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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第五十四話 営業課長、パン祭り最大の危機


パン祭りまで、あと一週間。


ミルフィ村は朝から祭りの準備で活気にあふれていた。


広場では屋台が完成し、子どもたちは手作りの旗を飾り付けている。


パン職人のマルタは、新しいレシピを何度も試していた。


「今年一番のパンを焼くよ!」


その言葉に、村人たちも笑顔で応える。


「絶対に成功させよう!」


誰もが祭りの成功を信じていた。


その時だった。


ゴロゴロ……


遠くで雷鳴が響く。


教授が空を見上げる。


「雲行きが怪しいですね。」


次の瞬間。


ザーッ!!


激しい雨が村へ降り注いだ。


◇


雨は一日中降り続いた。


翌朝になっても止む気配はない。


村の広場はぬかるみ、せっかく建てた屋台のいくつかは倒れてしまった。


「そんな……。」


若い農夫が肩を落とす。


「あと一週間しかないのに。」


そこへ、さらに悪い知らせが飛び込んできた。


「村長!」


一人の村人が息を切らして走ってくる。


「保管庫の屋根が壊れました!」


「何だって!?」


ベルンたちは慌てて保管庫へ向かう。


◇


保管庫の中では、村人たちが必死に袋を運び出していた。


雨漏りがひどく、小麦袋が濡れ始めている。


マルタが青ざめる。


「このままじゃ、小麦が全部駄目になる……。」


ギルじいも悔しそうに拳を握った。


「今年一番の出来だったのに……。」


重苦しい空気が流れる。


◇


アルトは保管庫を見回した。


天井。


柱。


床。


そして、積み上げられた小麦袋。


(全部は濡れていない。)


営業時代、トラブルが起きるたびに上司から言われた言葉がある。


『問題を見るな。被害の範囲を見ろ。』


全部が駄目だと思い込むと、冷静な判断ができなくなる。


アルトは小さな声で言った。


「だいじょうぶ。」


村人たちが振り返る。


「アルト君?」


「ぜんぶ。」


「ぬれてない。」


その一言で、皆が保管庫の奥を見る。


確かに、濡れているのは入口付近だけだった。


奥の小麦は無事だった。


「本当だ!」


「助かるぞ!」


◇


アルトはすぐに指示を出す。


「かわいた。」


「ふくろ。」


「こっち。」


「ぬれた。」


「べつ。」


「わける。」


教授がすぐに理解した。


「濡れたものと無事なものを分けましょう!」


「急いで!」


村人たちが一斉に動き出す。


若者は袋を運び、女性たちは濡れた袋を開いて乾燥させる。


子どもたちは布を運び、大工たちは屋根の応急修理を始めた。


昨日の営業会議で決めた役割が、そのまま生きていた。


誰も指示待ちにならない。


それぞれが自分の仕事を始めていた。


◇


夕方。


雨はようやく小降りになった。


保管庫の中には、仕分けされた小麦袋がきれいに並んでいる。


村長ベルンが数を確認した。


「無事だった小麦が七割。」


「乾燥すれば使えそうなのが二割。」


「完全に駄目なのは一割だけです!」


歓声が上がる。


マルタは胸をなで下ろした。


「祭りは開ける!」


ギルじいも大きく笑う。


「これなら最高のパンが焼けるぞ!」


◇


その夜。


宿で夕食を食べながら、リディアが尋ねた。


「アルト君。」


「どうして最初に『大丈夫』と言えたんですか?」


アルトはスープを一口飲んで答えた。


「こまると。」


「みんな。」


「ぜんぶ。」


「みえなくなる。」


「でも。」


「みえる。」


「ところ。」


「みる。」


教授は静かに頷いた。


「被害を正確に把握する……。」


「危機管理の基本ですね。」


営業でも同じだった。


クレームが入ると、現場は「もう終わりだ」と慌てる。


しかし実際には、影響を受けるお客様は一部だけということも多い。


事実を整理すれば、打てる手は必ずある。


◇


宿の外へ出ると、雨雲の切れ間から星が顔を出していた。


アルトは夜空を見上げる。


「はれ。」


小さく笑った、その時だった。


村外れの森の中。


黒い外套の男が保管庫を見つめていた。


「失敗したか。」


部下が頭を下げる。


「申し訳ありません。」


男は静かに首を振る。


「いや。」


「ますます面白い。」


「次は祭り当日だ。」


闇の中で、銀色の歯車の紋章が鈍く光る。


ミルフィ村最大の試練は、まだ終わっていなかった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤③


『トラブルが起きた時こそ、事実と感情を分けて考える。』


「全部駄目だ」と思うのは感情。


「何が、どこまで影響を受けたのか」を確認するのが事実。


冷静に状況を整理すれば、解決策は必ず見えてくる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十五話「営業課長、祭りの広告を打つ」


祭りまで残り五日。


成功の鍵は、王都からどれだけ多くの人を呼べるかだった。


営業課長は異世界初の"口コミ戦略"を仕掛ける――。

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