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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第六十一話 営業課長、商人ギルドと対決


ドルガの剣が金貨三十枚で売れた翌日。


その話は、あっという間にグランディア中へ広まっていた。


「ドルガの剣が三倍の値段で売れたらしい。」


「王都の貴族が買ったそうだ。」


「本当なら、俺たちの武具ももっと高く売れるんじゃ……。」


職人たちの間には、これまでになかった期待が生まれていた。


一方で、その期待を快く思わない者もいた。


商人ギルドの会議室。


長い机を囲む十数人の商人たちは、重苦しい空気に包まれていた。


「このままでは困る。」


口を開いたのは、有力商人バルドだった。


「職人どもが直接評価されるようになれば、我々の利益が減る。」


一人の商人が不安そうに尋ねる。


「しかし、本当に品質が良い商品なら、高く売れるのは当然では?」


「甘い。」


バルドは机を叩いた。


「市場は我々が管理しているからこそ成り立っている。」


「職人が好き勝手に値段を付け始めたら、市場は混乱する。」


その言葉に、数人の商人が頷いた。


「ならば、どうするおつもりですか?」


「簡単だ。」


バルドは笑う。


「素材を止める。」


◇


その日の午後。


ドルガの工房へ鉱石を運ぶ荷車は、一台も現れなかった。


「おかしい……。」


工房で働く弟子が首を傾げる。


「いつもなら朝には届くはずなのに。」


そこへ、鉱山の運搬業者が申し訳なさそうにやって来た。


「すまねぇ、親方。」


「今日は運べねぇ。」


「どういうことだ?」


「商人ギルドから止められた。」


ドルガの表情が険しくなる。


「……やりやがったか。」


◇


夕方。


事情を聞いたアルトは、静かに紅茶を口にした。


怒る様子はない。


「アルト様。」


ガレスが焦ったように言う。


「このままでは工房は止まります!」


「ええ。」


アルトは穏やかに頷く。


「相手は、こちらが慌てるのを待っています。」


「ですが!」


「営業で一番やってはいけないことがあります。」


皆がアルトを見る。


「感情で動くことです。」


怒りに任せて抗議する。


力で押し返す。


それでは相手の思う壺だ。


「まずは相手を知りましょう。」


◇


翌日。


アルトは一人で商人ギルドを訪れた。


応接室にはバルドが腕を組んで座っている。


「坊主が一人で来るとはな。」


「今日はお願いに来たわけではありません。」


アルトは笑顔を崩さない。


「お話をしに来ました。」


「話?」


「ええ。」


「なぜ、ドルガさんを止めたのですか?」


バルドは鼻で笑う。


「決まっている。」


「秩序を守るためだ。」


「秩序ですか。」


「そうだ。」


「職人は作る。」


「商人は売る。」


「それぞれ役割がある。」


「それを壊す者は、市場を壊す。」


アルトはしばらく考えたあと、小さく頷いた。


「なるほど。」


「つまり、あなたは市場を守りたいんですね。」


予想外の返答だったのか、バルドは少し驚いた顔をする。


「……そうだ。」


「それなら安心しました。」


「何?」


アルトはにっこり笑った。


「私も同じ考えです。」


部屋の空気が止まる。


「市場は守るべきです。」


「だからこそ、一部の人だけが利益を独占する市場ではなく、職人も商人も消費者も笑顔になれる市場を作りたい。」


「綺麗事だ。」


「いいえ。」


アルトは静かに首を振る。


「商人が利益を得ることを否定しているわけではありません。」


「商人には商人にしかできない価値があります。」


「物流。」


「販路。」


「顧客との信頼。」


「それは職人には真似できません。」


バルドは黙って聞いていた。


「ですが。」


アルトは続ける。


「職人が正当な評価を受けることと、商人が利益を得ることは両立できます。」


「……証明できるのか?」


「もちろんです。」


アルトは一枚の紙を机に置いた。


そこには、新しい販売方法が書かれていた。


『職人認定制度』


『品質保証書』


『販売手数料制度』


「商人は”安く買って高く売る”のではありません。」


「“価値を伝えて販売する専門家”になるんです。」


バルドは紙を手に取り、目を通す。


その表情から、少しずつ険しさが消えていった。


「坊主……。」


「お前は商人を敵にしたいんじゃないのか?」


「まさか。」


アルトは笑う。


「営業は、敵を作る仕事じゃありません。」


「味方を増やす仕事です。」


その一言に、部屋は静まり返った。


バルドは初めて、目の前の少年を”子ども”ではなく、一人の交渉相手として見つめた。


⸻


営業メモ⑥⓪


『交渉とは、勝ち負けを決めることではない。』


相手を言い負かしても、その場限りの勝利しか得られない。


本当に優れた営業は、「相手にも利益がある」と理解してもらうことで、長く続く信頼関係を築く。


勝者と敗者を作るのではなく、双方が笑顔になれる答えを探す。


それが、営業の理想形である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十二話「営業課長、共存の道を示す」


アルトが提案した新たな販売制度。


しかし、それを実現するには職人たちの理解も必要だった。


商人と職人。


長年対立してきた両者を結ぶ、アルト最大のプレゼンが始まる。

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