第六十二話 営業課長、新ブランド誕生
「それでは、本日より開始します。」
アルトの宣言とともに、グランディアの新たな挑戦が幕を開けた。
街の広場には、これまで見たこともない売り場が設けられている。
武器が並ぶだけではない。
一つひとつの商品に、木製の札が添えられていた。
『製作者 ドルガ』
『鋼の配合を見直し、耐久性を高めた逸品』
『品質保証付き』
さらに、その横には職人の似顔絵まで描かれている。
「これ、本当に売れるのか?」
若い職人が不安そうに呟く。
「売れます。」
アルトは自信を持って答えた。
「人は商品だけではなく、『誰が作ったのか』にも価値を感じるんです。」
◇
午前中。
王都から来た商人や冒険者たちが売り場へ集まり始めた。
「これが噂のドルガの剣か。」
「保証書まで付いているのか。」
「この職人が作ったの?」
今までとは違う反応だった。
ただ値段を見るだけではない。
職人の説明を読み、剣を手に取り、作り手の話に耳を傾ける。
ドルガ自身も最初は戸惑っていた。
「俺が説明するのか?」
「はい。」
アルトは笑う。
「一番商品のことを知っているのは、作った本人です。」
ぎこちないながらも、ドルガは客へ語り始める。
「この刃は、三日かけて鍛えた。」
「芯に粘りを持たせてある。」
「だから折れにくい。」
冒険者は目を輝かせる。
「なるほど!」
「そういう話が聞きたかった!」
その様子を見ていた他の職人たちも、少しずつ前へ出てきた。
「俺の斧は木こり向けなんだ。」
「この包丁は料理人に人気でな。」
今まで無口だった職人たちが、自分の仕事を誇らしげに語り始める。
その姿に、アルトは小さく頷いた。
「これでいい。」
商品の価値を一番伝えられるのは、作った本人なのだから。
◇
昼過ぎ。
集計役のガレスが慌てた様子で駆け込んできた。
「アルト様!」
「どうしました?」
「午前中だけで、売上が普段の二倍です!」
「二倍?」
周囲の職人たちがどよめく。
「しかも、高価格の商品ほど売れています!」
ドルガは目を丸くした。
「高い方が売れてるだと……?」
アルトは微笑む。
「価格ではなく、価値で選ばれている証拠です。」
「安いから買う。」
ではない。
「欲しいから買う。」
そう思ってもらえる商品になれば、価格は後から付いてくる。
これが前世で学んだブランド戦略だった。
◇
夕方。
祭りのような賑わいを見せる広場を、バルドは静かに眺めていた。
「負けたな。」
そう呟くと、隣に立つアルトへ声を掛ける。
「認めよう。」
「お前のやり方は正しかった。」
アルトは首を横に振る。
「いいえ。」
「これは私一人ではできませんでした。」
「職人さんが勇気を出して前へ出た。」
「商人さんが新しい売り方を受け入れた。」
「だから成功したんです。」
バルドは苦笑した。
「……お前は、最後まで自分の手柄にしないんだな。」
「営業課長は、チームで成果を出す仕事ですから。」
その言葉に、バルドは豪快に笑った。
「ガハハハ!」
「本当に変わった坊主だ。」
その時だった。
広場へ一人の鉱夫が血相を変えて走ってきた。
「た、大変だ!」
息を切らしながら叫ぶ。
「第二坑道が閉鎖された!」
「何だと?」
ドルガもバルドも顔色を変える。
「坑道の奥で地盤が崩れた!」
「このままじゃ、鉱石が採れねぇ!」
広場に緊張が走る。
ブランドが成功しても、肝心の鉱石が採れなければ意味がない。
アルトは騒ぐ人々を見渡し、静かに口を開いた。
「まずは現場へ向かいましょう。」
「原因を知らずに、対策は立てられません。」
営業課長の視線は、すでに次の課題へ向いていた。
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営業メモ⑥①
『成果は、一人では生まれない。』
どんなに優れたアイデアでも、実行する仲間がいなければ形にはならない。
成果が出た時ほど、自分ではなく仲間を称える。
その積み重ねが、次の挑戦にも協力してくれる強いチームを育てる。
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――次回、第六十三話「営業課長、崩落の真相を追う」
ブランド戦略が成功した矢先に起きた鉱山の崩落事故。
偶然か、それとも誰かの企みか。
アルトは現場へ向かい、街を揺るがす事件の真相に迫る。




