第六十七話 営業課長、密輸組織を追い詰める
夜の帳が下りたグランディア。
街外れの古びた倉庫では、慌ただしく荷馬車へ木箱が積み込まれていた。
「急げ!」
「夜明け前には国境を越えるぞ!」
黒い外套をまとった男たちが周囲を警戒しながら作業を進めている。
その様子を、少し離れた丘の上からアルトたちは見つめていた。
「証拠は十分ですね。」
アルトが静かに言う。
ガレスは手元の帳面を開いた。
「三日間の記録です。」
「出入りした人数、荷馬車の台数、積荷の種類、すべて記録済みです。」
「ありがとうございます。」
アルトは満足そうに頷いた。
「これなら誰も言い逃れはできません。」
ドルガは大槌を肩へ担ぐ。
「じゃあ、乗り込むか。」
「もう少しだけ待ってください。」
アルトの視線は、一台の荷馬車に向けられていた。
「あれが最後です。」
「黒幕は必ず最後に姿を見せます。」
◇
しばらくすると、一台の豪華な馬車が倉庫へ到着した。
扉が開く。
中から降りてきたのは、高価な外套を身にまとった中年の男だった。
「……あいつは。」
バルドが息を呑む。
「あの男を知っているんですか?」
「知っているどころじゃない。」
バルドの表情が険しくなる。
「あいつは王都の大商会『ガルディア商会』の支配人、レオンだ。」
「王都の商人が?」
「表向きはな。」
「だが、裏では黒い噂が絶えなかった。」
アルトは静かに目を細める。
「ようやく本命ですね。」
◇
倉庫の中では、レオンが部下たちへ指示を飛ばしていた。
「第二坑道は使えなくなったか?」
「はい。」
「しばらくは鉱石不足になります。」
レオンは満足そうに笑う。
「その間に我々の鉱石を高値で売る。」
「王国は困り、我々は儲かる。」
その会話を聞き、ドルガは拳を握り締めた。
「最低な野郎だ……。」
アルトは小さく頷く。
「これで動機も確認できました。」
そして護衛隊長へ視線を向ける。
「お願いします。」
「承知!」
次の瞬間。
「そこまでだ!」
護衛たちが一斉に飛び出した。
「王家の命により、全員を拘束する!」
密輸組織は慌てて武器を抜く。
しかし、その時にはすでに退路を塞がれていた。
「くそっ!」
右頬に傷のある男が逃げ出そうとする。
だが、その前へドルガが立ちはだかった。
「どけ!」
「どかねぇ。」
大槌が地面へ振り下ろされる。
ドォンッ!!
轟音とともに地面が揺れ、男は尻もちをついた。
「終わりだ。」
その一言で、男は観念したように武器を捨てた。
◇
一方、レオンは余裕の笑みを浮かべていた。
「証拠があると思っているのか?」
「私は商人だ。」
「ただ商品を買い付けに来ただけだ。」
アルトは静かに帳面を取り出す。
「三日前、第二坑道崩落。」
「同日、あなたの部下が現場を偵察。」
「翌日、この倉庫へ鉱石が搬入。」
「さらに本日、国外への持ち出し。」
帳面を閉じる。
「そして先ほどの会話は、護衛隊がすべて聞いていました。」
護衛隊長も頷く。
「証人は十分だ。」
レオンの笑みが消えた。
「……貴様。」
「営業では。」
アルトは穏やかに微笑む。
「契約書も大切ですが、それ以上に『記録』が大切なんです。」
「人は記憶をごまかせても、記録はごまかせません。」
レオンは力なく膝をついた。
「負けた……。」
こうして密輸組織は壊滅。
第二坑道崩落事件も、その真相が明らかとなった。
しかし、アルトは喜ぶことはなかった。
「事件は終わりました。」
「ですが、本当の仕事はこれからです。」
街を立て直し、人々の暮らしを豊かにする。
それこそが、営業課長として自分に与えられた使命なのだから。
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営業メモ⑥⑥
『信頼は言葉ではなく、積み重ねた記録が支える。』
どれほど正しいことを話しても、証拠がなければ相手を納得させることは難しい。
日々の記録、約束の履歴、相手とのやり取り。
その積み重ねが、最後には自分自身を守り、大きな信頼へと変わる。
営業とは、信頼を記録し続ける仕事でもある。
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――次回、第六十八話「営業課長、鉱山都市に新たな風を吹かせる」
密輸組織が壊滅し、平和を取り戻したグランディア。
アルトは次なる改革として、職人を育てる「研修制度」の創設に動き出す。
街の未来を担う若者たちへ、営業課長の知恵が受け継がれていく。




