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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第七十二話 営業課長、港を支配する影


翌朝。


ベルナールの港は、日の出とともに活気づき始めていた。


漁船が次々と帰港し、魚市場には威勢のいい掛け声が響く。


しかし、その賑わいとは対照的に、港の一角だけは異様な静けさに包まれていた。


巨大な倉庫。


その扉には、銀色の錨の紋章。


昨日、アルトが目にしたものと同じ印だった。


「ここが海運組合です。」


町長ロイドが小さな声で説明する。


「ベルナールで船を出すには、必ず組合を通さなければなりません。」


「法律ですか?」


「……いいえ。」


ロイドは苦々しく首を振った。


「昔からの慣習です。」


アルトは静かに倉庫を見つめた。


法律ではない。


それでも誰も逆らえない。


営業課長時代にも似たようなケースはあった。


「昔からそうだから。」


その一言が、改革を止める最大の壁になることは少なくない。



「まずは話を聞きましょう。」


アルトたちは海運組合の本部を訪れた。


応接室には、立派な椅子へ深く腰掛けた一人の男がいた。


五十代ほどだろうか。


日に焼けた肌と鋭い目つき。


胸元には銀色の錨の徽章。


「私は海運組合長、グレインだ。」


低く響く声だった。


「国王の使者とは珍しい。」


アルトは丁寧に頭を下げる。


「本日は港町について教えていただきたく参りました。」


「教える?」


グレインは鼻で笑う。


「坊やに海の仕事が分かるのか?」


部屋の空気が張り詰める。


護衛たちが身構えた。


だがアルトは笑顔を崩さなかった。


「分かりません。」


その一言に、グレインは眉をひそめる。


「だから教えていただきたいのです。」


「……ほう。」


「私は営業をしていました。」


「相手を知る前に、自分の考えを押し付けても良い結果にはなりません。」


「まずは現場を知ることが大切だと思っています。」


グレインはしばらく黙っていた。


そして、ゆっくりと口角を上げる。


「面白い坊主だ。」


「そこまで言うなら教えてやる。」



案内された港の埠頭。


そこには十数隻もの大型商船が停泊していた。


「船はある。」


グレインが言う。


「船乗りもいる。」


「荷物も集まる。」


「それでも商人は減った。」


アルトは静かに辺りを見回した。


その時、一隻の船が港へ入ろうとしているのが見えた。


しかし。


「止まれ!」


見張りが旗を振る。


船は沖で停止した。


「なぜ港へ入れないのですか?」


アルトが尋ねる。


グレインは当然のように答えた。


「順番待ちだ。」


「前の船が終わるまで待機する。」


アルトは時計代わりの砂時計を見る。


一時間。


二時間。


三時間。


船は動かない。


「……長いですね。」


「港は一つしかない。」


「仕方あるまい。」


グレインは肩をすくめた。


だがアルトの視線は岸壁へ向く。


そこには、誰も使っていない桟橋が二つ。


静かに波へ揺られていた。


「組合長。」


「何だ?」


「あの桟橋は使わないのですか?」


一瞬だけ。


グレインの表情が止まった。


「……古い。」


「危険だから閉鎖している。」


アルトは小さく頷く。


「なるほど。」


だが、その答えに違和感を覚えた。


木材は新しく補修された跡がある。


ロープも交換されたばかりだ。


本当に危険なら、なぜ整備だけは続けているのだろう。



夕方。


宿へ戻る途中。


ガレスが声を潜める。


「アルト様。」


「何か気になることでも?」


「はい。」


「閉鎖された桟橋ですが……。」


「あそこから小舟が出ていくのを見ました。」


アルトは足を止めた。


「何時頃ですか?」


「昼過ぎです。」


「誰が乗っていました?」


「遠くて分かりません。」


アルトは静かに微笑んだ。


「見えてきましたね。」


「何がです?」


「港が衰退した、本当の理由です。」


使われないはずの桟橋。


そこから出入りする小舟。


そして海運組合だけが握る港の運営。


点だった情報が、一本の線でつながり始める。


営業課長が最も得意とする仕事。


情報を整理し、真実へたどり着く時間が始まっていた。



営業メモ⑦⓪


『分からないことは、知ったふりをせずに聞く。』


知識があるように見せようとすると、本当に大切な情報を見逃してしまう。


「教えてください。」


その一言を素直に言える人ほど、多くを学び、成長する。


営業とは、話の上手さだけではない。


学び続ける姿勢こそが、相手から信頼される第一歩である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十三話「営業課長、港の利権を暴く」


閉鎖されたはずの桟橋で続く謎の荷運び。


アルトは港に隠された利権構造へ踏み込み、ベルナール最大の秘密へ迫る。


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