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第四十八話 営業課長、地方改革プロジェクト始動


王城・円卓会議室。


王国全土の地図が大きな机いっぱいに広げられていた。


国王アレクシスをはじめ、大臣、騎士団長、王立魔法学院の教授たちが席についている。


そして、一番小さな椅子にはアルトがちょこんと座っていた。


「それでは始めよう。」


国王が口を開く。


「地方改革プロジェクトの第一回会議だ。」


その言葉に、アルトは少しだけ胸が高鳴った。


(会社の経営会議みたいだ。)


違うのは、会社ではなく国だということだけだった。



財務大臣が一枚の資料を広げる。


「まず現状をご説明します。」


地図には、赤・黄・緑の印が付けられていた。


「緑は豊かな地域。」


「黄色は平均的。」


「そして赤が……深刻な地域です。」


赤い印は王都から離れた場所へ集中していた。


「なぜ?」


アルトが尋ねる。


大臣が答える。


「人が少なく、物流も悪い。」


「さらに魔道具もほとんど普及していません。」


教授が続ける。


「優秀な人材は王都へ集まり、地方には残らないのです。」


アルトは静かに頷いた。


(前世でも同じだった。)


地方支店。


過疎地域。


人口流出。


営業会議で何度も議題になった問題だった。



「では、アルト。」


国王が微笑む。


「お前ならどうする?」


会議室の視線が一斉に集まる。


アルトは地図を見つめた。


しばらく考えたあと、小さく口を開く。


「ぜんぶ。」


「なおさない。」


「……ん?」


大臣たちが顔を見合わせる。


「どういう意味だ?」


アルトは地図の端にある、小さな赤い村を指差した。


「ひとつ。」


「だけ。」


「なおす。」


会議室が静まり返る。


「一つだけ?」


アルトは頷く。


「できた。」


「みんな。」


「まね。」


教授が目を見開いた。


「成功例を作る……!」


アルトはにっこり笑う。


「うん。」


営業時代。


全国の支店改革を任されたことがあった。


その時、全店舗を一斉に変えようとして失敗した会社を何度も見た。


だからまず一店舗。


成功事例を作る。


成功すれば、「うちでもできる」と周りが動き始める。


改革は、広げるものではなく、伝染させるものだった。



国王は満足そうに頷いた。


「面白い。」


「では最初の村を決めよう。」


騎士団長が地図を指差す。


「ここはどうでしょう。」


『ミルフィ村』


人口約三百人。


王都から馬車で四日。


農業中心。


近年は若者の流出が続いている。


財務大臣が説明する。


「税収も年々減少しています。」


「このままでは十年後には消滅する可能性も。」


アルトは静かに村の名前を見つめた。


(営業成績最下位の支店みたいだ。)


燃えてきた。



会議が終わると、エリシア王女が駆け寄ってきた。


「アルト!」


「また面白いこと始めるの?」


「うん。」


「むら。」


「なおす。」


エリシアはぱっと笑顔になる。


「私も行きたい!」


すかさず国王が咳払いをした。


「……勉強があるだろう?」


「うっ。」


王女は肩を落とした。


その様子を見てアルトが小さく笑う。


「おみやげ。」


「かう。」


「本当?」


「うん。」


「約束だよ!」


「うん。」


王女はすっかり機嫌を直した。


教授たちは微笑みながらそのやり取りを見守る。



その日の午後。


アルトは商人ギルドを訪れていた。


クラウスが笑顔で迎える。


「地方改革ですか。」


「面白そうですね。」


アルトは尋ねる。


「ミルフィ村。」


「なにがある?」


クラウスは少し考えて答えた。


「小麦ですね。」


「王国でも品質は高い。」


「ですが。」


「売れません。」


「どうして?」


「知名度がありません。」


アルトは頷く。


(やっぱり。)


商品が悪いのではない。


知られていないだけ。


営業時代にも、品質は最高なのに売れない商品がいくつもあった。


問題は商品ではなく、伝え方だった。



帰宅したアルトは、自室で紙を広げた。


丸を描く。


矢印を書く。


文字を書く。


「アルト?」


ガイルが部屋を覗く。


「何を書いてるんだ?」


アルトは紙を見せた。


そこには幼い字で、


『つくる』


『はこぶ』


『うる』


『またつくる』


と書かれていた。


ガイルは首をかしげる。


「輪になってる?」


アルトは嬉しそうに頷く。


「おかね。」


「まわる。」


「みんな。」


「しあわせ。」


ガイルは全部は理解できなかった。


だが一つだけ分かった。


この子は、村ではなく仕組みを変えようとしている。



その夜。


王都を離れた街道。


黒い馬車が静かに走っていた。


中には、銀色の歯車の紋章を付けた男が座っている。


「アルト・レオン。」


男は窓の外を見つめながら呟く。


「今度は地方へ向かうらしい。」


部下が尋ねた。


「追いますか?」


男はゆっくりと首を横に振る。


「いや。」


「先回りしろ。」


「奴が向かう村で待て。」


静かな笑みが浮かぶ。


「次は、偶然では終わらせん。」


新たな舞台となるミルフィ村。


そこでは、アルトの改革を待ち受ける、もう一つの陰謀が静かに動き始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊼


『改革は、一度に全部やろうとするな。』


すべてを同時に変えようとすると、必ず混乱する。


まずは一つ成功事例を作る。


その成功が周囲を動かし、やがて組織全体へ広がっていく。


小さな成功が、大きな変化の第一歩になる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十九話「営業課長、消えかけた村へ行く」


王都を出発したアルトたち。


しかし、彼らを待っていたのは、活気を失い、希望さえ消えかけた小さな村だった。


営業課長の地方改革が、いよいよ始まる――。

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