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第四十七話 営業課長、国王陛下に呼び出される


誘拐事件から一週間。


アルトは久しぶりにレオン家の庭でのんびりと過ごしていた。


「……へいわ。」


木陰で寝転がりながら空を見上げる。


青空には白い雲がゆっくり流れていた。


ガイルは苦笑する。


「二歳で誘拐された直後とは思えないな。」


「もう少し怖がってもいいんだぞ?」


アルトは首を振った。


「おうち。」


「だから。」


安心できる場所がある。


それだけで人は落ち着ける。


前世でも、どんなに忙しい日でも家へ帰ると肩の力が抜けた。


人には帰る場所が必要なのだ。



その穏やかな時間は、一台の馬車によって破られた。


王家の白銀の紋章。


近衛騎士が整列し、門の前で止まる。


「王命である。」


騎士が高らかに告げた。


「アルト・レオン殿を王城へ招く。」


ガイルが固まる。


「……また何かやったのか?」


「してない。」


「本当に?」


「たぶん。」


「『たぶん』って何だ!」


エミリアが思わず笑いをこらえた。



王城。


大理石で造られた謁見の間は、今日も厳かな空気に包まれていた。


赤い絨毯の先には黄金の玉座。


そこへアルトたちが案内される。


左右には近衛騎士。


奥には大臣や貴族たちが並んでいた。


「アルト・レオン。」


国王アレクシスが穏やかな声で呼ぶ。


「近う寄れ。」


アルトは小さな足で歩き、玉座の前まで進む。


そしてぺこりと頭を下げた。


「こんにちは。」


場の空気が一瞬止まる。


貴族たちが慌てる。


「こ、国王陛下に……。」


「こんにちはだと?」


しかし国王は大きく笑った。


「はっはっは!」


「よい!」


「余にここまで自然に挨拶する者は久しぶりだ。」


緊張していた空気が、一気に和らいだ。



国王は玉座から降りてくる。


「アルト。」


「今回の件、よく無事で戻ってきた。」


「ありがとう。」


「うん。」


「おじさん。」


「いい人だった。」


「……ゼクトのことか?」


国王は少し驚いた。


誘拐された子どもなら、犯人を憎んでいてもおかしくない。


しかしアルトは違った。


「わるいこと。」


「した。」


「でも。」


「なおせる。」


国王は静かに目を閉じた。


「王女からも同じような話を聞いた。」


「お前は、あの男の助命を願ったそうだな。」


アルトは頷く。


「うん。」



国王は周囲を見回す。


「皆、どう思う?」


一人の貴族が前へ出た。


「誘拐犯は極刑にすべきです。」


「見せしめにもなります。」


別の大臣も頷く。


「法は平等であるべきかと。」


そこへ騎士団長が口を開く。


「ですが、彼らは抵抗せず投降しました。」


「人質にも危害を加えておりません。」


教授も一歩前へ出る。


「アルト君がいなければ、多くの命が失われていた可能性があります。」


意見は真っ二つに割れた。



その時だった。


アルトが小さく手を挙げる。


「はい。」


国王が笑う。


「申してみよ。」


「しっぱい。」


「ある。」


「でも。」


「なおる。」


「なおした人。」


「たすける。」


「また。」


「がんばる。」


短い言葉だった。


だが、その場にいた誰もが意味を理解した。


営業時代、アルトは何度も失敗した社員を見てきた。


一度の失敗で切り捨てれば、人は育たない。


反省し、やり直す機会を与えることで、大きく成長する者もいる。


国も同じではないだろうか。



国王は静かに立ち上がる。


「決めた。」


玉座の間が静まり返る。


「ゼクト以下全員。」


「終身刑を取りやめる。」


貴族たちがざわつく。


「ただし。」


国王の声が響く。


「王国復興事業へ従事させる。」


「働き、その成果で罪を償え。」


騎士団長が深く頭を下げる。


「賢明なるご判断です。」


アルトはほっと息をついた。



「さて。」


国王は笑顔でアルトを見る。


「本題に入ろう。」


「え?」


「実は、お前に頼みがある。」


大臣たちが一枚の大きな地図を広げる。


王国全土が描かれていた。


その中には赤い印がいくつも付いている。


「ここは何だか分かるか?」


アルトは首を振る。


「魔道具が届いていない村だ。」


国王は続ける。


「都市は豊かになった。」


「だが地方は取り残されている。」


「医療も教育も遅れている。」


「そこで――。」


国王はアルトを真っ直ぐ見つめた。


「お前の知恵を貸してほしい。」


「王国全体を、もっと暮らしやすい国にしたい。」


その言葉を聞いた瞬間。


アルトの胸が高鳴った。


(営業課長から、国づくりか。)


前世では、一つの会社しか変えられなかった。


しかし今なら。


一つの国を変えられるかもしれない。


アルトはにっこり笑った。


「うん。」


「やる。」


国王も満足そうに笑う。


「期待しているぞ、アルト。」


その日。


一人の二歳児は、正式に国王の相談役となった。


王国改革という、新たな物語の幕が静かに上がる。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊻


『人材は「過去」ではなく、「未来」で評価する。』


失敗だけを見れば、誰も成長できない。


反省し、学び、再び挑戦する人に機会を与えること。


それが組織を強くし、未来を創る。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十八話「営業課長、地方改革プロジェクト始動」


国王から託された最初の使命。


それは、王都から遠く離れた小さな村を立て直すことだった。


営業課長は初めて"国全体"を相手にしたプロジェクトへ挑む――。

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