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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第九十三話 営業課長、偽の命令書を追う


 北部の小さな村。


 逃げた兵士たちが去った後も、広場には緊張した空気が残っていた。


 アルトは地面に落ちていた紙を拾い上げる。


 先ほど隊長が落としていった、偽の命令書。


「王宮の紋章を偽造している……。」


 エリシアが不安そうに呟く。


「ということは、王宮の中に偽造した人間がいるの?」


「まだ分かりません。」


 アルトは首を振った。


「でも、少なくともこの命令書を作った人間は、王宮の紋章を知っている。」


 レオンが紙を覗き込む。


「しかも、かなり精巧だ。」


「うん。」


 アルトは紙の端を指でなぞった。


「紙も普通じゃない。」


「紙?」


「王都で使われている上質紙です。」


 マルクが驚く。


「それが分かるのか?」


「触れば何となく。」


「……。」


「前世で書類を大量に扱ってましたから。」


「前世?」


「何でもありません。」


 アルトは誤魔化すように咳払いをした。


 その時だった。


「アルト。」


 レオンが低い声で呼ぶ。


「これを見ろ。」


 レオンが紙の裏側を指差している。


 そこには、かすかに何かが押し付けられた跡が残っていた。


「印章?」


「たぶん。」


 アルトは紙を傾ける。


 光の加減で、文字のようなものが浮かび上がった。


「……『第三商務局』?」


 マルクが眉をひそめる。


「第三商務局?」


「王宮の正式な部署名には、そんなものはない。」


「やっぱり偽物ですね。」


 アルトは頷いた。


 しかし、そこで終わらなかった。


「でも……。」


 アルトは紙を見つめる。


「この名前を知っている人間がいる。」


「どういうこと?」


 エリシアが尋ねる。


「完全なでたらめなら、こんな名前は書かない。」


「何かを隠すために、わざと存在しない部署名を使った可能性があります。」


 レオンが腕を組む。


「つまり、偽造した人間は王宮の組織をある程度知っている。」


「はい。」


 アルトは頷いた。


「だから、王都へ戻ります。」


「今すぐか?」


「はい。」


 アルトは命令書を握りしめた。


「この紙を作った場所を探します。」


 ――王都。


 翌日。


 アルトたちは商務省へ戻っていた。


 クラウス商務大臣は、机の上に置かれた命令書を見るなり顔をしかめた。


「これは……。」


「偽物です。」


 アルトが答える。


「王宮の正式な命令書ではありません。」


 クラウスは紙を裏返す。


「この紙質……。」


「王宮で使われるものに近いですね。」


「近い、ではない。」


 クラウスが言った。


「これは、以前商務省が発注していた紙と同じだ。」


「……。」


 アルトの目が細くなる。


「商務省が発注?」


「ああ。」


「誰でも買えるものですか?」


「いや。」


 クラウスは首を振る。


「この紙は王宮関連の書類用に特別発注している。」


「では、普通の商人には手に入りにくい。」


「そういうことになる。」


 アルトは考え込む。


「誰が発注したか分かりますか?」


「記録を調べれば分かる。」


 クラウスは文官へ指示を出した。


 しばらくして、一冊の帳簿が運ばれてきた。


「これだ。」


 帳簿を開く。


 紙の発注記録。


 納入業者。


 数量。


 担当者。


 アルトは一つずつ確認していく。


「……。」


 しばらくして。


「ここ。」


 アルトが指差した。


「三か月前。」


「王宮向けの紙が通常の三倍発注されています。」


 クラウスが眉をひそめる。


「三倍?」


「はい。」


「理由は?」


「新しい商務関連の制度資料を大量に作る予定だった、と記録されています。」


 アルトは首を傾げた。


「でも、その資料って完成しました?」


 クラウスが黙る。


「……いや。」


「ですよね。」


 アルトは帳簿を見る。


「予定されていた資料が存在しないのに、紙だけ三倍発注されている。」


 マルクが呟く。


「余った紙がある。」


「その可能性が高いです。」


「そして、それが偽の命令書に使われた。」


 アルトは頷く。


「でも、それだけでは犯人は分かりません。」


 ここで決めつければ失敗する。


 アルトは帳簿をさらにめくった。


 すると、別の記録が目に入った。


「この名前……。」


「どうした?」


 クラウスが尋ねる。


「紙の受け取り担当者です。」


 そこに記されていた名前。


 それは――。


「エドガー・ハルト。」


 クラウスの表情が変わった。


「……。」


「知っていますか?」


「ああ。」


 クラウスは苦い顔をした。


「以前、商務省にいた男だ。」


「今は?」


「退職している。」


「どこへ?」


「分からん。」


 アルトは眉をひそめた。


「退職したのはいつですか?」


「二か月前だ。」


「紙の大量発注は三か月前。」


「……。」


「そして、一か月後に退職。」


 アルトは指で帳簿を叩く。


「タイミングが合いすぎています。」


 しかし、まだ証拠はない。


「退職理由は?」


「家族の事情だった。」


「その後の仕事は?」


「知らない。」


 アルトは椅子から降りると、地図を広げた。


