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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第九十九話 営業課長、王宮の影を追う


 北部第三中継所。


 古びた建物の中で、アルトは一枚の紙を見つめていた。


 そこに書かれている名前。


 それは、王宮に関係する人物だった。


「この人が……十年前の事件に関係していた?」


 アルトが尋ねる。


 ダリウスは首を横に振った。


「関係していた。だが、黒幕ではない。」


「では、何をしていたんですか?」


「命令を伝えていただけだ。」


「誰からの?」


 ダリウスは答えない。


 レオンが一歩前へ出る。


「ダリウス。十年前、何があった?」


「……。」


「今度こそ話せ。」


 しばらく沈黙した後、ダリウスは古い椅子に腰を下ろした。


「私は当時、商務省の地方監査官だった。」


「そして、物流網の記録を調べていた。」


 アルトは頷く。


「ある時、妙な数字に気づいた。」


「帳簿上の荷物と、実際に動いている荷物の数が違っていた。」


 アルトは先ほど見た帳簿を思い出す。


「それが、二重帳簿?」


「ああ。」


「表向きの物流とは別に、もう一つの物流網が動いていた。」


「何を運んでいたんですか?」


「最初は普通の食料や生活物資だった。」


「だが、途中から変わった。」


 ダリウスの表情が険しくなる。


「高価な鉱石。」


「武器の材料。」


「そして、王都では扱いに注意が必要な品まで動いていた。」


 エリシアが眉をひそめる。


「そんなものを、物流網で?」


「だから私は調査を始めた。」


 ダリウスは続ける。


「だが、調べるほどに妙なことが分かった。」


「その物流網を使っているのが、一つの商会ではなかった。」


「複数の商会。」


「複数の領地。」


「そして王宮側の人間まで関わっていた。」


 アルトは腕を組む。


「それなら、どうして問題にならなかったんですか?」


「表向きは、すべて別々の取引だったからだ。」


「情報を繋げなければ、同じ物流網を使っていることすら分からない。」


 アルトは小さく呟いた。


「情報を分断していた……。」


「そうだ。」


 ダリウスが頷く。


「だから、私は記録を一つにまとめようとした。」


「それが、十年前に消えた帳簿?」


「その通りだ。」


 レオンが拳を握る。


「では、あの帳簿は誰が消した?」


「私ではない。」


「なら誰だ?」


 ダリウスは苦しそうに目を伏せた。


「私が最後に帳簿を確認した時には、もう別の人間が持ち出していた。」


「誰?」


「分からない。」


 アルトは首を傾げる。


「でも、あなたはその後に姿を消した。」


「ああ。」


「なぜ?」


「私が次に調べようとしていた人物が、私より先に動いたからだ。」


 アルトの目が鋭くなる。


「狙われた?」


「そうだ。」


「だから逃げた。」


「……ああ。」


 レオンが低い声で尋ねる。


「それなら、なぜ今になって戻ってきた?」


 ダリウスはアルトを見る。


「君が物流を変えようとしているからだ。」


「僕が?」


「十年前、失敗した仕組みをもう一度作ろうとしている。」


「しかも今回は、以前より規模が大きい。」


 ダリウスは一枚の紙を机に置いた。


「だから、あの連中も動き始めた。」


「連中?」


「十年前の物流網を利用していた者たちだ。」


 アルトは紙を見る。


「名前は?」


「まだ分からない。」


「でも、手掛かりはある。」


「どこに?」


「王都だ。」


 アルトは立ち上がった。


「戻りましょう。」


 レオンが驚く。


「今すぐか?」


「はい。」


「理由は?」


「王宮関係者の名前が出てきた以上、王都で確認する必要があります。」


「だが、王宮を勝手に調べるわけにはいかない。」


「だから、正面から行きます。」


 アルトは笑った。


「話を聞きに行けばいい。」


 エリシアが呆れた顔をする。


「アルト……王宮相手でも営業なの?」


「相手が誰でも、基本は同じです。」


「まず話を聞く。」


 レオンが苦笑する。


「本当に変わらないな。」


 その日の夕方。


 アルトたちは王都へ戻った。


 そして翌朝。


 アルトは王宮へ向かっていた。


 目的は一つ。


 十年前の物流記録を確認すること。


 案内されたのは、商務関係の記録を管理する部署だった。


「十年前の物流記録?」


 担当官が怪訝そうな顔をする。


「はい。」


「なぜそんな古い記録を?」


「現在進めている物流改革に関係するからです。」


「しかし、正式な閲覧許可が必要です。」


「分かりました。」


 アルトは素直に頷いた。


「では、許可を取ります。」


 担当官が少し驚く。


「……意外と素直ですね。」


「ルールは守ります。」


 そして、その日の午後。


 エリシアの協力もあり、必要な許可が下りた。


