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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編

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第五十三話 営業課長、村人全員を営業会議へ集める


パン祭りまで、あと二週間。


ミルフィ村では朝から慌ただしく人々が動き回っていた。


広場では大工たちが屋台を組み立て、女性たちは花飾りを作り、子どもたちは楽しそうに旗を描いている。


村全体が少しずつ活気を取り戻し始めていた。


しかし、その様子を見つめるアルトの表情はどこか浮かない。


「アルト君?」


リディアが声を掛ける。


「どうしたのですか?」


アルトは広場を見回しながら、小さく呟いた。


「ばらばら。」


「え?」


「みんな。」


「がんばる。」


「でも。」


「ばらばら。」


リディアは周囲を見渡す。


確かに皆それぞれ懸命に働いている。


だが、誰が何を担当し、祭り全体をどう盛り上げるのかを共有している人はいなかった。


教授が感心したように頷く。


「なるほど……。」


「組織として動いていないのですね。」


◇


その日の夕方。


村の集会所には、村人全員が集められた。


「どうしたんだ?」


「また何か始まるのか?」


ざわざわとした空気の中、アルトは一番前へ立つ。


背伸びをしながら黒板代わりの木板へ、大きな円を描いた。


そして、その中心に一言だけ書く。


『パン祭り』


さらに周りへ小さな丸を書き足していく。


『パン』


『小麦』


『案内』


『掃除』


『歌』


『子ども』


『馬車』


『飾り』


『笑顔』


村人たちは不思議そうに眺めていた。


◇


「みんな。」


アルトが振り返る。


「パン。」


「だけ。」


「だめ。」


「え?」


マルタが首を傾げる。


アルトは一人の子どもを指差した。


「きみ。」


「なに。」


「できる?」


男の子は少し考えて答えた。


「歌!」


「うん。」


「いい。」


次は若い女性を見る。


「おねえちゃん。」


「おはな。」


「すき?」


「ええ。」


「花を飾るのが好きよ。」


「いい。」


さらに大工へ尋ねる。


「おじさん。」


「つくる。」


「とくい?」


「もちろんだ。」


「任せろ。」


アルトは嬉しそうに笑った。


◇


「みんな。」


「できる。」


「ちがう。」


「だから。」


「いい。」


集会所が静まり返る。


営業課長だった頃。


成果を出すチームは、全員が同じ仕事をしていたわけではない。


営業が得意な人。


資料作りが上手な人。


人をまとめるのが得意な人。


それぞれの強みを活かした時、組織は一番強くなる。


◇


アルトは木板へ大きな矢印を書く。


『みんなで作る祭り』


「パン。」


「うる。」


「だけじゃない。」


「このむら。」


「たのしかった。」


「また。」


「きたい。」


「そう。」


「おもって。」


「もらう。」


村長ベルンが目を見開く。


「祭りそのものが商品……。」


教授も頷いた。


「体験価値ですね。」


「アルト君らしい発想です。」


◇


その時、ギルじいがゆっくり立ち上がった。


「なら、わしもやる。」


「ギルじい!」


「昔、収穫祭では笛を吹いておった。」


「まだ指は動く。」


子どもたちが目を輝かせる。


「聞いてみたい!」


すると別の老人も笑った。


「じゃあ、わしは昔話を聞かせよう。」


「私は刺繍を飾るわ。」


「俺は馬車置き場を整備する!」


「うちは冷たい果汁を用意しよう!」


次々と声が上がる。


今まで誰も「自分も役に立てる」とは思っていなかった。


アルトはそれぞれの得意なことを引き出しただけだった。


◇


会議が終わる頃には、木板は役割でいっぱいになっていた。


パン担当。


会場担当。


音楽担当。


案内担当。


子ども広場担当。


休憩所担当。


掃除担当。


村人全員の名前が、どこかに書かれている。


誰一人として「手伝い」ではない。


全員が主役だった。


◇


帰り道。


夕焼けに染まる村を歩きながら、ベルンが静かに言う。


「アルト君。」


「この村では長い間、誰かに任せることばかり考えていました。」


「役人が来れば何とかしてくれる。」


「商人が来れば売ってくれる。」


「でも違いました。」


「私たち自身が動かなければ、村は変わらないのですね。」


アルトは小さく頷いた。


「うん。」


「みんな。」


「しゅやく。」


その言葉に、ベルンは深く頭を下げた。


「ありがとう。」


「この歳になって、大切なことを教えてもらいました。」


アルトは少し照れくさそうに笑う。


「えへへ。」


遠くでは、子どもたちの笑い声が聞こえる。


ミルフィ村は少しずつ、「消えかけた村」から「未来へ進む村」へと変わり始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤②


『強い組織は、全員が同じことをする組織ではない。』


一人ひとりの得意なことは違う。


役割を押し付けるのではなく、強みを活かすこと。


それが組織全体の力を最大化する、一番の近道である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十四話「営業課長、パン祭り最大の危機」


祭りまであと一週間。


順調に進んでいた準備を襲った突然の大雨。


さらに、小麦の保管庫で思わぬ事件が起きる――。

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