「エドガーという人が、今どこにいるか調べましょう。」


「どうする?」


「商務省の記録。」


「商会との取引記録。」


「それから――。」


 アルトは少し笑った。


「紙の納入業者です。」


「納入業者?」


「はい。」


「紙を買った人間が分からなくても、紙を売った人間なら記録を持っている。」


 クラウスが頷いた。


「分かった。調べさせよう。」


 その日の夕方。


 調査結果が届いた。


「早いですね。」


 アルトが書類を受け取る。


 納入業者。


 王宮からの発注量。


 納入日。


 受け取り担当。


 そして――。


「……。」


 アルトが黙り込む。


「どうした?」


 マルクが覗き込む。


「紙を納入した場所が、商務省じゃありません。」


「何?」


「別の場所です。」


 書類には、王都の外れにある倉庫の住所が記されていた。


「王宮関連の紙を、なぜ外部の倉庫へ?」


 レオンが尋ねる。


「それが分かりません。」


 アルトは立ち上がった。


「行ってみましょう。」


 夜。


 一行は王都の外れにある倉庫へ向かった。


 古びた建物だった。


 看板もない。


 周囲に人影もない。


「ここです。」


 アルトが住所を確認する。


 扉には鍵が掛かっていた。


「どうする?」


 マルクが尋ねる。


「壊すわけにはいきません。」


 アルトは周囲を見る。


 すると――。


「裏口があります。」


 小さな扉。


 だが、鍵は開いていた。


「誰か使っている。」


 レオンが剣に手を添える。


「気をつけろ。」


 一行が中へ入る。


 倉庫の中には、大量の紙が積まれていた。


 そして奥には――。


 机。


 印章。


 書類。


 アルトは机へ近づいた。


「……あった。」


「何が?」


「命令書の下書きです。」


 そこには、王宮の紋章を模した印。


 そして、いくつもの文書が並んでいる。


「これはまずい。」


 マルクが呟いた。


「物流だけじゃない。」


 アルトが紙をめくる。


「商人への通達。」


「関所の指示書。」


「税に関する書類まである。」


 誰かが王宮の命令書を偽造し、各地へ流していた。


 つまり――。


 今回の街道封鎖は、その一部に過ぎない。


「誰が、こんなことを……。」


 エリシアが呟いた。


 アルトは一枚の書類を手に取った。


 そこには、見覚えのある商会名が記されていた。


「……バルド商会?」


 マルクが息を呑む。


「またバルド商会か。」


「でも、違います。」


 アルトは首を振った。


「この書類の日付を見てください。」


「……。」


「ガルマンさんが僕たちに協力する前です。」


 アルトは書類を裏返した。


 そして、小さく呟く。


「バルド商会は、犯人じゃない。」


「じゃあ――。」


 アルトは机の上にあった別の帳簿を開く。


 そこには、バルド商会から大量の商品を買い取っている人物の名前があった。


「犯人は商会じゃない。」


 アルトは顔を上げる。


「商会を利用していた誰かです。」


 その瞬間。


 倉庫の外から足音が聞こえた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 複数の人間が近づいてくる。


 レオンが剣を抜く。


「誰か来るぞ。」


 アルトは書類を抱えた。


「逃げる?」


「いや。」


 アルトは静かに首を振った。


「ここで待ちます。」


「何?」


「犯人が、この倉庫をまだ使っているなら――。」


 アルトは入口を見つめる。


「必ず戻ってきます。」


 足音が止まった。


 扉の向こうから、男の声が響く。


「……中に誰かいる。」


 アルトは息を整えた。


 そして――。


「営業課長として、一つ確認したいことがあります。」


 エリシアが小声で尋ねる。


「こんな時まで営業なの?」


「こういう時こそ営業です。」


 アルトは笑った。


「相手の目的を聞かないと、交渉できませんから。」


 扉が開く。


 暗闇の向こうから、一人の男が姿を現した。


 その顔を見た瞬間。


 アルトは目を見開いた。


「……エドガー・ハルト。」


 かつて商務省に勤めていた男。


 大量の王宮用紙を受け取った人物。


 そして――。


 偽の命令書を作った可能性がある男。


 エドガーは驚いたようにアルトを見る。


「なぜ、お前がここにいる……?」


 アルトは静かに答えた。


「それは、こっちの台詞です。」


 物流改革の裏側にいた人物が、ついに姿を現した。


営業メモ⑨②


「証拠を一つ見つけただけで結論を出さない。複数の情報をつなぎ、矛盾がないか確認することで、本当の原因に近づける。営業でも『この会社が悪い』と決める前に、誰が・いつ・なぜ動いたのかを確認することが重要。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第九十四話「営業課長、元商務官と対峙する」


偽の命令書を作っていた疑いのある男――エドガー・ハルト。


しかし、彼はアルトたちを見ても逃げようとしなかった。


「私は王国を壊そうとしているわけではない。」


エドガーが語り始めた、秘密の物流網が生まれた本当の理由。


そして、その話の中にはレオンの領地にも関係する、十年前の出来事が隠されていた――。

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