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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第六十話 営業課長、商人ギルドと対決


ドルガの剣が金貨三十枚で売れた翌日。


その話は、あっという間にグランディア中へ広まっていた。


「ドルガの剣が三倍の値段で売れたらしい。」


「王都の貴族が買ったそうだ。」


「本当なら、俺たちの武具ももっと高く売れるんじゃ……。」


職人たちの間には、これまでになかった期待が生まれていた。


一方で、その期待を快く思わない者もいた。


商人ギルドの会議室。


長い机を囲む十数人の商人たちは、重苦しい空気に包まれていた。


「このままでは困る。」


口を開いたのは、有力商人バルドだった。


「職人どもが直接評価されるようになれば、我々の利益が減る。」


一人の商人が不安そうに尋ねる。


「しかし、本当に品質が良い商品なら、高く売れるのは当然では?」


「甘い。」


バルドは机を叩いた。


「市場は我々が管理しているからこそ成り立っている。」


「職人が好き勝手に値段を付け始めたら、市場は混乱する。」


その言葉に、数人の商人が頷いた。


「ならば、どうするおつもりですか?」


「簡単だ。」


バルドは笑う。


「素材を止める。」



その日の午後。


ドルガの工房へ鉱石を運ぶ荷車は、一台も現れなかった。


「おかしい……。」


工房で働く弟子が首を傾げる。


「いつもなら朝には届くはずなのに。」


そこへ、鉱山の運搬業者が申し訳なさそうにやって来た。


「すまねぇ、親方。」


「今日は運べねぇ。」


「どういうことだ?」


「商人ギルドから止められた。」


ドルガの表情が険しくなる。


「……やりやがったか。」



夕方。


事情を聞いたアルトは、静かに紅茶を口にした。


怒る様子はない。


「アルト様。」


ガレスが焦ったように言う。


「このままでは工房は止まります!」


「ええ。」


アルトは穏やかに頷く。


「相手は、こちらが慌てるのを待っています。」


「ですが!」


「営業で一番やってはいけないことがあります。」


皆がアルトを見る。


「感情で動くことです。」


怒りに任せて抗議する。


力で押し返す。


それでは相手の思う壺だ。


「まずは相手を知りましょう。」



翌日。


アルトは一人で商人ギルドを訪れた。


応接室にはバルドが腕を組んで座っている。


「坊主が一人で来るとはな。」


「今日はお願いに来たわけではありません。」


アルトは笑顔を崩さない。


「お話をしに来ました。」


「話?」


「ええ。」


「なぜ、ドルガさんを止めたのですか?」


バルドは鼻で笑う。


「決まっている。」


「秩序を守るためだ。」


「秩序ですか。」


「そうだ。」


「職人は作る。」


「商人は売る。」


「それぞれ役割がある。」


「それを壊す者は、市場を壊す。」


アルトはしばらく考えたあと、小さく頷いた。


「なるほど。」


「つまり、あなたは市場を守りたいんですね。」


予想外の返答だったのか、バルドは少し驚いた顔をする。


「……そうだ。」


「それなら安心しました。」


「何?」


アルトはにっこり笑った。


「私も同じ考えです。」


部屋の空気が止まる。


「市場は守るべきです。」


「だからこそ、一部の人だけが利益を独占する市場ではなく、職人も商人も消費者も笑顔になれる市場を作りたい。」


「綺麗事だ。」


「いいえ。」


アルトは静かに首を振る。


「商人が利益を得ることを否定しているわけではありません。」


「商人には商人にしかできない価値があります。」


「物流。」


「販路。」


「顧客との信頼。」


「それは職人には真似できません。」


バルドは黙って聞いていた。


「ですが。」


アルトは続ける。


「職人が正当な評価を受けることと、商人が利益を得ることは両立できます。」


「……証明できるのか?」


「もちろんです。」


アルトは一枚の紙を机に置いた。


そこには、新しい販売方法が書かれていた。


『職人認定制度』


『品質保証書』


『販売手数料制度』


「商人は”安く買って高く売る”のではありません。」


「“価値を伝えて販売する専門家”になるんです。」


バルドは紙を手に取り、目を通す。


その表情から、少しずつ険しさが消えていった。


「坊主……。」


「お前は商人を敵にしたいんじゃないのか?」


「まさか。」


アルトは笑う。


「営業は、敵を作る仕事じゃありません。」


「味方を増やす仕事です。」


その一言に、部屋は静まり返った。


バルドは初めて、目の前の少年を”子ども”ではなく、一人の交渉相手として見つめた。



営業メモ㊿⑨


『交渉とは、勝ち負けを決めることではない。』


相手を言い負かしても、その場限りの勝利しか得られない。


本当に優れた営業は、「相手にも利益がある」と理解してもらうことで、長く続く信頼関係を築く。


勝者と敗者を作るのではなく、双方が笑顔になれる答えを探す。


それが、営業の理想形である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十一話「営業課長、共存の道を示す」


アルトが提案した新たな販売制度。


しかし、それを実現するには職人たちの理解も必要だった。


商人と職人。


長年対立してきた両者を結ぶ、アルト最大のプレゼンが始まる。

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