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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第八十九話 営業課長、商人の反撃を受ける


 王都から北部へ続く古い街道。


 崩れた橋の前では、朝から大勢の人間が作業をしていた。


「そっちの石、もう少し右!」


「分かった!」


「荷馬車が通るから、道幅をもう少し広げてくれ!」


 レオンの領地から集められた人員と、商人ギルドから派遣された作業員たちが協力し、仮設の渡河地点を作っている。


 アルトは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。


「順調そうね。」


 隣に立つエリシアが言う。


「うん。」


「本当にこれで荷馬車が通れるの?」


「試してみないと分からないけど、計算上は大丈夫。」


「計算上……。」


 エリシアが苦笑する。


「あなた、八歳よね?」


「そうだけど?」


「時々、本当に八歳なのか分からなくなるわ。」


「よく言われます。」


 アルトは笑った。


 その時だった。


「アルト!」


 遠くからマルクが走ってくる。


「どうしたんですか?」


「商人ギルドに問題が起きた。」


「問題?」


 マルクは息を整える。


「北部の大手商会が、今回の物流計画から離脱すると言っている。」


「理由は?」


「新しい物流網ができると、今まで使っていた街道の運送契約が減るからだ。」


「……。」


 アルトは少し考えた。


「それだけですか?」


「いや。」


 マルクの表情が曇る。


「彼らは、他の商人にも協力しないよう呼びかけている。」


 エリシアが眉を寄せる。


「それは困るわね。」


「かなりの影響力を持つ商会です。」


 マルクが続ける。


「北部の小麦の流通量の三割近くを扱っている。」


「三割……。」


 アルトは腕を組んだ。


 確かに無視できない。


 しかし――。


「その商会の代表と話せますか?」


「今からなら。」


「お願いします。」


 王都へ戻ると、商人ギルドの応接室に一人の男が待っていた。


 五十代ほど。


 立派な服を着ている。


 胸元には大きな商会の紋章。


「アルト君か。」


「はい。」


「私はバルド商会の会頭、ガルマンだ。」


「よろしくお願いします。」


 アルトが頭を下げる。


 ガルマンはアルトをじっと見つめた。


「君が今回の物流改革を考えたそうだな。」


「はい。」


「率直に言おう。」


 ガルマンは椅子に深く腰を下ろした。


「私は反対だ。」


「理由を聞いても?」


「簡単な話だ。」


 ガルマンは指を一本立てる。


「我々は長年、北部と王都を結ぶ街道を使って商売をしてきた。」


「はい。」


「そこへ新しい物流網を作れば、今までの運送契約が減る。」


「なるほど。」


「我々には従業員も荷馬車もある。」


「仕事が減れば、当然困る。」


 アルトは黙って聞いていた。


「だから私は、新しい物流網への協力を断る。」


「分かりました。」


 ガルマンが少し意外そうな顔をする。


「それだけか?」


「はい。」


「説得しないのか?」


「説得しても意味がないと思います。」


「何?」


 アルトは笑った。


「ガルマンさんが困る理由は分かっています。」


「ならば――。」


「だから、困らない仕組みにすればいい。」


 ガルマンは黙った。


「具体的には?」


「バルド商会にも新しい物流網へ参加してもらいます。」


「断ると言ったはずだ。」


「はい。」


「聞いていたのか?」


「もちろん。」


 アルトは一枚の紙を机へ置いた。


「これは?」


「新しい運送契約の案です。」


 ガルマンが目を通す。


「……。」


「北部から王都へ小麦を運ぶ。」


「帰りに王都の商品を北部へ運ぶ。」


「そして、途中の中継地点で他の商会の商品も扱う。」


 ガルマンが顔を上げる。


「つまり?」


「バルド商会には、物流網の中心になってもらいます。」


「……。」


「今まで小麦を運んでいた荷馬車を、そのまま新しい物流網で使ってもらう。」


「ただし、帰り荷も扱う。」


 ガルマンは再び書類を見る。


「仕事が減るどころか……。」


「増える可能性があります。」


「しかし、他の商会の商品も運ぶことになる。」


「はい。」


「それでは我々の取り分が減る。」


「だから手数料を設定します。」


 アルトはもう一枚の紙を出した。


「荷物を集める商会。」


「運ぶ商会。」


