↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/250

第七十七話 営業課長、価値で勝負する


ベルナール大交易祭まで、あと五日。


港町は祭りの準備で大賑わいだった。


色鮮やかな旗が港に掲げられ、露店が次々と組み立てられていく。


子どもたちは走り回り、大人たちは忙しくも楽しそうに働いていた。


しかし、その活気とは裏腹に、町役場の会議室には重苦しい空気が漂っていた。


「また値下げです。」


商人の一人が頭を抱える。


机の上には王都商会が配った新しいチラシが置かれていた。


『交易祭期間限定 全商品三割引!』


「昨日は二割引だったのに……。」


「このままじゃ、うちも値下げするしかない。」


「利益なんて残らないぞ。」


次々と不安の声が上がる。


町長ロイドも苦い顔をしていた。


「アルト様。」


「このままでは、お客様が全部向こうへ流れてしまいます。」


全員の視線がアルトへ集まる。


◇


アルトはチラシを手に取り、静かに眺めた。


「皆さん。」


「一つ質問してもいいですか?」


商人たちは頷く。


「皆さんは、なぜベルナールで商売をしていますか?」


突然の質問だった。


「それは……。」


魚屋の主人が答える。


「親父の代から続く店だから。」


「俺は、この港の魚が好きだから。」


「私は、この街のお客さんが好きだから。」


それぞれが、自分の理由を口にする。


アルトは優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。」


「では、その理由は値段で決まりますか?」


会議室が静まり返る。


「違いますよね。」


「皆さんが売っているのは、魚だけではありません。」


「この街の誇りです。」


◇


アルトは黒板へ大きく書いた。


『価格競争をしない』


「えっ?」


「値下げしないんですか?」


商人たちが驚く。


「はい。」


「もし相手が三割引なら、次は五割引になります。」


「さらに七割引。」


「最後は誰も儲かりません。」


ガレスが頷く。


「終わりのない勝負ですね。」


「その通りです。」


アルトはもう一つ言葉を書き加えた。


『価値競争』


「価値?」


「例えば、この干物。」


アルトは魚屋の商品を手に取る。


「この魚を焼いて試食できます。」


「漁師さん本人が獲れた時の話をしてくれます。」


「おすすめの食べ方も教えます。」


「さらに、お買い上げいただいた方へ、ベルナール特製の香辛料を少しだけお付けしましょう。」


魚屋の主人は目を丸くした。


「そんなことで売れるのか?」


「売れます。」


アルトは笑顔で答える。


「人は『物』ではなく、『体験』を買うんです。」


◇


翌日から、街は大きく変わり始めた。


魚屋では炭火で焼いた魚の香りが漂う。


「どうぞ! 焼きたてですよ!」


「この魚は今朝、沖合で獲れたばかりなんです!」


子どもたちが笑顔で試食する。


鍛冶屋では、小さな包丁作り体験が始まった。


木工職人は子ども向けの船作り教室を開いている。


料理人は海鮮スープの試飲会を始めた。


街全体が、一つの大きな舞台になっていた。


◇


その様子を見た王都商会の支配人・ダリウスは眉をひそめる。


「売上はどうだ。」


部下が慌てて報告する。


「最初は順調でしたが……。」


「昼頃からベルナールへ人が流れています。」


「理由は?」


「体験が面白いと評判になっています。」


ダリウスは机を軽く叩いた。


「面白い。」


「値段ではなく、楽しさで客を集めるか。」


そしてゆっくりと立ち上がる。


「ならば私も行こう。」


「この目で、その営業課長を見てみたい。」


ベルナール最大の交易祭。


その幕が上がる直前、ついに最大のライバルが動き出した。


⸻


営業メモ⑦⑤


『価格で選ばれるより、価値で選ばれる存在になろう。』


値下げは誰でもできる。


しかし、「この人から買いたい」と思ってもらえる価値は、一朝一夕では作れない。


知識、体験、信頼、楽しさ。


価格以外の魅力を積み重ねることで、お客様は長く応援してくれる。


営業とは、値段ではなく価値を届ける仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十八話「営業課長、交易祭開幕」


ついにベルナール大交易祭が始まる。


王都商会との真っ向勝負。


アルトは営業課長として培った知恵で、街の未来を懸けた一日に挑む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。