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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十三話 営業課長、村人全員を営業会議へ集める


パン祭りまで、あと二週間。


ミルフィ村では朝から慌ただしく人々が動き回っていた。


広場では大工たちが屋台を組み立て、女性たちは花飾りを作り、子どもたちは楽しそうに旗を描いている。


村全体が少しずつ活気を取り戻し始めていた。


しかし、その様子を見つめるアルトの表情はどこか浮かない。


「アルト君?」


リディアが声を掛ける。


「どうしたのですか?」


アルトは広場を見回しながら、小さく呟いた。


「ばらばら。」


「え?」


「みんな。」


「がんばる。」


「でも。」


「ばらばら。」


リディアは周囲を見渡す。


確かに皆それぞれ懸命に働いている。


だが、誰が何を担当し、祭り全体をどう盛り上げるのかを共有している人はいなかった。


教授が感心したように頷く。


「なるほど……。」


「組織として動いていないのですね。」



その日の夕方。


村の集会所には、村人全員が集められた。


「どうしたんだ?」


「また何か始まるのか?」


ざわざわとした空気の中、アルトは一番前へ立つ。


背伸びをしながら黒板代わりの木板へ、大きな円を描いた。


そして、その中心に一言だけ書く。


『パン祭り』


さらに周りへ小さな丸を書き足していく。


『パン』


『小麦』


『案内』


『掃除』


『歌』


『子ども』


『馬車』


『飾り』


『笑顔』


村人たちは不思議そうに眺めていた。



「みんな。」


アルトが振り返る。


「パン。」


「だけ。」


「だめ。」


「え?」


マルタが首を傾げる。


アルトは一人の子どもを指差した。


「きみ。」


「なに。」


「できる?」


男の子は少し考えて答えた。


「歌!」


「うん。」


「いい。」


次は若い女性を見る。


「おねえちゃん。」


「おはな。」


「すき?」


「ええ。」


「花を飾るのが好きよ。」


「いい。」


さらに大工へ尋ねる。


「おじさん。」


「つくる。」


「とくい?」


「もちろんだ。」


「任せろ。」


アルトは嬉しそうに笑った。



「みんな。」


「できる。」


「ちがう。」


「だから。」


「いい。」


集会所が静まり返る。


営業課長だった頃。


成果を出すチームは、全員が同じ仕事をしていたわけではない。


営業が得意な人。


資料作りが上手な人。


人をまとめるのが得意な人。


それぞれの強みを活かした時、組織は一番強くなる。



アルトは木板へ大きな矢印を書く。


『みんなで作る祭り』


「パン。」


「うる。」


「だけじゃない。」


「このむら。」


「たのしかった。」


「また。」


「きたい。」


「そう。」


「おもって。」


「もらう。」


村長ベルンが目を見開く。


「祭りそのものが商品……。」


教授も頷いた。


「体験価値ですね。」


「アルト君らしい発想です。」



その時、ギルじいがゆっくり立ち上がった。


「なら、わしもやる。」


「ギルじい!」


「昔、収穫祭では笛を吹いておった。」


「まだ指は動く。」


子どもたちが目を輝かせる。


「聞いてみたい!」


すると別の老人も笑った。


「じゃあ、わしは昔話を聞かせよう。」


「私は刺繍を飾るわ。」


「俺は馬車置き場を整備する!」


「うちは冷たい果汁を用意しよう!」


次々と声が上がる。


今まで誰も「自分も役に立てる」とは思っていなかった。


アルトはそれぞれの得意なことを引き出しただけだった。



会議が終わる頃には、木板は役割でいっぱいになっていた。


パン担当。


会場担当。


音楽担当。


案内担当。


子ども広場担当。


休憩所担当。


掃除担当。


村人全員の名前が、どこかに書かれている。


誰一人として「手伝い」ではない。


全員が主役だった。



帰り道。


夕焼けに染まる村を歩きながら、ベルンが静かに言う。


「アルト君。」


「この村では長い間、誰かに任せることばかり考えていました。」


「役人が来れば何とかしてくれる。」


「商人が来れば売ってくれる。」


「でも違いました。」


「私たち自身が動かなければ、村は変わらないのですね。」


アルトは小さく頷いた。


「うん。」


「みんな。」


「しゅやく。」


その言葉に、ベルンは深く頭を下げた。


「ありがとう。」


「この歳になって、大切なことを教えてもらいました。」


アルトは少し照れくさそうに笑う。


「えへへ。」


遠くでは、子どもたちの笑い声が聞こえる。


ミルフィ村は少しずつ、「消えかけた村」から「未来へ進む村」へと変わり始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤②


『強い組織は、全員が同じことをする組織ではない。』


一人ひとりの得意なことは違う。


役割を押し付けるのではなく、強みを活かすこと。


それが組織全体の力を最大化する、一番の近道である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十四話「営業課長、パン祭り最大の危機」


祭りまであと一週間。


順調に進んでいた準備を襲った突然の大雨。


さらに、小麦の保管庫で思わぬ事件が起きる――。

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