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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第五十五話 営業課長、祭りの広告を打つ


パン祭りまで、あと五日。


ミルフィ村は雨上がりの青空に包まれていた。


倒れた屋台は立て直され、広場のぬかるみも村人総出で整えられている。


祭りの準備は再び動き始めていた。


しかし、アルトは広場の入口で腕を組んで考え込んでいた。


「アルト君。」


教授が声を掛ける。


「まだ何か心配事がありますか?」


アルトは小さく頷く。


「ひと。」


「まだ。」


「こない。」


準備は順調。


パンも焼ける。


屋台も完成する。


だが、お客様が来なければ祭りは成功しない。


◇


その日の午後。


クラウスが王都から戻ってきた。


「商人たちへの声掛けは終わりました。」


「ですが……。」


「どうしました?」


ベルンが尋ねる。


クラウスは苦笑した。


「皆さん口を揃えて言うのです。」


『祭りは面白そうだ。』


『でも、お客様が集まるのか?』


『客が来るなら出店する。』


「つまり。」


「様子見ですね。」


教授が腕を組む。


「最初の一歩を誰も踏み出したくない。」


アルトは静かに頷いた。


(前世でもよくあった。)


新しい商品。


新しい企画。


誰も失敗したくないから、一番手を避ける。


◇


アルトは村の掲示板を見つめていた。


そこには小さな紙が一枚だけ貼られている。


『パン祭り開催』


文字だけ。


飾りもない。


「これじゃ。」


「よめない。」


マルタが首をかしげる。


「でも、お知らせは書いてあるよ?」


アルトは小さく笑った。


「しる。」


「だけ。」


「だめ。」


「え?」


「きたい。」


「なる。」


「つくる。」


営業時代、チラシを作る時に必ず考えていたことがある。


商品を説明するのではない。


『行ってみたい』


そう思わせることが広告の役目だった。


◇


アルトは紙と炭を持ってきた。


そして、大きな絵を描き始める。


こんがり焼けたパン。


笑顔の子ども。


音楽を奏でる老人。


花で飾られた広場。


その上に、大きな文字を書く。


『王都では食べられない


 できたてのパンを食べよう!』


村人たちが目を丸くする。


「絵がある!」


「分かりやすい!」


「見ただけでお腹が空いてきたぞ。」


◇


「でも……。」


若い女性が手を挙げる。


「これを誰が配るんです?」


アルトはにっこり笑った。


「みんな。」


「え?」


「おかいもの。」


「いく。」


「ついで。」


「わたす。」


「しんせき。」


「ともだち。」


「しょうたい。」


ベルンが目を見開く。


「村人全員が広告係……。」


「うん。」


営業課長だった頃。


一番効果があった広告は、豪華な新聞広告ではなかった。


「これ、本当に良かったよ。」


そんなお客様の一言だった。


人は広告より、人を信じる。


だから口コミは何より強い。


◇


その日の夕方。


村人たちは王都や近隣の町へ向かった。


「パン祭りがあります!」


「ぜひ来てください!」


「子ども向けの遊び場もありますよ!」


八百屋では。


鍛冶屋では。


宿屋では。


それぞれが笑顔で声を掛けていく。


「ミルフィ村?」


「聞いたことないな。」


「でも面白そうだ。」


「行ってみるか。」


少しずつ。


本当に少しずつ。


祭りの噂が広がり始めた。


◇


三日後。


クラウスが興奮した様子で馬車から飛び降りた。


「アルト君!」


「大変です!」


ベルンが慌てる。


「何かありましたか?」


クラウスは満面の笑みで答えた。


「宿屋です!」


「王都の宿屋で、祭りの日に泊まりたいという予約が入り始めています!」


「えっ!?」


「まだ祭り前なのに?」


クラウスは頷く。


「口コミです。」


「『美味しいパンが食べられるらしい。』」


「『面白い祭りらしい。』」


「そんな話が王都中で広がっています。」


村人たちから歓声が上がる。


ギルじいは思わず帽子を空へ放り投げた。


「やったぞ!」


◇


その夜。


宿の窓から村を眺めながら、教授が静かに言う。


「アルト君。」


「広告とは、不思議なものですね。」


アルトは笑顔で頷く。


「うん。」


「ひと。」


「ひと。」


「つながる。」


営業とは、商品を押し付けることではない。


誰かが感動し、その感動を誰かへ伝えたくなる。


その連鎖を作ることこそ、本当の営業だった。


窓の外では、祭りの準備を続ける村人たちの笑い声が夜遅くまで響いていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤④


『最高の広告は、お客様の笑顔である。』


どれだけ立派な宣伝をしても、実際に満足したお客様の一言には敵わない。


「また行きたい。」


「誰かに教えたい。」


その気持ちが、新しいお客様を連れてきてくれる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十六話「営業課長、パン祭り開幕」


ついに迎えた祭り当日。


期待と不安が入り混じる中、ミルフィ村史上最大の一日が幕を開ける――。

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