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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第七十話 営業課長、港町へ向かう


「王国全土の産業改革を任せたい。」


国王の言葉は、謁見の間にいた誰もの胸へ深く刻まれた。


翌日。


アルトは王城の会議室へ招かれていた。


部屋には国王のほか、宰相、財務大臣、商務大臣、そして王女エレナが席についている。


机の上には王国全土の地図が広げられていた。


「アルト。」


国王が地図の西側を指差す。


「お前の最初の仕事はここだ。」


そこには『港町ベルナール』と書かれていた。


「ベルナール……。」


アルトは資料を手に取る。


王国最大級の港町。


かつては他国との交易で大いに栄えた街。


しかし近年は船の往来が減り、商人も次々と離れているという。


「原因は分かっているのですか?」


アルトが尋ねる。


商務大臣が首を横に振った。


「港の設備が古い。」


「税が高い。」


「商人の質が落ちた。」


「様々な意見があるが、決定的な原因は掴めていない。」


アルトは資料を閉じた。


「では、現地で確認します。」


その答えに、国王は満足そうに頷いた。


「やはり、お前はそう言うと思った。」



三日後。


アルトは護衛と数名の役人を連れ、港町ベルナールへ向かっていた。


街道を進むにつれ、潮の香りが風に乗って漂ってくる。


やがて小高い丘を越えた瞬間。


広大な海が視界いっぱいに広がった。


「……すごい。」


アルトは思わず声を漏らす。


青く輝く海。


港へ並ぶ巨大な帆船。


遠くには外国船の姿も見える。


前世でも海を見る機会はあった。


しかし、この世界の港はどこか活気が足りなかった。


「船が少ない。」


アルトが呟く。


護衛の一人が頷く。


「十年前は、この三倍は停泊していたそうです。」


「三倍……。」


それだけ商人が離れたということか。



港へ到着すると、一人の初老の男性が出迎えた。


「ようこそ、ベルナールへ。」


町長のロイドだった。


疲れ切った表情をしているが、その目にはまだ街を諦めていない強さがあった。


「アルト様のお噂は聞いております。」


「グランディアを立て直した方だと。」


アルトは頭を下げる。


「まだ何も分かりません。」


「まずは街を見せてください。」


「もちろんです。」



市場へ足を運ぶ。


魚は新鮮。


野菜も豊富。


職人が作る網や樽の品質も悪くない。


「商品は良い。」


アルトは心の中で整理する。


次に港。


岸壁は多少古いものの、船が着けられないほどではない。


倉庫も十分ある。


「設備も致命的ではない。」


最後に商店街。


ここでアルトは足を止めた。


昼だというのに、人通りが少ない。


店員たちは店先で座り込み、お客様を待っているだけだった。


「……なるほど。」


アルトは小さく呟いた。


「何か分かりましたか?」


町長ロイドが尋ねる。


アルトは一軒の干物屋へ近づく。


「すみません。」


「はい?」


「こちらのおすすめは何ですか?」


店主は少し困ったような顔をした。


「おすすめ……ですか?」


「全部です。」


「全部新鮮ですから。」


アルトは微笑みながら一つ干物を手に取る。


「これは、どんな魚ですか?」


「えっと……。」


「普通の魚です。」


「どうやって食べると美味しいですか?」


「焼けば食べられます。」


アルトは礼を言って店を離れた。


そして町長へ向き直る。


「原因が一つ分かりました。」


「え?」


「この街は、『商品』は売っています。」


「ですが、『魅力』を売っていません。」


町長は首をかしげる。


「魅力?」


「はい。」


「この魚はどこで獲れたのか。」


「どんな漁師が獲ったのか。」


「どう食べれば一番美味しいのか。」


「その話が一つもありません。」


ロイドはハッとした。


確かに、誰もそんな説明はしていない。


「前世……いや。」


アルトは言い直す。


「以前、優秀な営業ほど商品ではなく”体験”を売っていました。」


「人は物だけを買うのではありません。」


「その商品で得られる未来を買うんです。」


その時だった。


港の方から怒鳴り声が響いた。


「また来たぞ!」


「税の取り立てだ!」


商人たちが一斉に顔を曇らせる。


町長も深いため息をついた。


「これも、この街が衰退した原因の一つです。」


アルトは港へ視線を向けた。


「なるほど。」


「本当の問題は、まだ奥にありそうですね。」


営業課長の新たな改革は、港町ベルナールで静かに始まろうとしていた。



営業メモ⑥⑧


『商品の説明ではなく、価値の物語を伝えよう。』


人は性能や価格だけで心を動かされるわけではない。


「誰が作ったのか。」


「どんな想いが込められているのか。」


その背景を知ることで、商品は特別な価値を持ち始める。


営業とは、商品に込められた物語を届ける仕事でもある。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第七十一話「営業課長、不満の正体を聞き出す」


衰退する港町ベルナール。


アルトは税の取り立てに苦しむ商人たちの本音へ耳を傾ける。


営業課長最大の武器、「聞く力」が街の未来を大きく変え始める。


「いつも読んでくださりありがとうございます。おかげさまで総PV1万突破、そして日間ランキングにもランクインすることができました。皆様の応援が励みになっています。これからもアルトたちの物語を楽しんでいただけるよう頑張ります!」

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