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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十八話 営業課長、地方改革プロジェクト始動


王城・円卓会議室。


王国全土の地図が大きな机いっぱいに広げられていた。


国王アレクシスをはじめ、大臣、騎士団長、王立魔法学院の教授たちが席についている。


そして、一番小さな椅子にはアルトがちょこんと座っていた。


「それでは始めよう。」


国王が口を開く。


「地方改革プロジェクトの第一回会議だ。」


その言葉に、アルトは少しだけ胸が高鳴った。


(会社の経営会議みたいだ。)


違うのは、会社ではなく国だということだけだった。


◇


財務大臣が一枚の資料を広げる。


「まず現状をご説明します。」


地図には、赤・黄・緑の印が付けられていた。


「緑は豊かな地域。」


「黄色は平均的。」


「そして赤が……深刻な地域です。」


赤い印は王都から離れた場所へ集中していた。


「なぜ?」


アルトが尋ねる。


大臣が答える。


「人が少なく、物流も悪い。」


「さらに魔道具もほとんど普及していません。」


教授が続ける。


「優秀な人材は王都へ集まり、地方には残らないのです。」


アルトは静かに頷いた。


(前世でも同じだった。)


地方支店。


過疎地域。


人口流出。


営業会議で何度も議題になった問題だった。


◇


「では、アルト。」


国王が微笑む。


「お前ならどうする?」


会議室の視線が一斉に集まる。


アルトは地図を見つめた。


しばらく考えたあと、小さく口を開く。


「ぜんぶ。」


「なおさない。」


「……ん?」


大臣たちが顔を見合わせる。


「どういう意味だ?」


アルトは地図の端にある、小さな赤い村を指差した。


「ひとつ。」


「だけ。」


「なおす。」


会議室が静まり返る。


「一つだけ?」


アルトは頷く。


「できた。」


「みんな。」


「まね。」


教授が目を見開いた。


「成功例を作る……!」


アルトはにっこり笑う。


「うん。」


営業時代。


全国の支店改革を任されたことがあった。


その時、全店舗を一斉に変えようとして失敗した会社を何度も見た。


だからまず一店舗。


成功事例を作る。


成功すれば、「うちでもできる」と周りが動き始める。


改革は、広げるものではなく、伝染させるものだった。


◇


国王は満足そうに頷いた。


「面白い。」


「では最初の村を決めよう。」


騎士団長が地図を指差す。


「ここはどうでしょう。」


『ミルフィ村』


人口約三百人。


王都から馬車で四日。


農業中心。


近年は若者の流出が続いている。


財務大臣が説明する。


「税収も年々減少しています。」


「このままでは十年後には消滅する可能性も。」


アルトは静かに村の名前を見つめた。


(営業成績最下位の支店みたいだ。)


燃えてきた。


◇


会議が終わると、エリシア王女が駆け寄ってきた。


「アルト!」


「また面白いこと始めるの?」


「うん。」


「むら。」


「なおす。」


エリシアはぱっと笑顔になる。


「私も行きたい!」


すかさず国王が咳払いをした。


「……勉強があるだろう?」


「うっ。」


王女は肩を落とした。


その様子を見てアルトが小さく笑う。


「おみやげ。」


「かう。」


「本当?」


「うん。」


「約束だよ!」


「うん。」


王女はすっかり機嫌を直した。


教授たちは微笑みながらそのやり取りを見守る。


◇


その日の午後。


アルトは商人ギルドを訪れていた。


クラウスが笑顔で迎える。


「地方改革ですか。」


「面白そうですね。」


アルトは尋ねる。


「ミルフィ村。」


「なにがある?」


クラウスは少し考えて答えた。


「小麦ですね。」


「王国でも品質は高い。」


「ですが。」


「売れません。」


「どうして?」


「知名度がありません。」


アルトは頷く。


(やっぱり。)


商品が悪いのではない。


知られていないだけ。


営業時代にも、品質は最高なのに売れない商品がいくつもあった。


問題は商品ではなく、伝え方だった。


◇


帰宅したアルトは、自室で紙を広げた。


丸を描く。


矢印を書く。


文字を書く。


「アルト?」


ガイルが部屋を覗く。


「何を書いてるんだ?」


アルトは紙を見せた。


そこには幼い字で、


『つくる』


『はこぶ』


『うる』


『またつくる』


と書かれていた。


ガイルは首をかしげる。


「輪になってる?」


アルトは嬉しそうに頷く。


「おかね。」


「まわる。」


「みんな。」


「しあわせ。」


ガイルは全部は理解できなかった。


だが一つだけ分かった。


この子は、村ではなく仕組みを変えようとしている。


◇


その夜。


王都を離れた街道。


黒い馬車が静かに走っていた。


中には、銀色の歯車の紋章を付けた男が座っている。


「アルト。」


男は窓の外を見つめながら呟く。


「今度は地方へ向かうらしい。」


部下が尋ねた。


「追いますか?」


男はゆっくりと首を横に振る。


「いや。」


「先回りしろ。」


「奴が向かう村で待て。」


静かな笑みが浮かぶ。


「次は、偶然では終わらせん。」


新たな舞台となるミルフィ村。


そこでは、アルトの改革を待ち受ける、もう一つの陰謀が静かに動き始めていた。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊼


『改革は、一度に全部やろうとするな。』


すべてを同時に変えようとすると、必ず混乱する。


まずは一つ成功事例を作る。


その成功が周囲を動かし、やがて組織全体へ広がっていく。


小さな成功が、大きな変化の第一歩になる。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十九話「営業課長、消えかけた村へ行く」


王都を出発したアルトたち。


しかし、彼らを待っていたのは、活気を失い、希望さえ消えかけた小さな村だった。


営業課長の地方改革が、いよいよ始まる――。

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