第八十話 営業課長、王都商業会議へ
ベルナール大交易祭から十日後。
港町には以前にも増して多くの商船が出入りするようになっていた。
王都商会との取引も順調に進み、ベルナールの干物や海産物、職人たちの工芸品は王都でも評判となり始めている。
「アルト様!」
朝早く、ガレスが一通の封筒を持って駆け込んできた。
「王城からです!」
アルトは封筒を受け取り、封を切る。
そこには見慣れた王家の紋章が押されていた。
『王国商業会議開催につき、アルト殿の出席を求む。』
『国王陛下』
「商業会議……。」
アルトは小さく呟いた。
横で手紙を読んだ町長ロイドは目を丸くする。
「これは王国中の領主や大商会が集まる会議ですよ!」
「毎年一度しか開かれません。」
ドルガも感心したように腕を組んだ。
「とうとう王国全部が相手か。」
アルトは静かに笑う。
「営業先が少し広くなるだけです。」
その言葉に、部屋中が苦笑した。
◇
数日後。
王都。
王城の大会議場には、王国各地から集まった領主や商人たちが席についていた。
「今年はベルナールの改革をした子どもが来るらしい。」
「本当に噂どおりなのか?」
「運が良かっただけじゃないのか。」
ざわめきが広がる中、国王が入場する。
「これより王国商業会議を始める。」
場内は静まり返った。
国王はアルトへ視線を向ける。
「まずはベルナール改革について報告してもらおう。」
アルトはゆっくりと壇上へ歩き出た。
◇
「皆様、本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。」
深く一礼する。
「ベルナールの改革で、私が最初に行ったことは何だと思いますか?」
突然の問いに、会場はざわつく。
一人の貴族が答えた。
「税を下げたことではないか?」
「港を修理したのだろう。」
「商会を整理したのでは?」
様々な答えが飛び交う。
アルトは首を横に振った。
「違います。」
黒板に一つの言葉を書く。
『聞く』
「私は、商人の皆さんの話を聞きました。」
「漁師の皆さんの話を聞きました。」
「役人の皆さんの話も聞きました。」
「改革は、その後です。」
会場が静まり返る。
「現場を知らずに出す答えは、ただの思い込みです。」
「現場を知って初めて、本当の問題が見えてきます。」
その言葉に、何人もの領主が真剣な表情で頷いていた。
◇
しかし、その時。
一人の豪華な衣装をまとった領主が立ち上がった。
「きれい事だな。」
場内の空気が張り詰める。
「私は東部を治めるクロード伯爵だ。」
「毎日何百人もの領民がいる。」
「全員の話など聞いていたら、一年あっても足りん。」
会場からも賛同する声が上がる。
「確かに。」
「現実的ではない。」
アルトは落ち着いた表情のまま頷いた。
「その通りです。」
クロード伯爵は少し意外そうな顔をする。
「だから私は、全員には聞きません。」
「何?」
「一番困っている人に聞きます。」
アルトは続けた。
「営業でも、お客様全員へ同じ時間を使うことはできません。」
「だからこそ、一番困っている人、一番影響を受けている人の声を最初に聞くのです。」
「そこには、多くの人が抱えている問題が集まっています。」
会場は静まり返った。
クロード伯爵も腕を組み、黙って話を聞いている。
◇
その時、国王がゆっくりと立ち上がった。
「諸君。」
「ベルナールの改革は偶然ではない。」
「アルトは問題を解決したのではない。」
「人々が自ら問題を解決できる仕組みを作ったのだ。」
その言葉に、会場から大きな拍手が湧き起こる。
ダリウスも腕を組みながら笑っていた。
「なるほど。」
「だから私は負けたのか。」
アルトは深く一礼する。
だが、彼には分かっていた。
今日の拍手は終わりではない。
ここからが、本当の王国改革の始まりなのだ。
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営業メモ⑦⑧
『答えを急ぐ前に、まず現場の声を聞こう。』
机の上の資料だけでは、本当の課題は見えてこない。
一番困っている人の声には、改善のヒントが詰まっている。
営業でも改革でも、成功する人は「話す人」ではなく、「聞ける人」である。
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――次回、第八十一話「営業課長、王国改革の新たな仲間」
王都商業会議は大成功に終わった。
アルトの考えに共感した若き領主や商人たちが、次々と協力を申し出る。
王国全体を巻き込む改革が、いよいよ新たな段階へ進み始める。




