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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第3部 営業課長、消えかけた村を再生する編
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第五十一話 営業課長、村のパンをブランドにする


ミルフィ村へ来て三日目。


朝早くから、村にはパンを焼く香ばしい香りが漂っていた。


アルトは匂いにつられるように、小さな石造りのパン工房へ向かう。


「おはよう。」


「おはようございます、アルト君。」


迎えてくれたのは、村で唯一のパン職人・マルタだった。


五十代半ばの女性で、朝早くから一人でパンを焼き続けている。


店先には焼きたてのパンが並んでいた。


どれもこんがりと焼き色が付き、とても美味しそうだ。


アルトは一つちぎって口へ運ぶ。


「……おいしい。」


外は香ばしく、中はふんわり。


噛むほどに小麦の甘みが広がる。


前世でも人気ベーカリーに負けない味だった。


「ほんとに。」


「おいしい。」


マルタは照れくさそうに笑う。


「ありがとう。」


「でも、この村でしか売れないパンだからね。」



店を出たアルトは、村長ベルンへ尋ねた。


「なんで。」


「うれない?」


ベルンは苦笑する。


「王都まで運ぶのに四日かかります。」


「焼きたては着く頃には固くなってしまうんです。」


「なるほど。」


商品は良い。


しかし届けられない。


営業時代にも同じ問題があった。


品質が高くても、お客様へ届かなければ存在しないのと同じ。


「じゃあ。」


「はこばない。」


「……え?」


教授たちが首をかしげる。


アルトはパンを指差した。


「ひと。」


「くる。」


「しくみ。」


「つくる。」



その日の午後。


集会所へ村人が集められた。


アルトは黒板代わりの木板へ、大きな丸を描く。


「パン。」


「おいしい。」


「でも。」


「しらない。」


村人たちは静かに聞いている。


アルトは丸の外へ矢印を書く。


「しる。」


「たべる。」


「また。」


「くる。」


マルタが首をかしげる。


「お客様に来てもらうってこと?」


「うん。」


「どうやって?」


アルトは満面の笑みを浮かべた。


「おまつり。」


集会所が静まり返る。


「祭り?」


「パン。」


「おまつり。」


「いっぱい。」


「たべる。」


「たのしい。」


村人たちは顔を見合わせる。


今まで誰も考えたことがなかった。


売りに行くのではなく、来てもらう。


発想そのものが違っていた。



教授は腕を組む。


「イベントマーケティング……。」


「え?」


「いや。」


「人を集めることで商品を知ってもらう方法です。」


アルトは頷く。


営業時代。


新商品を売る時は展示会や試食会を開いた。


一度食べてもらえれば、商品の良さは伝わる。


だから最初に必要なのは広告ではない。


『体験』だった。



「でも……。」


若い農夫が手を挙げる。


「こんな村へ誰が来るんです?」


もっともな疑問だった。


アルトは少し考える。


そして窓の外を指差した。


黄金色の麦畑。


青い空。


澄んだ川。


「ここ。」


「きれい。」


「パン。」


「おいしい。」


「ひと。」


「やさしい。」


「これ。」


「ぶらんど。」


教授が思わず息をのむ。


「ブランド……。」


アルトは続ける。


「パン。」


「だけじゃない。」


「むら。」


「すき。」


「なって。」


「もらう。」


営業課長だった頃、何度も学んだことがある。


ブランドとは、商品の名前ではない。


『また来たい』


『また買いたい』


そう思ってもらえる体験そのものだ。



その時、入口から声が聞こえた。


「面白い話をしていますね。」


振り返ると、そこにはクラウスが立っていた。


「クラウスさん!」


ベルンが驚く。


「どうしてここへ?」


クラウスは笑顔で答えた。


「アルト君が地方改革を始めると聞きまして。」


「商人として、放っておけません。」


アルトも嬉しそうに笑う。


「こんにちは。」


「こんにちは、アルト君。」


クラウスは焼きたてのパンを一口食べる。


「……これは驚きました。」


「王都でも十分勝負できます。」


マルタが照れ笑いを浮かべる。


「そんな大げさな。」


クラウスは首を横へ振る。


「いいえ。」


「問題は味ではありません。」


「伝わっていないだけです。」


アルトと目が合う。


二人は同時に頷いた。


考えていることは同じだった。



その夜。


宿でアルトは一枚の紙に絵を描いていた。


パン。


麦畑。


笑顔の家族。


そして大きく一言。


『ミルフィパン祭り』


ガイルが覗き込む。


「祭り?」


アルトは嬉しそうに頷いた。


「おいしい。」


「たのしい。」


「また。」


「きたい。」


それこそが営業の第一歩。


商品を売る前に、ファンを作る。


ミルフィ村の未来を変える挑戦が、いよいよ動き始めた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊿


『ブランドとは、商品ではなく「体験」である。』


品質が良いだけでは、人は集まらない。


「また来たい」「誰かに教えたい」と思える体験こそがブランドを育てる。


商品を売るのではない。


価値ある体験を届けることが、本当の営業である。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十二話「営業課長、商人たちを巻き込む」


パン祭りの開催には、多くの協力者が必要だった。


営業課長は、王都の商人たちを相手に人生最大のプレゼンテーションへ挑む――。

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