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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十九話 営業課長、消えかけた村へ行く


夏空の下、王都を出た馬車は街道をゆっくりと進んでいた。


御者台では騎士が周囲を警戒し、荷台には生活用品や調査道具が積み込まれている。


アルトは窓から流れる景色を眺めていた。


黄金色に揺れる麦畑。


小川を渡る石橋。


のどかな風景が続く。


「どうだ?」


ガイルが声を掛ける。


「初めての長旅だぞ。」


アルトは嬉しそうに頷いた。


「たのしい。」


「それは良かった。」


教授も笑う。


「ですが、目的は旅行ではありませんからね。」


「うん。」


「おしごと。」


その返事に馬車の中は笑いに包まれた。


「二歳児がお仕事か。」


「将来が楽しみですね。」


◇


四日後。


馬車は山間にある小さな村へ到着した。


木製の看板には、


『ミルフィ村』


と書かれている。


しかし――。


「あれ?」


リディアが辺りを見回した。


「人が……いませんね。」


昼間だというのに、人影はまばらだった。


畑には雑草が生え、家の屋根も傷んでいる。


井戸の周りには誰も集まっていない。


子どもの笑い声も聞こえなかった。


アルトは静かに村を見渡した。


(思った以上に深刻だ。)


◇


村長宅。


迎えてくれたのは六十代ほどの男性だった。


「ようこそお越しくださいました。」


「村長のベルンです。」


その笑顔は穏やかだったが、どこか疲れ切っていた。


応接室へ案内される。


机に並んだお茶も質素だった。


ベルンは申し訳なさそうに頭を下げる。


「十分なおもてなしもできず……。」


「気にしない。」


アルトが答える。


「ありがとう。」


ベルンは少し驚いた顔をした。


「礼儀正しいお子さんですな。」


◇


食事の後、アルトは村を歩き始めた。


「まず。」


「みる。」


教授は頷く。


「現地調査ですね。」


アルトは家を一軒一軒眺める。


畑も見る。


井戸も見る。


道も歩く。


そして何より、人を見る。


老人ばかり。


若者はほとんどいない。


空き家も目立つ。


営業時代なら、まず数字を見る。


しかし数字だけでは分からないことがある。


現場へ行けば、人の表情が見える。


そこに本当の課題が隠れている。


◇


畑で一人の老人が麦を刈っていた。


「こんにちは。」


アルトが声を掛ける。


老人は優しく笑う。


「こんにちは。」


「都会の坊ちゃんかい?」


「ううん。」


「アルト。」


「二さい。」


「ははは!」


老人は豪快に笑った。


「小さいのによく喋るなぁ!」


アルトは畑を見つめる。


「おいしそう。」


老人は嬉しそうに頷いた。


「うちの小麦は自慢だからな。」


「王都のパン屋にも負けない味だ。」


「じゃあ。」


「なんで。」


「うれない?」


その一言で老人の笑顔が消えた。


「……。」


しばらく沈黙が続く。


やがて老人は寂しそうに笑った。


「誰も知らないからさ。」


◇


その日の夕方。


村の集会所。


村人たちが集まっていた。


老人がほとんどで、若者は数えるほどしかいない。


村長ベルンが口を開く。


「皆さん。」


「王都から調査団が来てくださいました。」


村人たちは期待半分、不安半分といった表情だった。


「どうせ変わらん。」


誰かが小さく呟く。


「前にも役人は来た。」


「話を聞いて終わりだった。」


重苦しい空気が流れる。


アルトは椅子から降りると、部屋の真ん中まで歩いた。


そして、村人たちを見回した。


「ぼく。」


「みんなに。」


「おねがい。」


「お願い?」


村人たちが首を傾げる。


アルトは大きく息を吸った。


「このむら。」


「きらい?」


部屋が静まり返る。


誰も答えられない。


「ぼくは。」


「すき。」


「まだ。」


「きたばかり。」


「でも。」


「こむぎ。」


「おいしい。」


「ひと。」


「やさしい。」


「だから。」


「なくなる。」


「いや。」


短い言葉だった。


だが、その一つ一つが村人たちの胸に届いた。


ベルンの目には涙が浮かんでいた。


「ありがとう……。」


「そんなことを言ってくれた子は、初めてだ。」


◇


集会が終わったあと。


教授がアルトへ尋ねる。


「明日から何を始めますか?」


アルトは迷わず答えた。


「まず。」


「ひとり。」


「え?」


「いちばん。」


「こまってるひと。」


「たすける。」


教授は静かに微笑んだ。


「なるほど。」


営業でも同じだった。


会社全体を変えようとしても難しい。


まずは一人のお客様。


一人の社員。


一つの成功を作る。


その成功は必ず周囲へ広がっていく。


◇


その夜。


村外れの古い倉庫。


黒い外套の男が静かに村を見下ろしていた。


「標的は到着しました。」


部下が報告する。


男は小さく笑う。


「村人を利用しろ。」


「改革が失敗すれば、王国の信用も落ちる。」


「……承知しました。」


月明かりが銀色の歯車の紋章を照らす。


アルトの地方改革は、始まったばかりだった。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊽


『答えは会議室ではなく、現場にある。』


資料や数字は大切だ。


しかし、本当の課題は現場で働く人、お客様の声の中にある。


まず現場を見る。


そして聞く。


すべてはそこから始まる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第五十話「営業課長、村一番の頑固じいさんを口説く」


改革に反対する頑固な老人。


「今さら何をやっても無駄だ。」


その一言から始まる、営業課長と村一番の頑固者との真剣勝負――。

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