 古い記録庫。


 そこには大量の書類が保管されていた。


「これだけ?」


 マルクが絶望した顔をする。


「十年分ですから。」


「何冊あるんだ……。」


「全部見る必要はありません。」


 アルトは記録を分類し始める。


「物流網。」


「北部。」


「中継所。」


「王宮からの指示。」


「この四つに絞ります。」


 数時間後。


「見つけた。」


 アルトが一冊の記録を開く。


 十年前の王宮命令。


 そこには、北部物流網の再編に関する指示が記されていた。


「これ……。」


 アルトは眉をひそめる。


「おかしい。」


「何が?」


「命令が二つある。」


「同じ日付なのに、内容が違います。」


 マルクが覗き込む。


「本当だ。」


 一つは物流網の維持。


 もう一つは、一部中継所の閉鎖。


「どちらが本物?」


「分からない。」


 アルトは記録を確認する。


「でも、発行番号が違う。」


「つまり……。」


「どちらかが偽造です。」


 その瞬間。


 背後から声がした。


「そこまでにしてもらおう。」


 アルトたちが振り返る。


 一人の男が立っていた。


 王宮の紋章を身につけている。


「あなたは?」


「商務院の監督官だ。」


「なぜ、ここに?」


「君たちが何を調べているのか確認しに来た。」


 アルトは男を見る。


「十年前の物流網です。」


「なぜ?」


「現在の改革に関係しているからです。」


「その調査は危険だ。」


「何が危険なんですか?」


 男は答えない。


「これ以上調べる必要はない。」


「それは、なぜ?」


「王宮の命令だ。」


 アルトは黙った。


 そして、目の前の男を見つめる。


「……その命令。」


「本当に王宮から出たものですか?」


 男の表情が、一瞬だけ固まった。


 アルトは見逃さなかった。


「やっぱり。」


「何がだ?」


「あなたは、今『王宮の命令』と言いました。」


「はい。」


「でも、正式な命令なら、命令番号を言えるはずです。」


「……。」


「それを言わない。」


 アルトは一歩前へ出る。


「ということは、あなた自身も確認していない。」


 男の顔が険しくなる。


「子供が何を――。」


「年齢は関係ありません。」


 アルトは遮った。


「重要なのは、命令が本物かどうかです。」


 沈黙。


 やがて男は踵を返した。


「今日は帰りなさい。」


 そう言い残し、部屋を出ていく。


 アルトはその背中を見送った。


「……怪しい。」


 マルクが呟く。


「うん。」


 エリシアも頷く。


「でも、証拠がない。」


「だから、探します。」


 アルトは机に戻った。


 そして、さっき見つけた二つの命令書を並べる。


「発行番号。」


「日付。」


「署名。」


「全部照合する。」


 すると――。


「……あった。」


 アルトの声が低くなる。


「何が?」


 アルトは一つの数字を指差した。


「偽の命令書に使われている発行番号。」


「十年前の記録に存在しません。」


 レオンが目を細める。


「つまり?」


「十年前から、偽の命令書を作る仕組みが存在していた。」


 そしてアルトは、さらに一つの事実に気づく。


「この番号……。」


「どうした?」


「最近見た番号と同じです。」


 偽の命令書。


 十年前の物流網。


 今回の改革妨害。


 すべてを繋ぐ数字。


 アルトは静かに呟いた。


「同じ人間……いや。」


 アルトは首を振る。


「同じ仕組みを使っている。」


 レオンが尋ねる。


「誰が、その仕組みを持っている?」


 アルトは答えなかった。


 ただ、記録の一番下に書かれていた署名を見つめる。


 そこには――。


 十年前の王宮商務局長の名前が記されていた。


 そして、その人物は現在も王宮にいる。


「……まだ、王宮の中にいる。」


 アルトは静かに言った。


 十年前の事件は終わっていなかった。


 ただ、表に出ていなかっただけだった。


営業メモ⑨⑧


「相手の言葉をそのまま信じるのではなく、必ず裏付けを取る。特に重要な契約や指示ほど、発行元・日付・番号・署名などの一次情報を確認する。営業でも、伝聞だけで判断せず、事実確認を徹底することが信頼につながる。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第百話「営業課長、王宮の黒幕に迫る」


十年前から続いていた、偽の命令書。


その仕組みは現在も生きていた。


そして、その仕組みを管理できる立場にいる人物が、今も王宮にいる。


「お父さん……十年前、最後に会ったのは誰?」


レオンの表情が変わる。


「……あの男だ。」


十年前の事件。


レオンの失脚。


エドガーの辞職。


ダリウスの失踪。


すべてを繋ぐ人物が、ついに姿を現す――。

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