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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十五話 営業課長、祭りの広告を打つ


パン祭りまで、あと五日。


ミルフィ村は雨上がりの青空に包まれていた。


倒れた屋台は立て直され、広場のぬかるみも村人総出で整えられている。


祭りの準備は再び動き始めていた。


しかし、アルトは広場の入口で腕を組んで考え込んでいた。


「アルト君。」


教授が声を掛ける。


「まだ何か心配事がありますか?」


アルトは小さく頷く。


「ひと。」


「まだ。」


「こない。」


準備は順調。


パンも焼ける。


屋台も完成する。


だが、お客様が来なければ祭りは成功しない。



その日の午後。


クラウスが王都から戻ってきた。


「商人たちへの声掛けは終わりました。」


「ですが……。」


「どうしました?」


ベルンが尋ねる。


クラウスは苦笑した。


「皆さん口を揃えて言うのです。」


『祭りは面白そうだ。』


『でも、お客様が集まるのか?』


『客が来るなら出店する。』


「つまり。」


「様子見ですね。」


教授が腕を組む。


「最初の一歩を誰も踏み出したくない。」


アルトは静かに頷いた。


(前世でもよくあった。)


新しい商品。


新しい企画。


誰も失敗したくないから、一番手を避ける。



アルトは村の掲示板を見つめていた。


そこには小さな紙が一枚だけ貼られている。


『パン祭り開催』


文字だけ。


飾りもない。


「これじゃ。」


「よめない。」


マルタが首をかしげる。


「でも、お知らせは書いてあるよ?」


アルトは小さく笑った。


「しる。」


「だけ。」


「だめ。」


「え?」


「きたい。」


「なる。」


「つくる。」


営業時代、チラシを作る時に必ず考えていたことがある。


商品を説明するのではない。


『行ってみたい』


そう思わせることが広告の役目だった。



アルトは紙と炭を持ってきた。


そして、大きな絵を描き始める。


こんがり焼けたパン。


笑顔の子ども。


音楽を奏でる老人。


花で飾られた広場。


その上に、大きな文字を書く。


『王都では食べられない


 できたてのパンを食べよう!』


村人たちが目を丸くする。


「絵がある!」


「分かりやすい!」


「見ただけでお腹が空いてきたぞ。」



「でも……。」


若い女性が手を挙げる。


「これを誰が配るんです?」


アルトはにっこり笑った。


「みんな。」


「え?」


「おかいもの。」


「いく。」


「ついで。」


「わたす。」


「しんせき。」


「ともだち。」


「しょうたい。」


ベルンが目を見開く。


「村人全員が広告係……。」


「うん。」


営業課長だった頃。


一番効果があった広告は、豪華な新聞広告ではなかった。


「これ、本当に良かったよ。」


そんなお客様の一言だった。


人は広告より、人を信じる。


だから口コミは何より強い。



その日の夕方。


村人たちは王都や近隣の町へ向かった。


「パン祭りがあります!」


「ぜひ来てください!」


「子ども向けの遊び場もありますよ!」


八百屋では。


鍛冶屋では。


宿屋では。


それぞれが笑顔で声を掛けていく。


「ミルフィ村?」


「聞いたことないな。」


「でも面白そうだ。」


「行ってみるか。」


少しずつ。


本当に少しずつ。


祭りの噂が広がり始めた。



三日後。


クラウスが興奮した様子で馬車から飛び降りた。


「アルト君!」


「大変です!」


ベルンが慌てる。


「何かありましたか?」


クラウスは満面の笑みで答えた。


「宿屋です!」


「王都の宿屋で、祭りの日に泊まりたいという予約が入り始めています!」


「えっ!?」


「まだ祭り前なのに?」


クラウスは頷く。


「口コミです。」


「『美味しいパンが食べられるらしい。』」


「『面白い祭りらしい。』」


「そんな話が王都中で広がっています。」


村人たちから歓声が上がる。


ギルじいは思わず帽子を空へ放り投げた。


「やったぞ!」



その夜。


宿の窓から村を眺めながら、教授が静かに言う。


「アルト君。」


「広告とは、不思議なものですね。」


アルトは笑顔で頷く。


「うん。」


「ひと。」


「ひと。」


「つながる。」


営業とは、商品を押し付けることではない。


誰かが感動し、その感動を誰かへ伝えたくなる。


その連鎖を作ることこそ、本当の営業だった。


窓の外では、祭りの準備を続ける村人たちの笑い声が夜遅くまで響いていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤④


『最高の広告は、お客様の笑顔である。』


どれだけ立派な宣伝をしても、実際に満足したお客様の一言には敵わない。


「また行きたい。」


「誰かに教えたい。」


その気持ちが、新しいお客様を連れてきてくれる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十六話「営業課長、パン祭り開幕」


ついに迎えた祭り当日。


期待と不安が入り混じる中、ミルフィ村史上最大の一日が幕を開ける――。

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