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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第五十六話 営業課長、パン祭り開幕


朝。


ミルフィ村に、鐘の音が響いた。


カン――。


カン――。


いつもなら静かな村に、今日は人の声が溢れている。


「焼き上がったぞ!」


「こっちへ運んで!」


「花が足りない!」


「子どもたちはあっち!」


「迷子が出ないように気を付けて!」


村人たちが走り回っている。


広場には色とりどりの旗が飾られ、屋台には焼きたてのパンが並んでいた。


香ばしい匂いが村中に漂っている。


アルトは広場の中央に立ち、その光景を眺めていた。


(すごい……。)


ほんの少し前まで。


この村には、活気がなかった。


人は減り、畑は荒れ、村人たちは未来を諦めていた。


それが今はどうだ。


笑い声が聞こえる。


子どもたちが走っている。


大人たちも忙しそうに動いている。


村そのものが、生き返ったようだった。


「アルト君。」


ベルンが隣に立つ。


「いよいよですね。」


アルトは大きく頷いた。


「うん。」


「おまつり。」


「はじまる。」


◇


午前十時。


村の入口から、最初の馬車が入ってきた。


「いらっしゃいませ!」


「ようこそミルフィ村へ!」


村人たちが一斉に声を掛ける。


馬車から降りてきたのは、王都から来た若い夫婦だった。


「本当にここがミルフィ村?」


「思ったより綺麗なところね。」


「パンが美味しいって聞いて来たんだ。」


マルタが焼きたてのパンを差し出す。


「どうぞ。」


夫婦は一口食べる。


そして――。


「……美味しい。」


妻が目を丸くする。


「こんなパン、初めて食べたわ。」


マルタの顔がぱっと明るくなる。


「本当ですか?」


「ええ!」


「王都の高級店にも負けないと思う。」


その言葉を聞いたマルタは、嬉しそうに笑った。


◇


一台。


また一台。


次々と馬車が村へ入ってくる。


王都から。


近隣の町から。


噂を聞いた商人たちもやって来た。


気が付けば、村の入口には長い列ができていた。


ベルンが呆然と呟く。


「こんなに……。」


クラウスも笑う。


「広告の効果が出ましたね。」


アルトは首を横に振る。


「ちがう。」


「みんな。」


「がんばった。」


クラウスは少し驚いたあと、笑顔になった。


「そうですね。」


「この村全員の営業成果です。」


◇


広場では、ギルじいが笛を吹いていた。


ピーッ。


素朴な音色が村いっぱいに響く。


子どもたちは楽しそうに踊り、大人たちは手拍子をする。


その横では、若い女性たちが焼き菓子を販売している。


「こちらは蜂蜜パンです!」


「一つください!」


「ありがとうございます!」


「こっちのパンも美味しいですよ!」


売り場は大盛況だった。


マルタは目を回している。


「待って待って!」


「次はどれを焼けばいいの!?」


「マルタさん!」


「次は三十個です!」


「三十!?」


「そんなに!?」


アルトはその様子を見ながら笑った。


(これは……予想以上だ。)


