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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十二話 営業課長、商人たちを巻き込む


ミルフィ村へ来て五日目。


パン祭りの計画は少しずつ形になり始めていた。


村人たちは会場の掃除を始め、子どもたちは花を摘み、大人たちは長い間使われていなかった広場の整備を進めている。


しかし――。


「一つ、大きな問題があります。」


村長ベルンが神妙な顔で言った。


「商人が来ません。」


集会所に重い空気が流れる。


パンを焼いても、祭りを開いても、人が来なければ意味がない。


「王都の商人は利益にならない場所へは来ませんから……。」


マルタも不安そうに俯いた。



アルトは静かに頷く。


(営業も同じだ。)


「お願いします。」


だけでは人は動かない。


相手にも利益がなければ、協力は長続きしない。


営業課長だった頃、何度も経験したことだった。


「クラウス。」


「うん?」


「しょうにん。」


「あつめて。」


クラウスは少し驚いたあと、口元を緩めた。


「分かりました。」


「王都の商人ギルドで話をしましょう。」



二日後。


王都・商人ギルド会議室。


十数人の商人が長机を囲んでいた。


穀物商。


布商。


陶器商。


馬車商。


それぞれ王都で名の知れた商人たちである。


部屋へ入ってきたアルトを見て、全員が目を丸くした。


「子ども?」


「二歳だって聞いたぞ。」


「本当にこの子が?」


ざわめきが広がる。


クラウスが静かに手を上げた。


「皆さん。」


「彼の話を聞いてから判断してください。」


部屋は静まり返った。



アルトは前へ出る。


机の上に一枚の紙を置いた。


そこには大きな円が描かれている。


「みんな。」


「もうかる。」


ある商人が苦笑した。


「そんな都合のいい話があるかい?」


アルトは頷く。


「ある。」


「まず。」


「パン。」


「うる。」


円の横へ一本線を書く。


「ひと。」


「くる。」


さらに線を伸ばす。


「ふく。」


「かう。」


「おさら。」


「かう。」


「くだもの。」


「かう。」


商人たちは次第に真剣な表情へ変わっていく。


アルトはさらに続けた。


「ひと。」


「いっぱい。」


「みんな。」


「うれる。」


クラウスが思わず笑った。


「なるほど。」


「パン祭りではなく、市場そのものを作る気ですね。」


「うん。」



穀物商の一人が腕を組む。


「だが、村まで四日もかかる。」


「手間に見合う利益が出る保証は?」


アルトは少し考えてから答えた。


「いっかい。」


「じゃない。」


「まいとし。」


「え?」


「まいとし。」


「おまつり。」


「おきゃく。」


「ふえる。」


「みんな。」


「もうかる。」


商人たちは顔を見合わせる。


単発の商売ではない。


毎年続く催しになれば、継続的な利益になる。


これは投資だった。



その時、一人の年配商人が立ち上がった。


「私は反対だ。」


部屋が静まり返る。


「地方への投資は何度も失敗してきた。」


「結局、人は王都へ集まる。」


「村は衰退する。」


「それが現実だ。」


他の商人たちも黙り込む。


重い空気が流れた。



アルトは年配商人の前まで歩いていく。


そして、にこりと笑った。


「おじさん。」


「しょうばい。」


「なんねん?」


「……三十五年だ。」


「すごい。」


「いっぱい。」


「しっぱい。」


「した?」


商人は苦笑する。


「もちろんだ。」


「数え切れん。」


アルトは頷く。


「でも。」


「やめなかった。」


「う……。」


「どうして?」


商人は自然と答えていた。


「成功するまで続けたからだ。」


言った瞬間、自分で気付く。


アルトは満面の笑みを浮かべた。


「むら。」


「おなじ。」


部屋が静まり返る。


失敗したから終わりではない。


成功するまで挑戦していないだけ。


その言葉は、長年商売を続けてきた彼らだからこそ胸に響いた。



しばらくの沈黙のあと。


年配商人が大きく笑った。


「参った。」


「私が説得されるとは。」


彼はアルトへ向かって深く頷く。


「参加しよう。」


その一言をきっかけに、空気が変わる。


「うちも出店しよう。」


「馬車を出そう。」


「うちは食器を持って行く。」


「私は果実酒……いや、果汁を販売しよう。」


次々と手が挙がっていく。


クラウスは苦笑しながら呟いた。


「またですね。」


教授が微笑む。


「ええ。」


「アルト君は商品ではなく、人の心を動かしてしまう。」



帰り道。


夕日に照らされた街道を馬車が走る。


ベルンは何度も今日の出来事を思い返していた。


「アルト君。」


「どうして商人たちは協力してくれたんですか?」


アルトは窓の外を見ながら答えた。


「おかね。」


「だけ。」


「じゃない。」


「いっしょ。」


「つくる。」


「たのしい。」


営業とは契約を取ることではない。


相手に「この仕事を一緒にやりたい」と思ってもらうこと。


それが、本当の信頼関係だった。


馬車は夕焼けの中、ミルフィ村へ向かって走り続ける。


祭りの日は、もうすぐそこまで迫っていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ⑤①


『人は「協力してください」では動かない。「一緒に成功しましょう」で動く。』


営業はお願いをする仕事ではない。


相手にも利益があり、未来があることを示す仕事だ。


"Win-Win"が見えた時、人は自ら動き始める。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十三話「営業課長、村人全員を営業会議へ集める」


パン祭りまで残り二週間。


アルトは村人全員を集め、「この村にしかできない祭り」を作るための作戦会議を始める――。

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