第六十四話 営業課長、崩落の真相を追う
「第二坑道が崩れた!」
その知らせを受けたアルトは、ドルガ、バルド、ガレス、そして数名の護衛とともに鉱山へ向かった。
山肌にはいくつもの坑道が口を開けている。
普段は威勢のいい鉱夫たちも、この日は誰もが不安そうな表情を浮かべていた。
「けが人は?」
アルトが現場監督へ尋ねる。
「幸い、崩落の前に異変へ気付いて全員避難しました。」
「それは良かった。」
まずは人命。
前世でも営業課長として、「利益よりも安全を優先する会社は長く続く」と教えられてきた。
その考えは、この世界でも変わらない。
◇
崩れた坑道の前へ到着すると、大量の岩石が通路を塞いでいた。
アルトはしゃがみ込み、崩れた岩をじっと観察する。
「……妙ですね。」
「何がだ?」
ドルガが尋ねる。
「この崩れ方です。」
アルトは岩肌を指差した。
「自然崩落なら、もっと奥から崩れるはずです。」
「ですが、入口付近だけが集中的に崩れています。」
現場監督も目を丸くした。
「確かに……。」
アルトはさらに周囲を歩き回る。
すると、岩陰に小さな木片が落ちているのを見つけた。
「これは……。」
拾い上げると、木材の断面が不自然に割れていた。
「支柱ですか?」
ガレスが尋ねる。
「ええ。」
アルトは静かに頷く。
「しかも、新しい。」
本来なら数年は使える頑丈な支柱。
それが真ん中から折れている。
「腐っていたわけではありません。」
「誰かが細工した……?」
護衛の一人が息を呑んだ。
その場に緊張が走る。
◇
「皆さん。」
アルトは鉱夫たちを集めた。
「ここ数日で、変わったことはありませんでしたか?」
最初は誰も口を開かなかった。
しかし、一人の若い鉱夫が手を挙げる。
「あの……。」
「何でしょう?」
「三日前、見慣れない男たちが坑道を見ていました。」
「商人ですか?」
「いや……旅人みたいな格好でした。」
「顔は覚えていますか?」
「一人だけ。」
鉱夫は少し考え込む。
「右頬に古い傷がありました。」
その言葉を聞いたバルドの表情が変わった。
「まさか……。」
「知っているんですか?」
アルトが尋ねる。
「以前、隣国との密輸で名前が出た連中に、そんな男がいた。」
「密輸?」
「鉱石を安く手に入れるため、鉱山を混乱させる連中だ。」
アルトは腕を組む。
もし本当なら、これは事故ではない。
街そのものを狙った妨害工作だ。
◇
その夜。
宿へ戻ったアルトは、机いっぱいに紙を並べていた。
崩落した場所。
支柱の位置。
運搬経路。
目撃情報。
前世の営業時代も、トラブルが起きれば必ず情報を整理した。
感覚では動かない。
事実を積み重ねる。
「アルト様。」
ガレスが部屋へ入ってきた。
「休まれなくて大丈夫ですか?」
「まだ休めません。」
アルトは地図を見つめたまま答える。
「相手は坑道を崩すことが目的ではないはずです。」
「え?」
「もし街を混乱させたいなら、もっと被害を出せた。」
「では目的は……。」
アルトは一本の線を地図に引いた。
第二坑道から王都へ続く街道。
そして、鉱石の保管倉庫。
「物流です。」
「物流?」
「鉱石が王都へ届かなくなれば、武器も農具も作れなくなる。」
「王国全体が困る。」
ガレスはハッとした。
「つまり、この事件は……。」
「グランディアだけの問題ではありません。」
アルトは静かに立ち上がる。
「王国そのものを揺さぶるための第一歩かもしれません。」
窓の外では、鉱山の灯が静かに揺れていた。
その暗闇のどこかで、敵は次の一手を考えている。
ならば、自分も先を読む。
営業とは、相手の一歩先を考えて動く仕事なのだから。
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営業メモ⑥③
『問題が起きたら、原因ではなく事実を集めよう。』
思い込みで判断すると、本当の原因を見失ってしまう。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を見たのか」。
事実を一つずつ積み重ねることで、解決への道筋が見えてくる。
営業もトラブル対応も、冷静な情報整理が成功への第一歩である。
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――次回、第六十五話「営業課長、黒幕との駆け引き」
坑道崩落は、偶然ではなかった。
密輸組織の影が見え始める中、アルトは営業課長時代に培った”情報戦”で黒幕との静かな駆け引きに挑む。