◇


しかし。


昼を過ぎた頃。


問題が起きた。


「村長!」


若い農夫が走ってくる。


「大変です!」


「どうした?」


「パンが足りません!」


ベルンの顔が青ざめる。


「何だと?」


「予定していた量の二倍以上売れています!」


マルタも叫ぶ。


「材料が足りない!」


「このままじゃ午後の分が焼けないよ!」


村人たちがざわめく。


せっかく来てくれたお客様に、商品を渡せない。


これは祭り最大の危機だった。


◇


アルトはすぐに広場を見渡した。


客はまだ増えている。


パンは残り少ない。


しかし――。


商人たちの屋台には、別の商品がたくさんある。


果物。


チーズ。


蜂蜜。


飲み物。


そして、小麦。


アルトはクラウスを見る。


「クラウス。」


「はい。」


「しょうにん。」


「たすけて。」


クラウスはすぐに意味を理解した。


「なるほど。」


「商人たちから材料を集めるんですね。」


「うん。」


◇


クラウスは商人たちを集めた。


「皆さん。」


「この祭りは大成功です。」


「ですが、パンが足りません。」


商人たちは顔を見合わせる。


「うちに小麦ならある。」


「蜂蜜も余っているぞ。」


「チーズも少しなら出せる。」


「私の店にも材料がある。」


次々と声が上がった。


クラウスが笑う。


「では、皆さん。」


「ここで一緒にパンを作りませんか?」


商人たちは一瞬黙った。


そして――。


「面白い!」


「やろう!」


「せっかくここまで来たんだ!」


商人たちまでパン作りに参加し始めた。


◇


午後。


ミルフィ村の広場は、朝よりもさらに賑やかになっていた。


パンを焼く人。


材料を運ぶ人。


販売する人。


お客様を案内する人。


村人も商人も関係ない。


みんなが一つの祭りを作っている。


アルトはその光景を見ながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。


前世で営業課長として働いていた時。


自分一人の力では、何も変えられなかった。


営業。


製造。


物流。


経理。


それぞれの人間が力を合わせて、初めて会社が動く。


それは異世界でも同じだった。


「ひとり。」


「じゃ。」


「できない。」


「みんな。」


「なら。」


「できる。」


◇


夕方。


最後の客が帰っていく。


「楽しかった!」


「また来年も来ます!」


「このパン、王都でも売ってください!」


「来年は友達も連れてくるよ!」


村人たちは笑顔で手を振る。


そして――。


静かになった広場で、ベルンが村人たちへ向き直った。


「皆さん。」


「今日は本当にありがとうございました。」


誰もが疲れている。


だが、その顔には笑顔があった。


「ミルフィ村は……。」


ベルンは言葉を詰まらせる。


「まだ、終わっていません。」


「今日、初めてそう思えました。」


ギルじいが笑う。


「当たり前だ。」


「これから始まるんだ。」


その言葉に、村人たちが頷く。


◇


夜。


アルトは村外れの丘に座っていた。


眼下には、明かりの灯ったミルフィ村。


以前とはまるで違う景色だった。


リディアが隣に座る。


「アルト君。」


「今日は大成功でしたね。」


アルトは頷く。


「うん。」


「でも。」


「まだ。」


「おわりじゃない。」


リディアは微笑んだ。


「ええ。」


「むしろ、ここからですね。」


アルトは村を見下ろす。


パン祭りは成功した。


だが、祭りだけでは村は救えない。


若者が戻ってくる仕組み。


安定して商品を売る仕組み。


農業を続けられる仕組み。


そして――。


村人自身が未来を信じられる仕組み。


本当の改革は、ここから始まる。


その時。


遠くから馬の蹄の音が聞こえた。


パカッ。


パカッ。


夜の街道を、一台の馬車が村へ近づいてくる。


馬車には王国の紋章が刻まれていた。


アルトは目を細める。


「おうさま?」


リディアも立ち上がる。


「まさか……。」


馬車の扉が開く。


そこから降りてきた人物を見て、二人は息を呑んだ。


「アルト。」


聞き覚えのある声。


「久しぶりですね。」


月明かりに照らされた金色の髪。


青い瞳。


王女――エリシアだった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤⑤


『成功とは、目標を達成することではない。次の挑戦を始められる状態を作ることだ。』


一つの企画が成功しても、それだけでは本当の改革にはならない。


成功した理由を分析し、次の仕組みへつなげる。


「一度成功した」で終わるのではなく、「次も成功できる」に変える。


それが、継続的な営業と改革につながっていく。


━━━━━━━━━━━━━━

――次回、第五十七話「営業課長、新たな市場を開拓する」


王家から届いた、地方産業活性化計画への協力要請。


次なる舞台は、鉄と魔石で栄える北部鉱山都市グランディア。


豊富な資源を持ちながら、住民の暮らしはなぜか豊かになっていなかった。


「この街の仕組みを変えます」


営業課長アルト、新たな改革へ。


しかしグランディアには、王国の未来を左右する秘密が眠っていた――。


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