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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十四話 営業課長、パン祭り最大の危機


パン祭りまで、あと一週間。


ミルフィ村は朝から祭りの準備で活気にあふれていた。


広場では屋台が完成し、子どもたちは手作りの旗を飾り付けている。


パン職人のマルタは、新しいレシピを何度も試していた。


「今年一番のパンを焼くよ!」


その言葉に、村人たちも笑顔で応える。


「絶対に成功させよう!」


誰もが祭りの成功を信じていた。


その時だった。


ゴロゴロ……


遠くで雷鳴が響く。


教授が空を見上げる。


「雲行きが怪しいですね。」


次の瞬間。


ザーッ!!


激しい雨が村へ降り注いだ。



雨は一日中降り続いた。


翌朝になっても止む気配はない。


村の広場はぬかるみ、せっかく建てた屋台のいくつかは倒れてしまった。


「そんな……。」


若い農夫が肩を落とす。


「あと一週間しかないのに。」


そこへ、さらに悪い知らせが飛び込んできた。


「村長!」


一人の村人が息を切らして走ってくる。


「保管庫の屋根が壊れました!」


「何だって!?」


ベルンたちは慌てて保管庫へ向かう。



保管庫の中では、村人たちが必死に袋を運び出していた。


雨漏りがひどく、小麦袋が濡れ始めている。


マルタが青ざめる。


「このままじゃ、小麦が全部駄目になる……。」


ギルじいも悔しそうに拳を握った。


「今年一番の出来だったのに……。」


重苦しい空気が流れる。



アルトは保管庫を見回した。


天井。


柱。


床。


そして、積み上げられた小麦袋。


(全部は濡れていない。)


営業時代、トラブルが起きるたびに上司から言われた言葉がある。


『問題を見るな。被害の範囲を見ろ。』


全部が駄目だと思い込むと、冷静な判断ができなくなる。


アルトは小さな声で言った。


「だいじょうぶ。」


村人たちが振り返る。


「アルト君?」


「ぜんぶ。」


「ぬれてない。」


その一言で、皆が保管庫の奥を見る。


確かに、濡れているのは入口付近だけだった。


奥の小麦は無事だった。


「本当だ!」


「助かるぞ!」



アルトはすぐに指示を出す。


「かわいた。」


「ふくろ。」


「こっち。」


「ぬれた。」


「べつ。」


「わける。」


教授がすぐに理解した。


「濡れたものと無事なものを分けましょう!」


「急いで!」


村人たちが一斉に動き出す。


若者は袋を運び、女性たちは濡れた袋を開いて乾燥させる。


子どもたちは布を運び、大工たちは屋根の応急修理を始めた。


昨日の営業会議で決めた役割が、そのまま生きていた。


誰も指示待ちにならない。


それぞれが自分の仕事を始めていた。



夕方。


雨はようやく小降りになった。


保管庫の中には、仕分けされた小麦袋がきれいに並んでいる。


村長ベルンが数を確認した。


「無事だった小麦が七割。」


「乾燥すれば使えそうなのが二割。」


「完全に駄目なのは一割だけです!」


歓声が上がる。


マルタは胸をなで下ろした。


「祭りは開ける!」


ギルじいも大きく笑う。


「これなら最高のパンが焼けるぞ!」



その夜。


宿で夕食を食べながら、リディアが尋ねた。


「アルト君。」


「どうして最初に『大丈夫』と言えたんですか?」


アルトはスープを一口飲んで答えた。


「こまると。」


「みんな。」


「ぜんぶ。」


「みえなくなる。」


「でも。」


「みえる。」


「ところ。」


「みる。」


教授は静かに頷いた。


「被害を正確に把握する……。」


「危機管理の基本ですね。」


営業でも同じだった。


クレームが入ると、現場は「もう終わりだ」と慌てる。


しかし実際には、影響を受けるお客様は一部だけということも多い。


事実を整理すれば、打てる手は必ずある。



宿の外へ出ると、雨雲の切れ間から星が顔を出していた。


アルトは夜空を見上げる。


「はれ。」


小さく笑った、その時だった。


村外れの森の中。


黒い外套の男が保管庫を見つめていた。


「失敗したか。」


部下が頭を下げる。


「申し訳ありません。」


男は静かに首を振る。


「いや。」


「ますます面白い。」


「次は祭り当日だ。」


闇の中で、銀色の歯車の紋章が鈍く光る。


ミルフィ村最大の試練は、まだ終わっていなかった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤③


『トラブルが起きた時こそ、事実と感情を分けて考える。』


「全部駄目だ」と思うのは感情。


「何が、どこまで影響を受けたのか」を確認するのが事実。


冷静に状況を整理すれば、解決策は必ず見えてくる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十五話「営業課長、祭りの広告を打つ」


祭りまで残り五日。


成功の鍵は、王都からどれだけ多くの人を呼べるかだった。


営業課長は異世界初の"口コミ戦略"を仕掛ける――。

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