13話
次にやるのは、予定通り建築工事だろう。私は大工ではないし、建築の知識もないのでこれまでは指をくわえて見ているだけだった。しかし、今は違う。土のう工法で道の整備をした私は、すでに建築の改善方法も思いついている。
まずは、木材の防腐処理だ。この村の建物は防腐処理がされていないせいで腐りかけている。これを解決しなければならない。
化学者である私としては化学薬剤を使用したいところではあるが、今の状況で合成できる可能性があるのはホルマリンだけだ。これはシックハウス症候群の原因になるため、残念ながら不採用にした。
現実的にこの村でできる防腐処理は焼杉だろう。木板の表面を焼いて炭化層をつくる日本の伝統技術。これも私が日本人だからできる方法だ。これで、シロアリや腐朽菌による木板の腐食を防ぐことができるはずだ。
もうひとつは、道の整備でも使用した土のうを地盤補強材として使用することだ。これで地耐力が上がり、水捌けも良くなるため、地盤沈下して家が傾くことは少なくなるだろう。また、土のうには振動低減効果もある。これまでよりは、耐震性も増すはずだ。
当然だが、私ひとりではこの作業をすることができない。大工に手伝ってもらう必要がある。
「棟梁さん、お手伝いしていただきたいのですが」
「おう、聖女様。どうした」
この棟梁さんには、前に研究室の建築をお願いした。腕のいい大工だ。この人になら安心して任せることができる。
「今よりもっといい建設方法を思いついたので、私の家を再築していただけませんか? この方法なら今みたいに家が傾くことはないと思いますよ」
「なんだと」
棟梁さんの顔が険しくなった。
しまった、あけすけに言い過ぎたかもしれない。素人にこんなことを言われて、いい気はしないだろう。
私は事情を詳しく説明して棟梁さんに理解してもらった。
「面白いかもしれんな。ただ聖女様、あんたの家でいいのかい。その間、住むところはどうする」
失敗することを考慮して、私の家を実験に使うことにしていた。残念ながら、ろくな空き地がなかったからだ。私は施工中、研究室で寝泊まりすればいい。
「問題ありません。よろしくお願いします」
まずは家の解体をしなければいけない。私はアシスタントたちにお願いして、家の荷物を研究室に運び込む。家に荷物が亡くなったことを確認すると、大工たちは家の解体作業を開始するが、残念ながら私にできることは何もない。無事に終わるよう祈るだけだ。
私はその間に焼杉を準備しよう。三枚の木板を三角柱になるように固定して、その中を焚き火で焼けばいいはずだ。そうすれば、煙突効果が働いて内部を一気に焼き上げるだろう。上部から火が出てきたら、木板を少しずらして側面も焼き、木板を水に入れて消火する。それを乾燥させたら焼杉の準備は完了だ。
土のう工法は道路を整備したときと基本的には同じだ。まずは地盤を掘削した後にデコボコしたところを平らに均す。そこへ土のうを隙間なく並べ、木材でたたいて締め固める。これを数段積めば終了だ。これ以降は完全に大工の仕事である。彼らに任せよう。
続いて、私はゴムの加工について考える。道が整備されたといっても、十分ではないだろう。木の車輪よりは弾力性や耐久性のあるタイヤの方がいいはずだ。
それに、屋根や壁の雨漏り対策として、防水シートも必要だろう。天然ゴムのシートをつくり、屋根と壁に張れば防水対策ができるはずだ。
もちろん、元の世界のようなものではなく、もっと簡易的なものだ。補強剤はカーボンブラックの代わりに木の煤を使用すればいいだろう。
これも、硫黄や煤の配合量、加熱温度や時間、成形の仕方などをトライアンドエラーで試していく。
タイヤの方は、車輪に合わせたゴムリングをつくろうとしたが、成形できずに断念した。最終的に、車輪の幅に合わせたゴムシートをつくり、それを巻くように貼り付けた。防水シートは、長いと厚さを均一にするのが難しかったため、短いものをつくることにした。これは棟梁さんに張ってもらうことにした。
私はゴムシートをつくりながら考えていた。タイヤができるのであれば、乗り物をつくることも可能なはずだ。車やバイクは難しいが、自転車ならつくれるだろう。移動も楽になるし、荷車を人力ではなく、自転車で引くリヤカーにすることができれば、きっと便利になるだろう。
今までの道なら自転車が走ることは難しかったが、整備された道なら簡単に走れるはずだ。とはいってもつくるのは、ペダルのないキックボードのようなものだ。フレームも木でつくる。
これは、もと木こりであるアルバートの出番だ。彼に木の加工をしてもらおう。私は研究室に戻る。
「アルバート、手伝ってほしいことがあるの。一緒に来て」
「またですか? 人使い荒いんだから。変なことさせないでくださいよ」
「大丈夫。きっと楽しんでくれるはずだから」
これまでの経験で、有機合成よりもこういうことを好むことを知っている私は、彼を引っ張り出す。
大体の計画と自転車の設計を地面に書いてアルバートに説明すると、乗り気になってくれたようだ。よし、予想通り。これはひとまずアルバートに丸投げしよう。
自転車はタイヤ以外にも、ハンドルやサドルにゴムを巻き付け、弾力性をもたせることが重要だ。これがないと、手やお尻が痛くなるため長時間乗ることが難しくなるだろう。
それぞれに求められる弾力性や耐久性は違うはずだが、これはすぐに解決した。すでにゴムの検討をたくさん行っていた私は、これまでの試作品から選択するだけでよかった。
これをアルバートのつくってくれた自転車に取り付ければ試作品の完成だ。早速私は試乗する。自転車に跨ってキックボードの要領でけり出すと意外とスピードが出て気持ちがいい。村を一周するのにどれくらい時間がかかるのだろうか。やってみたいが、まだ道の整備中だ。邪魔するわけにはいかない。
考えた末に、山に行くことにした。ここなら誰の邪魔にもならないだろう。私は勢いよくけり出し、山を登ろうとした。
しかし、私の脚力ではほとんど登れず、すぐに倒れてしまった。仕方がない。自転車を下りて山を登り、下りで自転車に乗ることにしよう。私は勢いよく蹴り出した。
村に戻ると、アルバートのもとに行く。
「ごめん。つくり直してもらっていいかな……」
「どうしたんですか?」
アルバートが不思議そうな顔をした。
「ここが折れちゃったみたい。軽量化しようとして、細く設計しすぎたのね」
調子に乗って山を下っていたら、スピードが出すぎたせいなのか突然バキッという音がして、フレームの一部が折れてしまったのだ。
……私の体重が重かったせいではないはずだ。
結局、自転車のフレームもトライアンドエラーで検討することになってしまったが、無事に完成した。これで移動や運搬が容易になるはずだ。




