↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/246

第七十八話 営業課長、ベルナール大交易祭開幕


ベルナール大交易祭――当日。


まだ夜が明けきらない港には、多くの人々が集まり始めていた。


露店の準備をする商人。


最後の仕込みに追われる料理人。


船を岸壁へ誘導する船乗りたち。


街中が、これから始まる一日への期待に包まれていた。


「いよいよですね。」


ガレスが大きく息を吐く。


アルトは港を見渡しながら静かに頷いた。


「皆さんがここまで準備してきました。」


「今日は、その努力を楽しむ日です。」


◇


午前八時。


「ベルナール大交易祭、開幕!」


町長ロイドの高らかな宣言とともに、大きな鐘が鳴り響く。


ゴォォォン――。


その音を合図に、港へ次々と人が流れ込んできた。


「すごい人だ!」


「焼き魚のいい匂い!」


「あっちは船に乗れるらしいぞ!」


子どもたちは走り回り、大人たちは店先を覗き込む。


魚屋では炭火の香ばしい香りが漂い、試食した客が笑顔で頷いていた。


「これは美味い!」


「三つください!」


鍛冶屋ではドルガが子どもたちへ小さな金槌を渡している。


「力任せじゃねぇ。」


「音を聞け。」


「鉄は話しかければ応えてくれる。」


「できた!」


小さな包丁を完成させた少年が目を輝かせる。


「将来は鍛冶屋になる!」


その言葉に、ドルガは照れくさそうに笑った。


「待ってるぜ。」


◇


一方、港の入口。


豪華な馬車から一人の男が降り立つ。


黒い上着に銀の刺繍。


鋭い眼差し。


王都最大級の商会を率いる男――ダリウスだった。


「これがベルナールか。」


彼は街の様子を静かに眺める。


「……面白い。」


部下が尋ねる。


「何か問題でも?」


「いや。」


ダリウスは首を横へ振る。


「値下げをしていない。」


「それなのに客が離れない。」


彼は魚屋の前で立ち止まった。


焼き魚を受け取った老夫婦が笑顔で話している。


「また来年も来よう。」


「今度は孫も連れてこようね。」


その会話を聞いたダリウスは目を細めた。


「一度の売上ではない……。」


「来年の約束まで売っているのか。」


◇


昼過ぎ。


交易祭は最高潮を迎えていた。


港には入りきらないほどの船。


露店には長い列。


町長ロイドは信じられないという顔で報告書を見つめる。


「午前だけで……。」


「普段の三日分の売上です!」


会議室が歓声に包まれる。


しかし、アルトだけは冷静だった。


「まだ終わっていません。」


「え?」


「本当の評価は、お客様が帰る時に決まります。」


営業課長だった頃。


契約が決まった瞬間よりも、その後の満足度を大切にしてきた。


笑顔で帰る人は、必ずまた戻ってくる。


そして新しいお客様を連れてきてくれる。


◇


夕方。


交易祭も終盤を迎えた頃、一人の少女が泣きながら港を歩いていた。


「お母さん……。」


「どこ……。」


人混みではぐれてしまったのだろう。


アルトはすぐに少女の前へしゃがみ込んだ。


「大丈夫。」


「名前を教えてくれるかな?」


「リナ……。」


「よし、リナちゃん。」


「一緒にお母さんを探そう。」


アルトは近くにいた商人へ声を掛ける。


「広場まで知らせてもらえますか。」


「任せろ!」


その声を聞いた魚屋も、鍛冶屋も、船乗りも動き始めた。


「女の子を探してる!」


「名前はリナちゃんだ!」


あっという間に情報が港中へ広がっていく。


十分後。


「リナ!」


涙を流しながら駆け寄ってきた母親が、少女を強く抱きしめた。


「お母さん!」


周囲から自然と拍手が起こる。


母親は何度も頭を下げた。


「ありがとうございました!」


その様子を見ていたダリウスは、小さく笑った。


「なるほど……。」


「この街が売っているのは商品ではない。」


「人とのつながりか。」


◇


日が沈み始める頃。


港は夕日に染まり、多くの来場者が満足そうな表情で帰路についていた。


「楽しかった。」


「来年も絶対来よう。」


「ベルナールって、いい街だね。」


その言葉を聞いた町長ロイドは目頭を押さえた。


「街の名前を褒められる日が来るなんて……。」


アルトは静かに微笑む。


売上は大切だ。


利益も必要だ。


だが、本当に街を発展させるのは、人々の心に残る思い出である。


営業課長として信じ続けてきた価値が、今、ベルナールの未来を照らしていた。


⸻


営業メモ⑦⑥


『一度のお客様を、一生のお客様へ。』


売上だけを追いかければ、その場限りの関係で終わってしまう。


しかし、相手の心に残る体験を届ければ、「また来たい」「誰かに紹介したい」という気持ちが生まれる。


営業とは、商品を売る仕事ではない。


人との信頼を積み重ね、長く続く関係を築く仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十九話「営業課長、最大の商談」


交易祭は大成功を収めた。


その夜、王都商会の代表ダリウスがアルトへ面会を申し込む。


敵か、それとも新たな協力者か。


営業課長にとって、王国の未来を左右する大きな商談が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。