第八十四話 営業課長、最年少アドバイザー誕生
翌朝――。
王都商人ギルド本部は、普段よりも早い時間から多くの商人で賑わっていた。
今日はいよいよ、商業アドバイザー認定試験の合格発表の日である。
掲示板の前には受験者や商会の関係者が集まり、落ち着かない様子で結果を待っていた。
「今年は誰が受かるんだ?」
「例年でも二、三人だろ。」
「今回も難しかったらしいぞ。」
そんな会話が飛び交う中、アルトはレオンと一緒に少し離れた場所で静かに待っていた。
「緊張しないのか?」
レオンが尋ねる。
「少しだけ。」
アルトは苦笑した。
「でも、やるだけやったからね。」
「お前らしいな。」
ほどなくして、ギルド職員が一枚の羊皮紙を掲示板へ貼り出した。
人々が一斉に押し寄せる。
「貼り出されたぞ!」
「どれどれ!」
アルトは背が低いため、人垣の向こうが見えない。
「見えない……。」
「よし。」
レオンはアルトを軽々と抱き上げた。
「これなら見えるか?」
「ありがとう、お父さん。」
アルトは掲示板へ視線を向ける。
そこには、わずか二人の名前しか書かれていなかった。
『合格者
アルト・レインハルト
グレゴール・バルディア』
一瞬、時間が止まった。
「……受かった。」
その呟きを聞いたレオンが掲示板を確認し、大きく目を見開く。
「本当だ……!」
次の瞬間。
「最年少だ!」
「まだ子どもじゃないか!」
「あり得るのか!?」
周囲が一気にざわめき始めた。
商人たちは信じられないものを見るような目でアルトを見つめる。
その時、奥からマルクがゆっくり歩いてきた。
「皆さん、お静かに。」
場が静まり返る。
「今回の試験において、アルト・レインハルト君は筆記免除、実技試験では歴代でも最高評価の一つを記録しました。」
さらに大きなどよめきが起こる。
「最高評価だって?」
「冗談じゃないぞ……。」
マルクは続ける。
「試験官全員一致での合格です。」
年配の試験官も前へ出てきた。
「最初は子どもだからと侮っていた。」
苦笑しながら頭を下げる。
「しかし、商談とは何かを改めて教えられた。」
その言葉に会場から自然と拍手が起こる。
パチ、パチ、パチ――。
やがて拍手は大きくなり、建物全体へ響き渡った。
アルトは少し照れくさそうに頭をかいた。
(褒められるのは嬉しいけど……目立つなぁ。)
前世では営業課長として表彰されることもあった。
しかし、今回はまだ八歳の少年である。
視線が痛い。
「アルト君。」
マルクが一枚の証書を差し出した。
「これが商業アドバイザー認定証だ。」
厚手の羊皮紙には王都商人ギルドの紋章と、美しい金色の文字が刻まれていた。
『王都商人ギルド公認 商業アドバイザー』
アルトは両手で丁寧に受け取る。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。」
マルクは満足そうに頷いた。
「これから君には、さまざまな相談が舞い込むだろう。」
「相談ですか?」
「ああ。商会だけではない。」
そこでマルクは少し声を潜めた。
「領主や貴族からも依頼が来るはずだ。」
その予想は、わずか数分後に現実となる。
ギルドの入口から、一人の騎士が足早に入ってきた。
銀色の鎧に、王家の紋章。
その姿を見た瞬間、商人たちが左右へ道を開ける。
「王宮騎士団……。」
騎士は真っ直ぐマルクの前まで歩いてきた。
「マルク殿。」
「どうされました?」
「王宮より伝令です。」
騎士は封蝋の施された書状を差し出す。
マルクは中身を読み、目を丸くした。
「……これは。」
「何かありましたか?」
アルトが尋ねると、マルクは苦笑する。
「さすがに早すぎる。」
「?」
「王宮から君への依頼だ。」
「え?」
会場中が凍り付く。
「王宮?」
「認定されたばかりだぞ?」
マルクは書状を読み上げた。
「『商業アドバイザー、アルト・レインハルト殿。王都経済に関する相談のため、登城を願いたい』……以上だ。」
レオンは口を開けたまま固まっている。
「アルト……。」
「何、お父さん?」
「お前、本当にうちの息子だよな?」
アルトは思わず吹き出した。
「失礼だなぁ。」
会場にも笑いが広がる。
しかし、その笑顔の裏でアルトは少しだけ表情を引き締めていた。
(王宮からの依頼……。)
(これは、村だけの話じゃなくなる。)
営業課長として培ってきた経験が、ついに王国全体を動かす舞台へ足を踏み入れようとしていた。
新たな挑戦の幕が、静かに上がる――。
営業メモ⑧②
「実績を積み重ねると、『仕事を取りに行く』段階から『仕事が向こうからやって来る』段階へ変わる。信用は最大の営業資産である。」
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次回予告 第八十五話「営業課長、王宮からの依頼」
王宮へ招かれたアルトを待っていたのは、王国中の商人たちを悩ませる難題だった。
営業課長の経験は、果たして王都最大の課題を解決できるのか――。




