第六十六話 営業課長、密輸組織の罠
夜の山道。
アルトたちは黒い外套の男たちを追い、街外れの古びた倉庫までたどり着いていた。
「灯りがついていますね。」
ガレスが小声で言う。
倉庫の隙間から、かすかに明かりが漏れている。
人の気配もある。
ドルガは大槌を肩に担いだ。
「踏み込むか?」
しかしアルトは首を横に振る。
「まだです。」
「またか。」
バルドが苦笑する。
「はい。」
アルトは静かに倉庫を見つめた。
「営業でも、一番失敗するのは『結論を急ぐ人』です。」
「目の前に答えがあるように見えても、一度立ち止まる。」
「それだけで防げる失敗はたくさんあります。」
◇
しばらく様子を見ていると、一人の男が倉庫から出てきた。
右頬に傷がある男だった。
周囲を警戒しながら山道を歩き始める。
その姿を見て、護衛の一人が呟く。
「一人になりました。」
「今なら捕まえられます。」
アルトは小さく微笑んだ。
「だから捕まえません。」
「え?」
「見ていてください。」
男は山道を下ると、小川の手前で立ち止まった。
そして口笛を吹く。
すると森の奥から、さらに四人の男が姿を現した。
全員が武器を持っている。
ドルガは目を見開いた。
「待ち伏せか……!」
アルトは静かに頷く。
「ええ。」
「追ってくる者がいれば、ここで始末する予定だったのでしょう。」
バルドは思わず息を吐いた。
「危なかったな。」
「もし飛び出していたら、こちらが囲まれていました。」
◇
男たちは再び倉庫へ戻っていく。
アルトは全員へ指示を出した。
「今夜は引きます。」
「逃がすのか?」
ドルガが不満そうに言う。
「逃がしません。」
アルトは笑顔を浮かべた。
「逃げ道を知るんです。」
「逃げ道?」
「人は安心すると、必ず本拠地へ戻ります。」
「ですが追い詰められると、証拠を消して逃げます。」
営業でも同じだった。
契約を急ぎ過ぎる営業は失敗する。
相手が安心して本音を見せるまで待つ。
その方が、結果的に大きな成果へつながる。
「ではどうする?」
ガレスが尋ねる。
アルトは地図を広げた。
「この倉庫を見張ります。」
「出入りする人。」
「運び込まれる荷物。」
「時間。」
「全部記録してください。」
「証拠を積み上げます。」
護衛たちは一斉に頷いた。
◇
三日後。
調査結果は予想以上だった。
倉庫へ運び込まれていたのは、鉱石だけではない。
王都へ送られるはずの武具。
農具。
さらには魔石まで積み込まれていた。
しかも荷馬車には、隣国の紋章が刻まれている。
バルドが険しい顔になる。
「間違いない。」
「密輸組織だ。」
「しかも相当大規模です。」
アルトは静かに記録を閉じた。
「これなら言い逃れはできません。」
その時だった。
見張りをしていた護衛が走ってくる。
「アルト様!」
「どうしました?」
「倉庫から馬車が出ます!」
「今夜です!」
アルトは立ち上がった。
「全員、配置についてください。」
「ここからが本番です。」
敵を捕まえるのではない。
事件を終わらせる。
営業課長として培った準備と分析が、ついに決着の時を迎えようとしていた。
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営業メモ⑥⑤
『急いで出した答えより、十分に集めた証拠の方が人を動かす。』
焦って結論を出せば、大切な情報を見落としてしまう。
だからこそ、一歩待ち、観察し、事実を積み重ねることが重要だ。
相手を納得させる一番の武器は、感情ではなく「揺るがない根拠」である。
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――次回、第六十七話「営業課長、密輸組織を追い詰める」
ついに動き出した密輸組織。
アルトは仲間たちとともに証拠を押さえ、黒幕との直接対決へ挑む。
営業課長流の「勝ち方」が、グランディアの未来を大きく変える。




