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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第八十五話 営業課長、王宮からの依頼


 翌朝、アルトはレオンとともに王宮へ向かっていた。


 王都の中央にそびえ立つ白亜の王城は、何度見ても圧倒されるほどの威厳を放っている。


「何度来ても緊張するな……。」


 レオンは落ち着かない様子で服の襟を直した。


「そう?」


「そう? じゃない!」


 思わず声を上げるレオンに、アルトはくすりと笑う。


「貴族としての礼儀は心得ているつもりだが、王宮の空気だけは何度味わっても慣れん。」


「お父さんは真面目だからね。」


「誰のせいだと思ってる。」


「ぼくかな?」


「お前しかいない。」


 二人のやり取りに、案内役の騎士も思わず笑みを漏らした。


 王宮へ入ると、以前王女エリシアと出会った中庭の前を通る。


(懐かしいな。)


 あの時は、まさか自分が王宮から正式な依頼を受ける立場になるとは思ってもいなかった。


 やがて案内されたのは、会議室だった。


 室内には国王ではなく、数人の文官と商務を担当する大臣、そして見覚えのある人物が座っていた。


「アルト君。」


「マルクさん。」


 商人ギルドのマルクも同席している。


「今回は私が推薦人として参加している。」


「よろしくお願いします。」


 アルトが頭を下げると、正面に座る初老の男性が穏やかに微笑んだ。


「私は商務大臣、クラウスだ。」


 柔らかな物腰だが、その瞳には鋭い知性が宿っている。


「君の噂は聞いているよ。」


「ありがとうございます。」


「では、本題に入ろう。」


 クラウスは一枚の地図を机へ広げた。


 王国全土の街道と主要都市が描かれている。


「今年に入ってから、王都の物価が上昇している。」


 アルトは地図へ目を向ける。


「原因は?」


「小麦不足……そう考えられている。」


「考えられている?」


「実際には違う可能性がある。」


 アルトの表情が変わる。


「詳しく教えてください。」


 クラウスは頷いた。


「収穫量は例年より少し少ない程度だ。」


「それなら急激な値上がりは説明できませんね。」


「その通り。」


 文官の一人が資料を差し出す。


「王都ではパンの価格が三割上昇。」


「地方では逆に余っている地域もあります。」


 アルトは資料を読み進めた。


(なるほど。)


 前世でも似た事例を見たことがある。


「流通ですね。」


 その一言で部屋が静まり返る。


「どういう意味かな?」


 クラウスが尋ねる。


「物が足りないんじゃありません。」


 アルトは地図の一点を指差した。


「必要な場所へ届いていないだけです。」


 マルクが腕を組む。


「続けて。」


「この地域。」


 アルトが指したのは北部だった。


「街道が一本しかありません。」


「その通りだ。」


「途中で荷馬車が滞れば、全部止まります。」


 さらに西部を指差す。


「こちらは収穫量が多い。」


「しかし運ぶ商人が少ない。」


 文官たちが顔を見合わせる。


「確かに……。」


「つまり、小麦不足ではなく物流不足です。」


 クラウスが驚いたように目を見開いた。


「物流……。」


「はい。」


 アルトは頷く。


「商品はある。」


「でも届かない。」


「だから高くなる。」


 営業課長時代、何度も経験した問題だった。


 売れない原因は商品ではない。


 届け方なのである。


「では、どうすればいい?」


 クラウスが身を乗り出す。


「まず情報を集めます。」


「情報?」


「どこに在庫があり、どこが不足しているか。」


「……。」


「それを一覧にしてください。」


 文官たちは首をかしげる。


「そんなことをして意味があるのか?」


「あります。」


 アルトは自信を持って答えた。


「見えないから混乱するんです。」


「見えるようになれば、運ぶ先も決まります。」


 マルクが思わず笑った。


「商人ギルドでも同じことを言っていたな。」


「営業は情報戦ですから。」


 その言葉にクラウスは深く頷く。


「面白い。」


「もう一つあります。」


「まだあるのか?」


「運ぶ商人へ報酬を上乗せしてください。」


「上乗せ?」


「不足地域へ届けた商人だけ報酬を増やせば、自然と荷馬車はそちらへ向かいます。」


 部屋中が静まり返った。


 誰も思いつかなかった発想だった。


「命令ではなく、利益で動かすのか……。」


 クラウスが感心したように呟く。


「人は得をする方を選びます。」


「だから仕組みを作ればいい。」


 前世では当たり前だったインセンティブ制度。


 しかし、この世界ではまだ珍しい考え方だった。


 クラウスは椅子から立ち上がる。


「素晴らしい。」


「まずは君の案を試してみよう。」


 その時だった。


 会議室の扉が静かに開く。


「失礼いたします。」


 聞き覚えのある澄んだ声。


 振り向くと、美しいドレス姿の少女が立っていた。


「エリシア王女。」


 アルトが頭を下げる。


 エリシアは嬉しそうに微笑んだ。


「アルト、久しぶりね。」


「お久しぶりです。」


「あなたのお話、全部聞かせてもらったわ。」


 その笑顔は、以前中庭で出会った時と変わらない。


 しかし、その瞳には以前よりも強い期待が宿っていた。


「やっぱり、あなたは面白い人ね。」


 王女のその一言に、部屋の空気が少しだけ和らぐ。


 そしてアルトはまだ知らなかった。


 この再会が、王国の未来を左右する大きな出来事へとつながっていくことを――。


営業メモ⑧③


「問題が起きたら、まず『本当の原因は何か』を疑うこと。表面に見える現象ではなく、根本原因を見つけることが、最短の解決策につながる。」


━━━━━━━━━━━━━━


次回予告 第八十五話「営業課長、王女と市場を歩く」


エリシア王女から突然の誘いを受けたアルト。

二人は正体を隠して王都の市場を視察することに。

そこで見えてきたのは、机上では分からない現場の現実だった――。

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