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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十九話 営業課長、ブランド戦略を始める


「ブランド……か。」


翌朝、ドルガは工房の壁にもたれながら、アルトから聞いた言葉を何度も口にしていた。


今まで考えたこともなかった。


良い剣を打てば売れる。


腕さえ磨けば、それで十分。


そう信じて四十年近く槌を振るい続けてきた。


「まずは、一振りだけ作りましょう。」


アルトは工房の作業台へ一枚の紙を広げた。


「一本だけ?」


「はい。」


「大量に作る必要はありません。」


ドルガは首を傾げる。


「売るなら数が必要じゃねぇのか?」


「それは普通の商品です。」


アルトは微笑んだ。


「ブランド商品は違います。」


「最初は『欲しい人が奪い合う』状態を作るんです。」



数日後。


一本の剣が完成した。


これまでと違う点は三つ。


一つ目。


鍔には、小さく『D』の刻印。


ドルガの頭文字だった。


二つ目。


柄には高級な黒革を使用。


手にした瞬間、「特別な一本」だと分かる仕上がりになっていた。


そして三つ目。


アルトが用意した羊皮紙。


そこには丁寧な文字で書かれていた。


『鍛冶職人ドルガが、生涯の技術を注ぎ込んで鍛えた一振り。』


『王国北部グランディアにて製作。』


『制作者本人が品質を保証する。』


ドルガは思わず苦笑した。


「剣より紙の方が高そうだ。」


「この紙が価値を伝えるんです。」


アルトは胸を張る。


「人は、知らないものにはお金を払いません。」


「だから知ってもらう。」


「それが営業です。」



数日後。


王都から訪れていた貴族向けの商談会。


アルトはドルガと共に一本だけ剣を持ち込んだ。


「一本しか売らないのか?」


商業組合の職員が驚く。


「はい。」


「売れなければ終わりですが。」


「売れたら始まりです。」


その意味は、誰にも分からなかった。


やがて会場へ一人の伯爵がやってきた。


豪華な装飾の剣が並ぶ中、一振りだけ質素な台座に置かれたドルガの剣へ視線が止まる。


「ほう……。」


伯爵はゆっくり剣を抜いた。


「軽い。」


「それでいて重みもある。」


何度か振ったあと、小さく頷く。


「値段は?」


周囲の商人たちは耳をそばだてた。


普段なら金貨十枚ほどの剣。


しかしアルトは静かに答えた。


「金貨三十枚です。」


「三十枚!?」


会場がざわついた。


「子どもが何を言っている!」


「そんな値段で売れるわけがない!」


商人たちが笑う。


しかし伯爵は笑わなかった。


「理由を聞こう。」


アルトは一歩前へ出る。


「この剣は大量生産できません。」


「職人ドルガが一本一本鍛えています。」


「もし折れたなら、本人が責任を持って打ち直します。」


「そして――」


アルトは羊皮紙を手渡した。


「同じ品質の剣は、二度と存在しません。」


伯爵は紙を読み終えると、静かに笑った。


「面白い。」


その一言で空気が変わる。


「金貨三十枚。」


「買おう。」


商人たちが息を呑んだ。


「ば、馬鹿な……。」


一本の剣が。


これまでの三倍の価格で売れた。


ドルガ自身が一番驚いていた。


「本当に……売れた。」


「当然です。」


アルトは笑う。


「値段を上げたんじゃありません。」


「価値が伝わるようにしただけです。」



しかし、その様子を遠くから睨みつける男がいた。


商業組合の有力商人、バルド。


長年、グランディアの鍛冶職人たちから安く剣を買い集め、王都で高く売ってきた男だった。


「面白くないな……。」


バルドは静かに呟く。


「職人が直接評価されるようになれば、儲けが減る。」


その目には、冷たい光が宿っていた。


「ガキ一人に、今まで築いた商売を壊されてたまるか。」


グランディア改革。


それはついに、既得権益との戦いへ発展しようとしていた。



営業メモ㊿⑧


『価格ではなく、価値で勝負する。』


安く売れば、一時的には売れるかもしれない。


しかし、安さだけでは必ず価格競争に巻き込まれる。


大切なのは、「なぜこの価格なのか」を相手に伝えること。


価値を理解したお客様は、価格ではなく信頼にお金を払ってくれる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第六十話「営業課長、商人ギルドと対決」


ドルガブランドの成功を快く思わない有力商人・バルド。


圧力をかけ始めた商人ギルドに対し、アルトは営業課長時代に培った”交渉術”で真正面から挑む。


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