣れましたね。もうアリサさんが園長でもう良いんじゃないんですか?」
「あのちびっこ魔王が園長の座を譲ると思う? それに私だけまだエルドラドに行けてないのよ。 あのちびっこ魔王が戻ってきたらすぐに植物園に行くんだから」
そのちびっこ魔王はというと、魔王国宰相リリスに捕まり、城で缶詰め状態にされ、溜まりに溜まった書類と格闘中である。
「別に今なら僕も他のスタッフもいるし行ってきたらいいじゃないですか」
「はぁぁあ? あんた私を一人で行かせるつもり? あんたも一緒に行くのよ! わかった?」
「別に行くのはいいですけど」
「いいんだ、ふーん」
アリサは顔を赤くさせながら部屋の掃除をしていく。
「でも二人だと寂しいし、他の人も誘います?」
「……ば、ばかぁぁあ!!」
掃除道具を放り投げその場から去っていくアリサ。
「何で怒られたんだろう?」
鈍感な冬太にまだまだ恋は早かった。
一通りの魔獣達への餌やりと掃除を終わらせると事務所で、スタッフ全員でのミーティングを行う。
「今日も一日よろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
事務所での挨拶を終えると、自分達の持ち場に行き、動物園を開園させる。すでに数十名のお客さんが待っている状態だった為冬太も入場口でのチケットの受け取りを手伝う。
この動物園は昼時から忙しくなる。
なぜなら食事が安くて旨いから。
相変わらずの人気ぶりに冬太はニコニコしながら見回る。
時には、地面に捨てられたゴミを拾い、時には、迷子になった子を迷子センターに届ける。
見回ると聞いたら簡単な仕事に聴こえるかもしれないが、園内をお客さんに楽しんでもらうには、結構重要な仕事だったりする。
小さなトラブルを解決しながら見回り、今日の動物園も無事閉園する。
閉園後は、動物たちの餌やりと就寝部屋への移動もある。
今日も一番人気だったベヒ子は小さくなれるので今日は一緒に寝ることにした。
「今日も楽しかったかい?」
「ベヒー!」
冬太の問いに尻尾を振りながら鳴くベヒーモス。
もはや三害と呼ばれていた頃の面影など微塵もなく、ただただ可愛い。
「明日もいい一日になるといいね」
「ベヒベヒー!」
翌朝、実は異世界に来てからまともな休みをとってなかった冬太は、無理矢理動物園スタッフ達に休みをとるように言われた。
仕方なく休みをとったはいいが、やることもなかったので、動物園から少し離れた場所にある山の中にはある。せっかく秋なんだし、頑張っているスタッフ達に秋の味覚をと山の中に入っていく。
山の中を進んでいくとやっぱりあったと冬太はお目当ての栗を拾っていく。
この地帯は栗の木だらけらしく、背中に背負っているリュックにトゲの殻を外して栗をどんどん入れていく。
途中で食べられるキノコを何種類も見つけたので冬太はどんどんリュックにキノコを入れていく。
採るのに夢中で気付かなかったが、いつの間にかリュックは重くなり、自分がどこから登ってきたかわからなくなっていた。
呆然としていると、草の茂みがガサッと音がして振り向くと三メートル程の大きい赤い熊がこちらを見ていた。
冬太はその赤い熊が現実世界で可愛がっていた赤い熊みゆきと似ていた為、熊に向かって、手を出す。
赤い熊はクンクンと冬太の手を嗅ぐと頭を冬太の体に擦り付けてきた。
どうやら仲良くなってくれるらしい。
あとはどうやってこの荷物を持って山から脱出するかだが、赤い熊が乗れよと言わんばかりに背を向ける。
もしかして、山の外まで乗せて行ってくれるの?」
赤い熊は「グワァ」と鳴きながら頭を縦に振る。
「じゃあお願いするね」
赤い熊の背中に乗ると熊は冬太が振り落とされないスピードであっという間に冬太が入ってきた山の入り口まで到着した。
