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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第五十九話 営業課長、頑固職人を口説く

【1万PVありがとうございます!】


おかげさまで、本作が総PV1万を達成しました。


読んでくださる皆様、ブックマークや評価、感想で応援してくださる皆様、本当にありがとうございます。


第3部も始まり、アルトの物語はさらに大きく動き出します。


これからも楽しんでいただけるよう更新を続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします!


翌朝。


アルトは宿の食堂で朝食を済ませると、街の案内役を務める商業組合の職員・ガレスと合流した。


「今日は鍛冶工房をご覧になりますか?」


「ぜひお願いします。この街で一番腕のいい職人に会いたいんです。」


その言葉に、ガレスは困ったように笑った。


「腕だけなら間違いなく一番です。しかし……」


「しかし?」


「誰の話も聞きません。」


「なるほど。」


アルトは思わず笑った。


「営業としては、一番燃える相手ですね。」


◇


案内された工房は街外れにあった。


大きな煙突から白い煙が立ち上り、朝から鉄を打つ音が響いている。


カンッ!


カンッ!


リズムよく振り下ろされる大槌。


工房へ入ると、一人の大男が真っ赤に焼けた鉄を打っていた。


年齢は五十代半ば。


鍛え上げられた腕。


鋭い目付き。


近寄るだけで威圧感がある。


「親方。」


ガレスが声を掛ける。


「王都から視察に来られたアルト様です。」


男は一瞬だけこちらを見た。


「帰れ。」


それだけ言って、再び槌を振り下ろす。


ガンッ!


「……話も聞いていただけませんか?」


「聞く必要がねぇ。」


「なぜです?」


「貴族ってのは、現場を知らずに偉そうなことだけ言う。」


一切迷いのない返答だった。


「補助金を出す。」


「効率化しろ。」


「もっと利益を出せ。」


「そんな話なら聞き飽きた。」


アルトは黙って親方を見つめる。


怒っているのではない。


諦めているのだ。


「親方。」


「何だ。」


「一つだけお願いがあります。」


「断る。」


「商品を一つだけ見せてください。」


親方は眉をひそめた。


「売り込みに来たんじゃありません。」


「……。」


「純粋に、職人として作ったものを見てみたいんです。」


しばらく沈黙が流れる。


やがて親方は工房の奥から一本の剣を持ってきた。


「これだ。」


アルトは受け取り、ゆっくり観察する。


美しい刃紋。


重心のバランス。


握りやすい柄。


どれを見ても一級品だった。


「……素晴らしい。」


アルトは思わず息を呑む。


「こんな剣、王都でも滅多に見ません。」


親方は初めて手を止めた。


「本当に分かるのか?」


「ええ。」


アルトは静かに頷く。


「私は剣の専門家ではありません。でも営業でした。」


「営業?」


「はい。」


「だから分かるんです。」


アルトは剣を大切に机へ置いた。


「これは売れていない商品じゃありません。」


「?」


「売り方を間違えられている商品です。」


その一言で、工房の空気が変わった。


「どういう意味だ。」


「この品質なら王侯貴族でも欲しがります。」


「だが商人は安くしか買わねぇ。」


「当然です。」


アルトは即答した。


「商人は『鉄の剣』として買っていますから。」


「……。」


「でも私は違います。」


アルトは剣を持ち上げた。


「これは『熟練職人が一本一本鍛えた作品』です。」


「作品……。」


「誰が作ったか。」


「どんな技術で作られたか。」


「どれだけ丈夫なのか。」


その価値が伝わっていない。


「値段ではなく、価値を売る。」


前世でも何度も口にした言葉だった。


安売り競争をする会社ほど苦しくなる。


価値を伝えられる会社ほど利益を残せる。


「親方のお名前は?」


「……ドルガ。」


「ドルガさん。」


アルトは笑顔を向ける。


「あなたの剣には、あなたの名前が入っていません。」


「名前?」


「ええ。」


「王都では、有名な画家の絵なら高く売れます。」


「有名な魔導士の杖も高く売れます。」


「なのに、なぜ鍛冶職人だけ名前を隠すんです?」


ドルガは目を見開いた。


今まで一度も考えたことがなかった。


「私は『ドルガ作』というブランドを作るべきだと思います。」


「ブランド……。」


「あなたの技術を信用して買う人を増やすんです。」


しばらく沈黙が流れる。


やがてドルガは低く笑った。


「ガハハハハ!」


豪快な笑い声が工房中に響く。


「面白ぇ坊主だ。」


「初めてだ。」


「俺の腕じゃなく、俺自身を評価した奴は。」


アルトも笑った。


「営業は、人を見る仕事ですから。」


ドルガはゆっくりと右手を差し出した。


「気に入った。」


「好きに見ていけ。」


その大きな手を、アルトもしっかり握り返した。


営業課長として積み重ねてきた経験。


その積み重ねが、一人の職人との信頼を結んだ瞬間だった。


⸻


営業メモ⑤⑧


『商品ではなく、人を売れ。』


同じ商品でも、「誰から買うか」で価値は変わる。


人はモノだけを見ているわけではない。


その商品に込められた想いや、作り手への信頼にお金を払っている。


だからこそ、営業は商品説明よりも、「人」を伝えることが大切なのだ。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十話「営業課長、ブランド戦略を始める」


アルトの提案で動き始めた「ドルガブランド」。


しかし、それを快く思わない商人たちが動き出す。


既得権益との最初の衝突が、グランディアで幕を開ける。


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