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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十八話 営業課長、頑固職人を口説く

【1万PVありがとうございます!】


おかげさまで、本作が総PV1万を達成しました。


読んでくださる皆様、ブックマークや評価、感想で応援してくださる皆様、本当にありがとうございます。


第3部も始まり、アルトの物語はさらに大きく動き出します。


これからも楽しんでいただけるよう更新を続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします!


翌朝。


アルトは宿の食堂で朝食を済ませると、街の案内役を務める商業組合の職員・ガレスと合流した。


「今日は鍛冶工房をご覧になりますか?」


「ぜひお願いします。この街で一番腕のいい職人に会いたいんです。」


その言葉に、ガレスは困ったように笑った。


「腕だけなら間違いなく一番です。しかし……」


「しかし?」


「誰の話も聞きません。」


「なるほど。」


アルトは思わず笑った。


「営業としては、一番燃える相手ですね。」



案内された工房は街外れにあった。


大きな煙突から白い煙が立ち上り、朝から鉄を打つ音が響いている。


カンッ!


カンッ!


リズムよく振り下ろされる大槌。


工房へ入ると、一人の大男が真っ赤に焼けた鉄を打っていた。


年齢は五十代半ば。


鍛え上げられた腕。


鋭い目付き。


近寄るだけで威圧感がある。


「親方。」


ガレスが声を掛ける。


「王都から視察に来られたアルト様です。」


男は一瞬だけこちらを見た。


「帰れ。」


それだけ言って、再び槌を振り下ろす。


ガンッ!


「……話も聞いていただけませんか?」


「聞く必要がねぇ。」


「なぜです?」


「貴族ってのは、現場を知らずに偉そうなことだけ言う。」


一切迷いのない返答だった。


「補助金を出す。」


「効率化しろ。」


「もっと利益を出せ。」


「そんな話なら聞き飽きた。」


アルトは黙って親方を見つめる。


怒っているのではない。


諦めているのだ。


「親方。」


「何だ。」


「一つだけお願いがあります。」


「断る。」


「商品を一つだけ見せてください。」


親方は眉をひそめた。


「売り込みに来たんじゃありません。」


「……。」


「純粋に、職人として作ったものを見てみたいんです。」


しばらく沈黙が流れる。


やがて親方は工房の奥から一本の剣を持ってきた。


「これだ。」


アルトは受け取り、ゆっくり観察する。


美しい刃紋。


重心のバランス。


握りやすい柄。


どれを見ても一級品だった。


「……素晴らしい。」


アルトは思わず息を呑む。


「こんな剣、王都でも滅多に見ません。」


親方は初めて手を止めた。


「本当に分かるのか?」


「ええ。」


アルトは静かに頷く。


「私は剣の専門家ではありません。でも営業でした。」


「営業?」


「はい。」


「だから分かるんです。」


アルトは剣を大切に机へ置いた。


「これは売れていない商品じゃありません。」


「?」


「売り方を間違えられている商品です。」


その一言で、工房の空気が変わった。


「どういう意味だ。」


「この品質なら王侯貴族でも欲しがります。」


「だが商人は安くしか買わねぇ。」


「当然です。」


アルトは即答した。


「商人は『鉄の剣』として買っていますから。」


「……。」


「でも私は違います。」


アルトは剣を持ち上げた。


「これは『熟練職人が一本一本鍛えた作品』です。」


「作品……。」


「誰が作ったか。」


「どんな技術で作られたか。」


「どれだけ丈夫なのか。」


その価値が伝わっていない。


「値段ではなく、価値を売る。」


前世でも何度も口にした言葉だった。


安売り競争をする会社ほど苦しくなる。


価値を伝えられる会社ほど利益を残せる。


「親方のお名前は?」


「……ドルガ。」


「ドルガさん。」


アルトは笑顔を向ける。


「あなたの剣には、あなたの名前が入っていません。」


「名前?」


「ええ。」


「王都では、有名な画家の絵なら高く売れます。」


「有名な魔導士の杖も高く売れます。」


「なのに、なぜ鍛冶職人だけ名前を隠すんです?」


ドルガは目を見開いた。


今まで一度も考えたことがなかった。


「私は『ドルガ作』というブランドを作るべきだと思います。」


「ブランド……。」


「あなたの技術を信用して買う人を増やすんです。」


しばらく沈黙が流れる。


やがてドルガは低く笑った。


「ガハハハハ!」


豪快な笑い声が工房中に響く。


「面白ぇ坊主だ。」


「初めてだ。」


「俺の腕じゃなく、俺自身を評価した奴は。」


アルトも笑った。


「営業は、人を見る仕事ですから。」


ドルガはゆっくりと右手を差し出した。


「気に入った。」


「好きに見ていけ。」


その大きな手を、アルトもしっかり握り返した。


営業課長として積み重ねてきた経験。


その積み重ねが、一人の職人との信頼を結んだ瞬間だった。



営業メモ㊿⑦


『商品ではなく、人を売れ。』


同じ商品でも、「誰から買うか」で価値は変わる。


人はモノだけを見ているわけではない。


その商品に込められた想いや、作り手への信頼にお金を払っている。


だからこそ、営業は商品説明よりも、「人」を伝えることが大切なのだ。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十九話「営業課長、ブランド戦略を始める」


アルトの提案で動き始めた「ドルガブランド」。


しかし、それを快く思わない商人たちが動き出す。


既得権益との最初の衝突が、グランディアで幕を開ける。


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