第七十四話 営業課長、公平な港を取り戻す
海運組合の不正が明らかになった翌日。
ベルナールの町役場には、多くの商人や漁師、船乗りたちが集まっていた。
誰もが不安そうな表情を浮かべている。
「組合を解散するのか?」
「港は動くのか?」
「荷物はちゃんと運べるんだろうな?」
不正は暴かれた。
しかし、組織が止まれば物流も止まる。
街の人々が本当に心配しているのは、そのことだった。
◇
「皆さん。」
アルトは壇上へ立ち、静かに口を開く。
「今日は誰かを裁くためではなく、港の未来を決めるために集まっていただきました。」
会場が静まり返る。
「まず、お伝えしたいことがあります。」
アルトは海運組合の組合員たちへ視線を向けた。
「海運組合は必要です。」
その一言に、会場がどよめく。
「えっ?」
「残すのか?」
驚く人々を見ながら、アルトは続けた。
「船を安全に管理する。」
「港を維持する。」
「船乗りを育てる。」
「これらは組合だからこそできる大切な仕事です。」
組合員たちが顔を上げる。
「問題だったのは組合ではありません。」
「一部の人だけが利益を得る仕組みでした。」
グレインは黙ったまま俯いていた。
◇
アルトは一枚の大きな紙を掲げる。
そこには新しい制度が書かれていた。
『ベルナール港・新運営規則』
一、入港順は到着順とする。
一、空いている桟橋はすべて使用する。
一、使用料は公開する。
一、積荷の順番は毎日掲示する。
一、港の会計は毎月公開する。
商人たちが顔を見合わせる。
「順番が分かるのか。」
「待ち時間も減るぞ。」
「会計まで公開するのか?」
アルトは頷いた。
「情報は、一部の人だけが持つから力になります。」
「皆が知っていれば、不正は起きにくくなります。」
バルドが感心したように腕を組む。
「なるほど……。」
「秘密ではなく、透明性か。」
「はい。」
営業でも同じだった。
価格。
納期。
契約内容。
隠すから疑われる。
最初からすべて説明すれば、お客様は安心する。
◇
そこへ、若い組合員が立ち上がった。
昨日、勇気を出して声を上げた青年だった。
「アルト様。」
「何でしょう?」
「俺たちにも、この港を変える手伝いをさせてください。」
その一言をきっかけに、次々と手が挙がる。
「俺も。」
「私もやる。」
「昔みたいに誇れる港へ戻したい。」
町長ロイドは目頭を押さえた。
「こんな日が来るとは……。」
◇
その時だった。
グレインがゆっくりと立ち上がる。
誰もが息を呑んだ。
「アルト。」
低い声が会場へ響く。
「私は負けた。」
「いや……違うな。」
グレインは首を横へ振った。
「自分自身に負けていた。」
若い頃は、この港を誰よりも愛していた。
船が増えれば嬉しかった。
商人が笑えば誇らしかった。
だが、いつしか利益だけを見るようになり、大切なものを忘れてしまった。
グレインは深く頭を下げる。
「組合長を辞任する。」
会場が静まり返る。
そして彼は若い組合員へ振り向いた。
「レオン。」
「お前なら、この港を任せられる。」
突然名前を呼ばれた青年は目を丸くした。
「お、俺ですか?」
「ああ。」
「私のようになるな。」
「港は支配するものじゃない。」
「支えるものだ。」
レオンは力強く頷いた。
「はい!」
その瞬間、会場は大きな拍手に包まれた。
アルトはその光景を静かに見つめていた。
改革とは、古いものを壊すことではない。
良いものを残し、悪い仕組みだけを変えること。
営業課長として積み重ねてきた経験が、また一つ街の未来を動かしたのだった。
◇
その日の夕暮れ。
港には久しぶりに多くの船が並び始めていた。
閉鎖されていた桟橋にも船が接岸し、商人たちの笑顔が戻る。
ベルナールの港は、ようやく本来の姿を取り戻し始めていた。
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営業メモ⑦②
『改革とは、壊すことではなく、活かすことである。』
長く続いてきた組織には、必ず守るべき価値がある。
問題があるからといって、すべてを否定してしまえば、本当に大切なものまで失ってしまう。
良い部分は残し、悪い仕組みだけを改善する。
それこそが、多くの人に受け入れられる改革への近道である。
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――次回、第七十五話「営業課長、ベルナール大交易祭を企画する」
港に活気は戻った。
しかし、アルトの改革はまだ終わらない。
ベルナールの名を王国中へ広めるため、街の未来を懸けた大交易祭が幕を開ける。