「中継する商会。」


「それぞれに利益が出るようにします。」


 ガルマンの目が細くなる。


「……お前は商人ではないのか?」


「商人ではありません。」


「なら何だ?」


 アルトは少し考えてから答えた。


「営業です。」


「営業?」


「人と人の間にある問題を、利益が出る形で解決する仕事です。」


 ガルマンはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく笑う。


「面白いことを言う。」


「ありがとうございます。」


「だが、一つ聞きたい。」


「はい。」


「本当に、この仕組みで儲かるのか?」


「それを今から一緒に計算しましょう。」


「一緒に?」


「はい。」


 アルトは机の上に紙を広げた。


「まず、今までの片道輸送の利益を出します。」


「次に、帰り荷を積んだ場合の利益。」


「最後に、中継地点を使った場合の費用。」


 数字を書き込んでいく。


 ガルマンも途中から計算に参加した。


「待て。」


「はい?」


「この場合、空荷で戻る必要がなくなる。」


「そうです。」


「それなら……。」


 ガルマンが計算を続ける。


「一往復あたりの利益が、今より二割ほど増える。」


「その計算で合っています。」


「しかも、北部側の商品を王都へ運ぶ仕事まで増える。」


「はい。」


 ガルマンは紙を見つめた。


 そして――。


「……なるほど。」


 小さく呟いた。


「俺は、新しい物流網が既存の商売を奪うと思っていた。」


「でも違った。」


「既存の商売を使って、もっと大きな商売に変える。」


「その通りです。」


 アルトは笑った。


 ガルマンは椅子から立ち上がった。


「分かった。」


「では――。」


「協力しよう。」


 マルクがほっとしたように息を吐く。


「ありがとうございます。」


 アルトが頭を下げる。


 だが、ガルマンはすぐに続けた。


「ただし、条件がある。」


「何でしょう?」


「俺たちだけではない。」


 ガルマンはアルトを見る。


「他の商会にも同じだけ利益が出るようにしろ。」


「……。」


「一部の商会だけ儲かれば、また揉める。」


 アルトの顔に笑みが浮かんだ。


「もちろんです。」


「それなら俺も協力する。」


 こうして最大の反対勢力だったバルド商会が、物流改革の協力者となった。


 しかし――。


 問題は一つ解決しただけだった。


 その日の夕方。


 アルトが商人ギルドを出ようとした時、マルクが呼び止めた。


「アルト君。」


「はい?」


「実は、もう一つ報告がある。」


「何ですか?」


「北部から新しい情報が入った。」


 マルクは声を落とす。


「街道を封鎖している土砂崩れだが……。」


「はい。」


「どうやら自然災害だけではない可能性がある。」


 アルトの表情が変わった。


「人為的なものかもしれない。」


「……。」


「まだ確証はない。」


「ただ、現地の商人から妙な話が出ている。」


 アルトは黙って聞いていた。


「土砂崩れが起きる前日に、街道付近で不審な男たちが目撃されていたそうだ。」


 アルトは腕を組む。


(もし本当に誰かが……。)


 物流改革を止めるために街道を塞いだのだとしたら。


 今回の問題は、単なる商売上の対立ではなくなる。


「マルクさん。」


「何だ?」


「調べましょう。」


 アルトは静かに言った。


「誰が何のために街道を塞いだのか。」


 営業の問題なら、交渉で解決できる。


 しかし――。


 誰かが意図的に物流を止めているのなら。


 それは、もう商談だけでは解決できない問題だった。


 王国の物流改革を巡る戦いは、静かに別の段階へ入り始めていた。


営業メモ⑧⑦


「反対する相手を『敵』と決めつけない。相手が反対する理由を理解すれば、そこには必ず交渉の入口がある。『相手の利益を守りながら、自分の目的も達成する』――それが本当のWin-Winである。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第九十話「営業課長、街道封鎖の裏側を探る」


物流改革に反対していた商人たちは、アルトの提案によって次々と協力者へ変わっていく。


しかし、街道封鎖には別の影があった。


自然災害ではない可能性。


そして北部から届いた一枚の報告書に、アルトはある「不自然な数字」を見つける。


「これ……偶然じゃない。」


物流改革を狙う者の正体が、少しずつ浮かび上がる――。

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