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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第七十二話 営業課長、港を支配する影


翌朝。


ベルナールの港は、日の出とともに活気づき始めていた。


漁船が次々と帰港し、魚市場には威勢のいい掛け声が響く。


しかし、その賑わいとは対照的に、港の一角だけは異様な静けさに包まれていた。


巨大な倉庫。


その扉には、銀色の錨の紋章。


昨日、アルトが目にしたものと同じ印だった。


「ここが海運組合です。」


町長ロイドが小さな声で説明する。


「ベルナールで船を出すには、必ず組合を通さなければなりません。」


「法律ですか?」


「……いいえ。」


ロイドは苦々しく首を振った。


「昔からの慣習です。」


アルトは静かに倉庫を見つめた。


法律ではない。


それでも誰も逆らえない。


営業課長時代にも似たようなケースはあった。


「昔からそうだから。」


その一言が、改革を止める最大の壁になることは少なくない。


◇


「まずは話を聞きましょう。」


アルトたちは海運組合の本部を訪れた。


応接室には、立派な椅子へ深く腰掛けた一人の男がいた。


五十代ほどだろうか。


日に焼けた肌と鋭い目つき。


胸元には銀色の錨の徽章。


「私は海運組合長、グレインだ。」


低く響く声だった。


「国王の使者とは珍しい。」


アルトは丁寧に頭を下げる。


「本日は港町について教えていただきたく参りました。」


「教える?」


グレインは鼻で笑う。


「坊やに海の仕事が分かるのか?」


部屋の空気が張り詰める。


護衛たちが身構えた。


だがアルトは笑顔を崩さなかった。


「分かりません。」


その一言に、グレインは眉をひそめる。


「だから教えていただきたいのです。」


「……ほう。」


「私は営業をしていました。」


「相手を知る前に、自分の考えを押し付けても良い結果にはなりません。」


「まずは現場を知ることが大切だと思っています。」


グレインはしばらく黙っていた。


そして、ゆっくりと口角を上げる。


「面白い坊主だ。」


「そこまで言うなら教えてやる。」


◇


案内された港の埠頭。


そこには十数隻もの大型商船が停泊していた。


「船はある。」


グレインが言う。


「船乗りもいる。」


「荷物も集まる。」


「それでも商人は減った。」


アルトは静かに辺りを見回した。


その時、一隻の船が港へ入ろうとしているのが見えた。


しかし。


「止まれ!」


見張りが旗を振る。


船は沖で停止した。


「なぜ港へ入れないのですか?」


アルトが尋ねる。


グレインは当然のように答えた。


「順番待ちだ。」


「前の船が終わるまで待機する。」


アルトは時計代わりの砂時計を見る。


一時間。


二時間。


三時間。


船は動かない。


「……長いですね。」


「港は一つしかない。」


「仕方あるまい。」


グレインは肩をすくめた。


だがアルトの視線は岸壁へ向く。


そこには、誰も使っていない桟橋が二つ。


静かに波へ揺られていた。


「組合長。」


「何だ?」


「あの桟橋は使わないのですか?」


一瞬だけ。


グレインの表情が止まった。


「……古い。」


「危険だから閉鎖している。」


アルトは小さく頷く。


「なるほど。」


だが、その答えに違和感を覚えた。


木材は新しく補修された跡がある。


ロープも交換されたばかりだ。


本当に危険なら、なぜ整備だけは続けているのだろう。


◇


夕方。


宿へ戻る途中。


ガレスが声を潜める。


「アルト様。」


「何か気になることでも?」


「はい。」


「閉鎖された桟橋ですが……。」


「あそこから小舟が出ていくのを見ました。」


アルトは足を止めた。


「何時頃ですか?」


「昼過ぎです。」


「誰が乗っていました?」


「遠くて分かりません。」


アルトは静かに微笑んだ。


「見えてきましたね。」


「何がです?」


「港が衰退した、本当の理由です。」


使われないはずの桟橋。


そこから出入りする小舟。


そして海運組合だけが握る港の運営。


点だった情報が、一本の線でつながり始める。


営業課長が最も得意とする仕事。


情報を整理し、真実へたどり着く時間が始まっていた。


⸻


営業メモ⑦⓪


『分からないことは、知ったふりをせずに聞く。』


知識があるように見せようとすると、本当に大切な情報を見逃してしまう。


「教えてください。」


その一言を素直に言える人ほど、多くを学び、成長する。


営業とは、話の上手さだけではない。


学び続ける姿勢こそが、相手から信頼される第一歩である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十三話「営業課長、港の利権を暴く」


閉鎖されたはずの桟橋で続く謎の荷運び。


アルトは港に隠された利権構造へ踏み込み、ベルナール最大の秘密へ迫る。


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