「ありがとう、助かったよ」
冬太は赤い熊の頭を撫でながら礼を言う。赤い熊も気持ちよさそうにしている。
「そうだ、もし良かったらなんだけど、動物園という場所で他の魔獣と仲良く暮らしているんだけどよかったら君も来ない?」
一瞬魔獣は冬太の方についていこうとしたが、首を振り横に振り冬太に背を向け山の中に去っていく。
「そっかぁ、残念だけど仲良くなれて良かったよ。ここまで連れてきてくれてありがとう!」
森の中に消えていく赤い熊に手を振りながら礼を言う冬太。
森の中から「グワァァア!!」と鳴き声がかえってくる。
赤い熊を見送ったあと重いリュックを背負いながら戻って来た動物園の事務所には魔王とエスナが来ていた。
「あれ? どうして園長とエスナさんが?」
「お前こそ今日は休みじゃなかったのか? それになんだそのリュックは」
「いつも頑張ってる皆に美味しい物をと思って近くの山で栗やキノコを採ってたんです」
「近くの山ってお前あそこは奥まで進むと素人じゃ戻るのも難しい山だぞ。よく戻ってこられたな」
「それが大きな赤い熊さんに乗せてもらって山の外まで連れて行ってもらったんですよ」
「赤い熊ってもしかしてレッドビーベアの事ですか~?」
「……はぁー。お前だから大丈夫だったがレッドビーベアは上級魔獣に指定されているほど強い魔獣なんだぞ」
「それにレッドビーベアは普通の熊と違って特別な女王熊――レッドビークイーンベアによって統制されていて、レッドビークイーンベアを怒らせたりしたら、世界中のレッドビーベアを率いて襲って来るんです~。それにレッドビークイーンベアは他のレッドビーベアよりもでかくて何倍も強いんですよ~」
「だからレッドビークイーンベアは三害と呼ばれているバハムト、リヴァイアサン、ベヒーモスと同じ特級指定されている程なんだぞ。まぁ、今はなぜかレッドビークイーンベアがいない為かレッドビーベアもバラバラに動いているが」
「へぇ、そんなにすごい魔獣なんですね。それより何で園長とエスナさんがここに来てるんですか? 仕事が溜まっていたんじゃなかったんですか?」
「確かに仕事はまだ残っている。だがそれよりも冬太に伝えたい事があってな。だが寮の部屋にはいないし、あちこち探して事務所に来てみればせっかくの休みをこんなことに使いおって」
「こんなことじゃないですよ。それよりも僕に伝えたかった事って?」
「先程までな魔導フォンでバルッチと話しておったんだが、なんと動物園、水族館、植物園の利益と魔石の輸出で借金が返済出来たんだ!」
「本当ですか!? それはおめでとうございます」
「それもこれも皆トウタのおかげだ、ありがとう」
「そんなことないですよ。僕はちょっと手伝っただけで、返済出来たのは園長達――魔人の皆が頑張って来たからですよ」
「そんなことないです~! トウタ君がいなかったら今頃世界樹は枯れていたし、魔界だって人間界に征服されていました~。だから、ありがとうございます~」
「わかりましたから泣かないで下さいエスナさん。ありがたくお礼の言葉は頂戴します。それよりもこんないい日なんだから動物園が閉園したら皆で宴会しましょう!」
「そうだな、仕事をリリスに押し付けてきたから後でめちゃくちゃ怒られるだろうがかまわん、今日は宴だー!」
動物園閉園後、動物園スタッフ、魔獣達を含めた食えや飲めやのどんちゃん騒ぎの中、冬太は今日会った赤い熊と出会った事を思い出していた。
(あの赤い熊、みゆきの方が大きかったけど、みゆきに似てたなぁ。みゆきは元気にしてるかなぁ)
冬太の哀愁をよそに宴は盛り上がっていった。
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