↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
PR
77/141

第七十七話 営業課長、価値で勝負する


ベルナール大交易祭まで、あと五日。


港町は祭りの準備で大賑わいだった。


色鮮やかな旗が港に掲げられ、露店が次々と組み立てられていく。


子どもたちは走り回り、大人たちは忙しくも楽しそうに働いていた。


しかし、その活気とは裏腹に、町役場の会議室には重苦しい空気が漂っていた。


「また値下げです。」


商人の一人が頭を抱える。


机の上には王都商会が配った新しいチラシが置かれていた。


『交易祭期間限定 全商品三割引!』


「昨日は二割引だったのに……。」


「このままじゃ、うちも値下げするしかない。」


「利益なんて残らないぞ。」


次々と不安の声が上がる。


町長ロイドも苦い顔をしていた。


「アルト様。」


「このままでは、お客様が全部向こうへ流れてしまいます。」


全員の視線がアルトへ集まる。



アルトはチラシを手に取り、静かに眺めた。


「皆さん。」


「一つ質問してもいいですか?」


商人たちは頷く。


「皆さんは、なぜベルナールで商売をしていますか?」


突然の質問だった。


「それは……。」


魚屋の主人が答える。


「親父の代から続く店だから。」


「俺は、この港の魚が好きだから。」


「私は、この街のお客さんが好きだから。」


それぞれが、自分の理由を口にする。


アルトは優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。」


「では、その理由は値段で決まりますか?」


会議室が静まり返る。


「違いますよね。」


「皆さんが売っているのは、魚だけではありません。」


「この街の誇りです。」



アルトは黒板へ大きく書いた。


『価格競争をしない』


「えっ?」


「値下げしないんですか?」


商人たちが驚く。


「はい。」


「もし相手が三割引なら、次は五割引になります。」


「さらに七割引。」


「最後は誰も儲かりません。」


ガレスが頷く。


「終わりのない勝負ですね。」


「その通りです。」


アルトはもう一つ言葉を書き加えた。


『価値競争』


「価値?」


「例えば、この干物。」


アルトは魚屋の商品を手に取る。


「この魚を焼いて試食できます。」


「漁師さん本人が獲れた時の話をしてくれます。」


「おすすめの食べ方も教えます。」


「さらに、お買い上げいただいた方へ、ベルナール特製の香辛料を少しだけお付けしましょう。」


魚屋の主人は目を丸くした。


「そんなことで売れるのか?」


「売れます。」


アルトは笑顔で答える。


「人は『物』ではなく、『体験』を買うんです。」



翌日から、街は大きく変わり始めた。


魚屋では炭火で焼いた魚の香りが漂う。


「どうぞ! 焼きたてですよ!」


「この魚は今朝、沖合で獲れたばかりなんです!」


子どもたちが笑顔で試食する。


鍛冶屋では、小さな包丁作り体験が始まった。


木工職人は子ども向けの船作り教室を開いている。


料理人は海鮮スープの試飲会を始めた。


街全体が、一つの大きな舞台になっていた。



その様子を見た王都商会の支配人・ダリウスは眉をひそめる。


「売上はどうだ。」


部下が慌てて報告する。


「最初は順調でしたが……。」


「昼頃からベルナールへ人が流れています。」


「理由は?」


「体験が面白いと評判になっています。」


ダリウスは机を軽く叩いた。


「面白い。」


「値段ではなく、楽しさで客を集めるか。」


そしてゆっくりと立ち上がる。


「ならば私も行こう。」


「この目で、その営業課長を見てみたい。」


ベルナール最大の交易祭。


その幕が上がる直前、ついに最大のライバルが動き出した。



営業メモ⑦⑤


『価格で選ばれるより、価値で選ばれる存在になろう。』


値下げは誰でもできる。


しかし、「この人から買いたい」と思ってもらえる価値は、一朝一夕では作れない。


知識、体験、信頼、楽しさ。


価格以外の魅力を積み重ねることで、お客様は長く応援してくれる。


営業とは、値段ではなく価値を届ける仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十八話「営業課長、交易祭開幕」


ついにベルナール大交易祭が始まる。


王都商会との真っ向勝負。


アルトは営業課長として培った知恵で、街の未来を懸けた一日に挑む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。