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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第七十八話 営業課長、ベルナール大交易祭開幕


ベルナール大交易祭――当日。


まだ夜が明けきらない港には、多くの人々が集まり始めていた。


露店の準備をする商人。


最後の仕込みに追われる料理人。


船を岸壁へ誘導する船乗りたち。


街中が、これから始まる一日への期待に包まれていた。


「いよいよですね。」


ガレスが大きく息を吐く。


アルトは港を見渡しながら静かに頷いた。


「皆さんがここまで準備してきました。」


「今日は、その努力を楽しむ日です。」



午前八時。


「ベルナール大交易祭、開幕!」


町長ロイドの高らかな宣言とともに、大きな鐘が鳴り響く。


ゴォォォン――。


その音を合図に、港へ次々と人が流れ込んできた。


「すごい人だ!」


「焼き魚のいい匂い!」


「あっちは船に乗れるらしいぞ!」


子どもたちは走り回り、大人たちは店先を覗き込む。


魚屋では炭火の香ばしい香りが漂い、試食した客が笑顔で頷いていた。


「これは美味い!」


「三つください!」


鍛冶屋ではドルガが子どもたちへ小さな金槌を渡している。


「力任せじゃねぇ。」


「音を聞け。」


「鉄は話しかければ応えてくれる。」


「できた!」


小さな包丁を完成させた少年が目を輝かせる。


「将来は鍛冶屋になる!」


その言葉に、ドルガは照れくさそうに笑った。


「待ってるぜ。」



一方、港の入口。


豪華な馬車から一人の男が降り立つ。


黒い上着に銀の刺繍。


鋭い眼差し。


王都最大級の商会を率いる男――ダリウスだった。


「これがベルナールか。」


彼は街の様子を静かに眺める。


「……面白い。」


部下が尋ねる。


「何か問題でも?」


「いや。」


ダリウスは首を横へ振る。


「値下げをしていない。」


「それなのに客が離れない。」


彼は魚屋の前で立ち止まった。


焼き魚を受け取った老夫婦が笑顔で話している。


「また来年も来よう。」


「今度は孫も連れてこようね。」


その会話を聞いたダリウスは目を細めた。


「一度の売上ではない……。」


「来年の約束まで売っているのか。」



昼過ぎ。


交易祭は最高潮を迎えていた。


港には入りきらないほどの船。


露店には長い列。


町長ロイドは信じられないという顔で報告書を見つめる。


「午前だけで……。」


「普段の三日分の売上です!」


会議室が歓声に包まれる。


しかし、アルトだけは冷静だった。


「まだ終わっていません。」


「え?」


「本当の評価は、お客様が帰る時に決まります。」


営業課長だった頃。


契約が決まった瞬間よりも、その後の満足度を大切にしてきた。


笑顔で帰る人は、必ずまた戻ってくる。


そして新しいお客様を連れてきてくれる。



夕方。


交易祭も終盤を迎えた頃、一人の少女が泣きながら港を歩いていた。


「お母さん……。」


「どこ……。」


人混みではぐれてしまったのだろう。


アルトはすぐに少女の前へしゃがみ込んだ。


「大丈夫。」


「名前を教えてくれるかな?」


「リナ……。」


「よし、リナちゃん。」


「一緒にお母さんを探そう。」


アルトは近くにいた商人へ声を掛ける。


「広場まで知らせてもらえますか。」


「任せろ!」


その声を聞いた魚屋も、鍛冶屋も、船乗りも動き始めた。


「女の子を探してる!」


「名前はリナちゃんだ!」


あっという間に情報が港中へ広がっていく。


十分後。


「リナ!」


涙を流しながら駆け寄ってきた母親が、少女を強く抱きしめた。


「お母さん!」


周囲から自然と拍手が起こる。


母親は何度も頭を下げた。


「ありがとうございました!」


その様子を見ていたダリウスは、小さく笑った。


「なるほど……。」


「この街が売っているのは商品ではない。」


「人とのつながりか。」



日が沈み始める頃。


港は夕日に染まり、多くの来場者が満足そうな表情で帰路についていた。


「楽しかった。」


「来年も絶対来よう。」


「ベルナールって、いい街だね。」


その言葉を聞いた町長ロイドは目頭を押さえた。


「街の名前を褒められる日が来るなんて……。」


アルトは静かに微笑む。


売上は大切だ。


利益も必要だ。


だが、本当に街を発展させるのは、人々の心に残る思い出である。


営業課長として信じ続けてきた価値が、今、ベルナールの未来を照らしていた。



営業メモ⑦⑥


『一度のお客様を、一生のお客様へ。』


売上だけを追いかければ、その場限りの関係で終わってしまう。


しかし、相手の心に残る体験を届ければ、「また来たい」「誰かに紹介したい」という気持ちが生まれる。


営業とは、商品を売る仕事ではない。


人との信頼を積み重ね、長く続く関係を築く仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十九話「営業課長、最大の商談」


交易祭は大成功を収めた。


その夜、王都商会の代表ダリウスがアルトへ面会を申し込む。


敵か、それとも新たな協力者か。


営業課長にとって、王国の未来を左右する大きな商談が始まる。


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