第八十一話 営業課長、王国改革の新たな仲間
王都商業会議から三日後。
王城の会議室には、これまでにない顔ぶれが集まっていた。
東部の領主、クロード伯爵。
ベルナールの町長ロイド。
王都商会代表ダリウス。
グランディアの代表としてドルガとガレス。
さらに、各地から集まった若い領主や商人たち。
国王は満足そうに一同を見渡した。
「これが王国改革の第一歩だ。」
「今日から、お前たちは王国改革会議の創設メンバーとなる。」
部屋の空気が引き締まる。
◇
「まず確認したいことがあります。」
アルトは立ち上がり、王国全土の地図を広げた。
「皆さん。」
「王国で一番豊かな街はどこでしょう?」
「王都だ。」
「ベルナールじゃないか?」
「いや、鉱山都市グランディアだ。」
様々な答えが返ってくる。
アルトは静かに首を振った。
「正解は……ありません。」
「え?」
会議室がざわつく。
「街には、それぞれ役割があります。」
「港町は物流を支える。」
「鉱山都市は資源を支える。」
「農村は食を支える。」
「王都は情報を支える。」
「どれが欠けても王国は成り立ちません。」
国王が大きく頷く。
「まさにその通りだ。」
◇
アルトは地図へ一本の線を引いた。
ベルナールから王都へ。
王都からグランディアへ。
そして各地方へ。
「これまでの王国は、それぞれの街が別々に頑張っていました。」
「ですが。」
さらに線を書き加える。
やがて地図には無数の線が張り巡らされた。
「街同士が協力すれば、一つの街ではできないことも可能になります。」
ダリウスが目を輝かせる。
「物流網か!」
「はい。」
「ベルナールの海産物を王都へ。」
「王都の商人が全国へ販売する。」
「グランディアの武具を港から他国へ輸出する。」
「農村の特産品を祭りで紹介する。」
「すべてをつなげます。」
クロード伯爵は腕を組みながら笑った。
「なるほど。」
「街ではなく、王国全体を一つの会社のように考えるのか。」
アルトは思わず笑みを浮かべた。
「その考え方が、一番近いですね。」
前世で勤めていた会社も、営業部だけでは仕事は成り立たなかった。
製造。
物流。
経理。
総務。
それぞれが協力するからこそ、お客様へ価値を届けられる。
王国も同じだ。
◇
その時、一人の若い領主が立ち上がった。
「アルト様。」
「はい。」
「私は北部の小さな領地を治めています。」
「正直、今までは他領をライバルだと思っていました。」
「ですが……。」
彼は真っ直ぐアルトを見る。
「一緒に王国を良くしたい。」
その言葉をきっかけに、次々と声が上がる。
「私も。」
「うちの街も協力する。」
「農村も参加させてほしい。」
会議室は熱気に包まれた。
国王は静かに笑みを浮かべる。
「アルト。」
「はい。」
「お前は改革だけでなく、人の心まで変えてしまうのだな。」
アルトは少し照れくさそうに笑った。
「私は何も変えていません。」
「皆さんが元々持っていた力を、少しだけ引き出しただけです。」
◇
会議が終わり、夕暮れ。
アルトは王城の中庭を歩いていた。
そこへ王女エレナがやって来る。
「お疲れさま。」
「ありがとうございます。」
「今日の会議、とても良かったわ。」
エレナは花壇を見つめながら続ける。
「最初に会った頃は、一つの村を助けるだけだったのに。」
「今では王国全体を動かしている。」
アルトは空を見上げた。
夕焼けが王都を赤く染めている。
「まだ始まったばかりです。」
「王国には、まだ困っている街がたくさんあります。」
「一つずつ解決していきます。」
営業課長として積み重ねた四十二年の経験。
それは、この異世界でようやく本当の価値を発揮し始めていた。
王国改革は、今、新たな時代へと歩み始める。
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営業メモ⑦⑨
『組織は競わせるより、つなげることで強くなる。』
一人でできることには限界がある。
しかし、それぞれの強みを持つ仲間が協力すれば、一人では届かなかった成果へ手が届く。
営業とは、自分だけが成功する仕事ではない。
人と人をつなぎ、全員が成果を出せる仕組みを作る仕事である。
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――次回、第八十二話「営業課長、新たな改革の地へ」
王国改革会議が発足し、新たな仲間を得たアルト。
しかし国王から託された次の任務は、王国最北端の豪雪地帯。
誰も改革できなかった”白銀の領地”で、営業課長の新たな挑戦が始まる。




