↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/249

第五十話 営業課長、村一番の頑固じいさんを口説く


翌朝。


ミルフィ村の空気はひんやりとしていた。


朝露に濡れた麦畑が、朝日を浴びて黄金色に輝いている。


アルトは村長ベルンと一緒に村を歩いていた。


「村長。」


「いちばん。」


「こまってるひと。」


ベルンは少し困ったように笑う。


「困っている人……というより。」


「一番、頑固な人ならいます。」


「がんこ?」


「ええ。」


「昔は村一番の農家でした。」


「ですが今では、誰の話も聞かなくなってしまったんです。」


◇


二人が向かった先には、一軒の古い農家があった。


広い畑。


立派な納屋。


しかし手入れは行き届いていない。


畑の半分は雑草に覆われていた。


「いますか?」


ベルンが声を掛ける。


「……帰れ。」


家の中から低い声が返ってきた。


「また役人か。」


「村は変わらん。」


「何を言っても無駄だ。」


ベルンは肩を落とす。


「この調子でして……。」


その時だった。


アルトが玄関の前まで歩いていく。


「こんにちは。」


しばらく沈黙。


やがて扉が少しだけ開く。


現れたのは七十歳を超えた老人だった。


白い髭。


日に焼けた顔。


鋭い目。


「……誰だ。」


「アルト。」


「にさい。」


老人は鼻で笑う。


「子守りをする暇はない。」


「帰れ。」


◇


普通ならここで終わる。


だがアルトは帰らなかった。


畑へ歩いていく。


しゃがみ込み、一株の麦を見つめた。


「きれい。」


老人の眉がぴくりと動く。


「分かるのか?」


「うん。」


「いい。」


「こむぎ。」


老人は黙ったまま畑へ降りてくる。


「……昔はな。」


「王都でも一番だと言われた。」


「今は半分しか作っとらん。」


アルトは尋ねる。


「どうして?」


老人は遠くを見つめた。


「息子が村を出た。」


「働く者がおらん。」


「歳を取った。」


「もう終わりだ。」


その言葉には、諦めが滲んでいた。


◇


アルトは少し考える。


そして、突然こう言った。


「おじいちゃん。」


「うそつき。」


ベルンが青ざめる。


「ア、アルト君!」


老人も目を丸くした。


「……何だと?」


アルトは畑を指差す。


「ほんとに。」


「やめるひと。」


「くさ。」


「そのまま。」


「でも。」


「ここ。」


「ぬいてる。」


老人は思わず畑を見る。


確かに、雑草だらけの畑だった。


しかし、麦の周りだけは丁寧に草が抜かれている。


アルトはにっこり笑った。


「まだ。」


「すき。」


「こむぎ。」


老人は何も言えなかった。


◇


前世でも似たようなことがあった。


定年間近の営業マン。


「もう辞めるから」と言いながら、誰よりも丁寧に顧客対応をしていた。


本当に諦めた人は、努力をしない。


努力を続けている人は、心のどこかでまだ諦めていない。


営業課長だったアルトは、それを何度も見てきた。


◇


老人は畑へしゃがみ込む。


麦をそっと撫でた。


「……毎朝。」


「気付いたら草を抜いていた。」


「癖みたいなもんだ。」


アルトは嬉しそうに頷く。


「やっぱり。」


「まだ。」


「すき。」


老人は苦笑した。


「負けたな。」


「二歳児に見透かされるとは。」


◇


アルトは一本の麦を手に取る。


「おいしい。」


「なのに。」


「しらない。」


「もったいない。」


老人は静かに頷いた。


「そうだ。」


「味なら誰にも負けん。」


アルトは笑顔になる。


「じゃあ。」


「しって。」


「もらおう。」


「……どうやって?」


「ぼく。」


「かんがえる。」


老人はその言葉を聞いて、大きく笑った。


「はっはっは!」


「久しぶりだ!」


「こんなに笑ったのは!」


ベルンも目頭を押さえる。


「アルト君……。」


◇


その日の夕方。


村の集会所。


老人が自分から立ち上がった。


村人たちは驚く。


「ギルじい?」


「話すのか?」


老人はゆっくり村人たちを見回した。


「俺は。」


「もう村は終わりだと思っていた。」


「だが。」


「まだ終わってなかった。」


「このチビに教えられた。」


村人たちがアルトを見る。


「俺はもう一度、小麦を作る。」


「だから。」


「お前たちも諦めるな。」


静まり返っていた集会所に、小さな拍手が響く。


やがて一人。


また一人。


拍手は大きくなっていく。


若い農夫が立ち上がった。


「俺もやります!」


「うちの畑ももう一度耕します!」


「私も手伝う!」


「収穫なら任せて!」


少しずつ。


本当に少しずつ。


止まっていた村が動き始めた。


◇


夜。


宿へ戻る道。


教授が空を見上げながら言う。


「アルト君。」


「今日は改革の第一歩でしたね。」


アルトは首を振る。


「ちがう。」


「え?」


「はじめの。」


「ひとり。」


営業でも同じだった。


改革は制度から始まらない。


設備からでもない。


最初に変わるのは、一人の人の心。


その変化が、やがて周りへ広がっていく。


アルトは満天の星空を見上げ、小さく笑った。


(ここからが本番だ。)


ミルフィ村改革。


営業課長、第二の挑戦が静かに幕を開けた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊾


『人は理屈では動かない。心が動いて初めて行動が変わる。』


数字やデータだけでは、人は変われない。


相手の本当の想いを見つけ、その火をもう一度灯す。


営業とは、商品を売る仕事ではなく、人の心に火をつける仕事である。


━━━━━━━━━━━━━━

――第2部「営業課長、王都で信用を築く編」完――


――次回、第五十一話


第3部「営業課長、消えかけた村を再生する編」開幕。


――次回、第五十一話「営業課長、村のパンをブランドにする」


ミルフィ村改革、いよいよ本格始動。


アルトが最初に目を付けたのは、「王都一の味なのに誰も知らないパン」だった。


営業課長は、異世界初の"ブランド戦略"を仕掛ける――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。