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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第六十話 営業課長、ブランド戦略を始める


「ブランド……か。」


翌朝、ドルガは工房の壁にもたれながら、アルトから聞いた言葉を何度も口にしていた。


今まで考えたこともなかった。


良い剣を打てば売れる。


腕さえ磨けば、それで十分。


そう信じて四十年近く槌を振るい続けてきた。


「まずは、一振りだけ作りましょう。」


アルトは工房の作業台へ一枚の紙を広げた。


「一本だけ?」


「はい。」


「大量に作る必要はありません。」


ドルガは首を傾げる。


「売るなら数が必要じゃねぇのか?」


「それは普通の商品です。」


アルトは微笑んだ。


「ブランド商品は違います。」


「最初は『欲しい人が奪い合う』状態を作るんです。」


◇


数日後。


一本の剣が完成した。


これまでと違う点は三つ。


一つ目。


鍔には、小さく『D』の刻印。


ドルガの頭文字だった。


二つ目。


柄には高級な黒革を使用。


手にした瞬間、「特別な一本」だと分かる仕上がりになっていた。


そして三つ目。


アルトが用意した羊皮紙。


そこには丁寧な文字で書かれていた。


『鍛冶職人ドルガが、生涯の技術を注ぎ込んで鍛えた一振り。』


『王国北部グランディアにて製作。』


『制作者本人が品質を保証する。』


ドルガは思わず苦笑した。


「剣より紙の方が高そうだ。」


「この紙が価値を伝えるんです。」


アルトは胸を張る。


「人は、知らないものにはお金を払いません。」


「だから知ってもらう。」


「それが営業です。」


◇


数日後。


王都から訪れていた貴族向けの商談会。


アルトはドルガと共に一本だけ剣を持ち込んだ。


「一本しか売らないのか?」


商業組合の職員が驚く。


「はい。」


「売れなければ終わりですが。」


「売れたら始まりです。」


その意味は、誰にも分からなかった。


やがて会場へ一人の伯爵がやってきた。


豪華な装飾の剣が並ぶ中、一振りだけ質素な台座に置かれたドルガの剣へ視線が止まる。


「ほう……。」


伯爵はゆっくり剣を抜いた。


「軽い。」


「それでいて重みもある。」


何度か振ったあと、小さく頷く。


「値段は?」


周囲の商人たちは耳をそばだてた。


普段なら金貨十枚ほどの剣。


しかしアルトは静かに答えた。


「金貨三十枚です。」


「三十枚!?」


会場がざわついた。


「子どもが何を言っている!」


「そんな値段で売れるわけがない!」


商人たちが笑う。


しかし伯爵は笑わなかった。


「理由を聞こう。」


アルトは一歩前へ出る。


「この剣は大量生産できません。」


「職人ドルガが一本一本鍛えています。」


「もし折れたなら、本人が責任を持って打ち直します。」


「そして――」


アルトは羊皮紙を手渡した。


「同じ品質の剣は、二度と存在しません。」


伯爵は紙を読み終えると、静かに笑った。


「面白い。」


その一言で空気が変わる。


「金貨三十枚。」


「買おう。」


商人たちが息を呑んだ。


「ば、馬鹿な……。」


一本の剣が。


これまでの三倍の価格で売れた。


ドルガ自身が一番驚いていた。


「本当に……売れた。」


「当然です。」


アルトは笑う。


「値段を上げたんじゃありません。」


「価値が伝わるようにしただけです。」


◇


しかし、その様子を遠くから睨みつける男がいた。


商業組合の有力商人、バルド。


長年、グランディアの鍛冶職人たちから安く剣を買い集め、王都で高く売ってきた男だった。


「面白くないな……。」


バルドは静かに呟く。


「職人が直接評価されるようになれば、儲けが減る。」


その目には、冷たい光が宿っていた。


「ガキ一人に、今まで築いた商売を壊されてたまるか。」


グランディア改革。


それはついに、既得権益との戦いへ発展しようとしていた。


⸻


営業メモ⑤⑨


『価格ではなく、価値で勝負する。』


安く売れば、一時的には売れるかもしれない。


しかし、安さだけでは必ず価格競争に巻き込まれる。


大切なのは、「なぜこの価格なのか」を相手に伝えること。


価値を理解したお客様は、価格ではなく信頼にお金を払ってくれる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十一話「営業課長、商人ギルドと対決」


ドルガブランドの成功を快く思わない有力商人・バルド。


圧力をかけ始めた商人ギルドに対し、アルトは営業課長時代に培った”交渉術”で真正面から挑む。


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