第六十九話 営業課長、国王からの招待状
グランディア改革から二週間。
街には以前とは比べものにならないほどの活気が戻っていた。
鍛冶工房では若い弟子たちの元気な声が響き、市場には「ドルガブランド」の武具を求めて王都や近隣領から商人が集まってくる。
「アルト様!」
朝早く、ガレスが息を切らして駆け込んできた。
「王都から早馬です!」
「王都から?」
アルトが封筒を受け取ると、そこには王家の紋章が刻まれていた。
丁寧に封を開く。
中には、上質な羊皮紙が一枚。
『王国商業改革特別顧問 アルト殿』
『グランディアでの功績を高く評価する。』
『ついては王城へ参じられたし。』
『国王陛下』
読み終えた部屋は静まり返った。
「国王陛下が……。」
ガレスは驚きを隠せない。
「アルト様を直接お呼びになるなんて。」
ドルガは腕を組みながら笑う。
「とうとう国まで動きやがったか。」
アルトは静かに手紙を畳んだ。
「評価していただけるのは嬉しいです。」
「ですが……。」
「何か心配か?」
バルドが尋ねる。
「褒めるためだけに国王が呼ぶとは思えません。」
「きっと、新しい課題があります。」
その言葉に全員が頷いた。
◇
三日後。
アルトは護衛とともに王都へ到着した。
城門では近衛騎士たちが整列し、一人の男性が待っていた。
「アルト殿ですね。」
深々と頭を下げる。
「国王陛下がお待ちです。」
以前よりも明らかに待遇が違う。
アルトは改めて、グランディアでの成果が王都へ届いていることを実感した。
◇
王城・謁見の間。
赤い絨毯の先には国王が座っている。
左右には大臣や貴族たちが並び、その中には以前面識のあった王女エレナの姿もあった。
アルトが跪くと、国王は穏やかな笑みを浮かべる。
「久しいな、アルト。」
「お招きいただき、ありがとうございます。」
「顔を上げよ。」
アルトが立ち上がると、国王は周囲を見渡した。
「皆も知っての通り、グランディアは短期間で見違えるほど発展した。」
「密輸組織の壊滅。」
「職人制度の改革。」
「ブランド戦略。」
「どれも見事であった。」
貴族たちの間からも感心したような声が漏れる。
だが、一人の年配貴族が口を開いた。
「陛下。」
「確かに成果は認めます。」
「しかし、一地方で成功しただけではありませんか。」
「王国全体に通用するとは限りません。」
広間が静まり返る。
アルトは反論しなかった。
営業課長だった頃も、反対意見は必ずあった。
だからこそ、まずは相手の話を最後まで聞く。
国王はアルトへ視線を向けた。
「どう思う?」
アルトは一歩前へ出る。
「そのご意見は正しいと思います。」
「ほう?」
年配貴族が意外そうな顔をする。
「グランディアで成功した方法を、そのまま他の街へ持っていっても失敗するでしょう。」
「街には、それぞれ事情があります。」
「文化も、人も、産業も違います。」
アルトは続けた。
「私が広めたいのは『やり方』ではありません。」
「考え方です。」
「現場を見ること。」
「人の声を聞くこと。」
「相手の価値を見つけること。」
「その考え方なら、どの街でも活かせます。」
謁見の間は静まり返っていた。
やがて国王が大きく頷く。
「その答えを待っていた。」
そして玉座から立ち上がった。
「アルト。」
「はい。」
「余は、お前に王国全土の産業改革を任せたい。」
その一言に、広間がどよめく。
「なっ!」
「子どもに国全体を!」
貴族たちがざわめく中、王女エレナだけは静かに微笑んでいた。
彼女は知っていた。
目の前にいる少年が、年齢では測れない力を持っていることを。
アルトは一度深く息を吸う。
グランディアは、一つの街だった。
しかし次は違う。
王国全土。
営業課長として積み重ねてきた経験が、いよいよ国そのものを変える舞台へ上がろうとしていた。
⸻
営業メモ⑥⑦
『成功事例を真似するのではなく、成功した理由を学ぶ。』
他人のやり方をそのまま真似しても、同じ結果になるとは限らない。
大切なのは、「なぜ成功したのか」を考え、自分の環境に合わせて応用すること。
営業でも改革でも、本当に価値があるのは「答え」ではなく、「考え方」である。
━━━━━━━━━━━━━━
――次回、第七十話「営業課長、王国改革の第一歩」
国王から託された王国全土の産業改革。
その最初の舞台に選ばれたのは、かつて栄えながらも今は衰退した港町だった。
アルトの新たな挑戦が、再び始まる。




