表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
PR
68/119

第六十八話 営業課長、職人学校を提案する


密輸組織が壊滅してから一週間。


グランディアの街には、再び活気が戻り始めていた。


閉鎖されていた第二坑道の復旧工事も進み、職人たちの工房からは力強い槌の音が響いている。


カン、カン、カン――。


その音を聞きながら、アルトは街の広場を歩いていた。


「街の雰囲気が変わりましたね。」


ガレスが笑顔で言う。


「ええ。」


アルトも微笑む。


「皆さんの表情が明るくなりました。」


だが、その視線は一人の少年で止まった。


まだ十歳ほどの少年が、工房の外から中を羨ましそうに覗いている。


「どうしたの?」


アルトが声を掛けると、少年は慌てて頭を下げた。


「す、すみません!」


「怒らないから大丈夫。」


「鍛冶屋になりたいのかい?」


少年は小さく頷いた。


「父ちゃんみたいな剣を作りたい。」


「でも、弟子はもう取らないって……。」


そう言って肩を落とす。


アルトは工房へ目を向けた。


確かに、中では職人たちが朝から晩まで仕事に追われ、新人を育てる余裕などないようだった。


「なるほど……。」


前世でも同じ問題があった。


仕事が忙しすぎて教育する時間がない。


結果として、人材が育たない。


会社全体が弱くなってしまう。


「これは街全体の問題ですね。」



その日の午後。


アルトはドルガ、バルド、ガレス、そして街の有力職人たちを集めた。


「皆さんに相談があります。」


「何だ?」


ドルガが尋ねる。


アルトは一枚の紙を広げた。


そこには大きく書かれていた。


『グランディア職人学校設立計画』


「学校?」


会場がざわつく。


「はい。」


「弟子を各工房で育てるのではなく、街全体で育てませんか?」


「街全体で?」


バルドが身を乗り出す。


「最初の基礎技術は学校で教える。」


「その後、それぞれの工房へ送り出す。」


「そうすれば職人さんは一から教える必要がありません。」


ドルガは腕を組んだ。


「悪くねぇ話だが……。」


「誰が教える?」


アルトは迷わず答えた。


「皆さんです。」


「俺たち?」


「はい。」


「毎日ではありません。」


「週に一度だけ、自分の得意分野を教えてください。」


「剣を鍛える技術。」


「火の扱い方。」


「道具の手入れ。」


「それぞれ違う技術を持っています。」


「それを一人で抱えるのは、もったいない。」


会場は静まり返った。



しばらくして、一人の老職人が口を開く。


「わしらの技術を……教えていいのか?」


その問いには、長年の迷いが滲んでいた。


技術は財産。


簡単には人へ教えられない。


アルトはゆっくり頷く。


「もちろん、奥義まで教える必要はありません。」


「ですが。」


「基礎技術を教える人が増えれば、優秀な弟子も増えます。」


「その中から、自分の技術を継いでくれる人も現れるはずです。」


ドルガは天井を見上げた。


「……そうか。」


「俺も親方から教わったんだったな。」


しばらく黙っていたドルガが立ち上がる。


「よし。」


「俺が最初の講師になる。」


その一言に、広間が沸いた。


「俺もやる!」


「包丁なら任せろ!」


「木工も教えられるぞ!」


次々と手が挙がっていく。


アルトはその光景を見て、小さく笑った。


営業は、人を動かす仕事だ。


命令して動かすのではない。


「やってみたい。」


そう思ってもらうことが、本当の成功なのである。



会議が終わった後。


バルドがアルトへ近付いてきた。


「また一つ、街が変わるな。」


「ええ。」


アルトは広場で遊ぶ子どもたちを見つめる。


「改革は建物を作ることではありません。」


「未来を作ることです。」


その言葉を聞いたバルドは、静かに頷いた。


「本当に、お前は面白い営業課長だ。」


夕日に照らされたグランディアには、新しい未来への希望が満ち始めていた。



営業メモ⑥⑥


『人を育てることは、未来へ投資すること。』


目先の利益だけを追えば、教育は後回しになってしまう。


しかし、人材が育たなければ、組織も街も成長は止まる。


今日教えた一つの知識が、数年後には大きな成果となって返ってくる。


営業も経営も、未来を見据えた「人づくり」が最も重要な仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十九話「営業課長、王都からの招待状」


グランディアの改革は王都でも大きな話題となっていた。


アルトのもとへ届いた一通の招待状。


そこには、国王自らがアルトへ託したい新たな使命が記されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