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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十六話 営業課長、誘拐犯の心を動かす


夜明け前。


廃鉱山の倉庫は静寂に包まれていた。


外では虫の鳴き声だけが響いている。


アルトは床に座り、修理した送風具を静かに眺めていた。


「ちゃんと。」


「なおった。」


見張りの男が苦笑する。


「お前、本当に魔道具が好きなんだな。」


「うん。」


「なおると。」


「うれしい。」


その一言に、男は少しだけ目を伏せた。


「……そうか。」


◇


ゼクトは一人、倉庫の外に立っていた。


部下が近づく。


「隊長。」


「王都の騎士団が動いています。」


「日の出にはここへ来るでしょう。」


「予定通り、人質を連れて移動しますか?」


ゼクトはすぐには答えなかった。


視線の先には、小さな窓から漏れる灯りがある。


その部屋には、自分たちが誘拐した二歳の子どもがいる。


だが、その子どもは一度も泣かなかった。


一度も憎まなかった。


むしろ、自分たちの壊れた魔道具を直し、食事まで褒めてくれた。


(なんなんだ……あの子は。)


◇


「おじさん。」


アルトが部屋から顔を出した。


「ねむれない?」


「……起きていたのか。」


アルトは小さく頷く。


「しんぱい。」


ゼクトは思わず笑う。


「心配される立場じゃないんだがな。」


アルトは隣へ座った。


しばらく二人とも何も話さない。


静かな風だけが吹き抜けていく。


やがてアルトが口を開いた。


「おじさん。」


「なんで。」


「わるいこと。」


ゼクトは遠くの山を見つめた。


「昔は違った。」


ぽつりと語り始める。


「俺は王国騎士だった。」


アルトは驚いた。


「きし?」


「ああ。」


「国境で戦っていた。」


「だが戦争が終わると、多くの騎士は職を失った。」


「家族を養えなくなった仲間もいた。」


「俺たちは……生きるために裏の仕事へ流れた。」


アルトは静かに聞いていた。


言い訳ではない。


後悔だった。


◇


「営業でも。」


アルトがぽつりと言う。


「しっぱい。」


「ある。」


ゼクトが苦笑する。


「二歳が営業を語るな。」


「えへへ。」


アルトも笑った。


「でも。」


「しっぱい。」


「なおせる。」


「……どうやって?」


アルトは地面に小さな丸を描く。


「おきゃくさん。」


「うらぎる。」


「もどらない。」


「でも。」


「しょうじき。」


「あやまる。」


「がんばる。」


「すこし。」


「もどる。」


営業課長だった頃。


大きなクレームを何度も経験した。


怒鳴られたこともある。


契約を失ったこともある。


それでも誠実に向き合い続けたお客様とは、何年後かに再び仕事ができた。


信頼は壊れる。


だが、諦めなければ積み直すこともできる。


◇


ゼクトは目を閉じる。


「……今さら戻れると思うか?」


「うん。」


アルトは迷わず答えた。


「ほんとに?」


「うん。」


「だって。」


「おじさん。」


「わるいひとなら。」


「ごはん。」


「くれない。」


「ぼく。」


「なおさせない。」


「おはなし。」


「きかない。」


ゼクトは思わず笑ってしまう。


「基準がおかしいな。」


「でも……ありがとう。」


その時だった。


「隊長!」


部下が駆け込んでくる。


「騎士団です!」


「倉庫を包囲されました!」


外から鋭い声が響く。


「王国近衛騎士団だ!」


「武器を捨て、直ちに投降せよ!」


倉庫の外は完全に包囲されていた。


◇


部下たちは剣を抜く。


「戦いましょう!」


「まだ逃げられます!」


しかしゼクトは静かに首を横へ振った。


「……もう終わりだ。」


「隊長!」


「俺たちは間違えた。」


部下たちは言葉を失う。


ゼクトは剣を床へ置いた。


カラン、と乾いた音が響く。


「武器を捨てろ。」


「責任は俺が取る。」


「隊長……。」


誰よりも先に一人の部下が剣を置く。


続いてもう一人。


やがて全員が武器を手放した。


◇


倉庫の扉がゆっくり開く。


近衛騎士団が一斉に突入する。


先頭には騎士団長。


その後ろには教授、リディア、レオン、そしてエリシア王女の姿もあった。


「アルト!」


レオンが駆け寄る。


アルトはにっこり笑った。


「ただいま。」


エミリアはいないが、レオンはその小さな体を強く抱きしめた。


「よかった……!」


リディアは涙を拭っている。


教授も胸をなで下ろした。


エリシアはアルトの前まで来ると、少し怒った顔をした。


「心配したんだから!」


「ごめん。」


「もう!」


そう言いながら、最後には笑顔になった。


◇


騎士たちはゼクトたちを拘束していく。


その時だった。


アルトが騎士団長の服を軽く引っ張る。


「おねがい。」


「どうした?」


「このひと。」


「わるい。」


「でも。」


「いいこと。」


「できる。」


騎士団長は困ったようにゼクトを見る。


ゼクトは苦笑した。


「最後まで営業されてしまったな。」


王女エリシアも静かに口を開く。


「お父様なら、きっと話を聞いてくださいます。」


騎士団長はしばらく考え、頷いた。


「陛下へ、そのまま伝えよう。」


ゼクトは深く頭を下げる。


「……ありがとう。」


その声は、誘拐犯ではなく、一人の人間としてのものだった。


アルトは笑顔で手を振る。


「またね。」


「……いや。」


ゼクトは苦笑しながら首を振る。


「次に会う時は、まっとうな仕事で会おう。」


朝日が廃鉱山を明るく照らす。


誘拐事件は幕を閉じた。


しかしアルトは知らなかった。


この出来事が、自分の名を王国中へ広めるきっかけになることを。


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊺


『人は、信じられた時に変わる。』


相手の過去だけを見れば、可能性は閉ざされる。


未来を信じて接することで、人は自分を変える勇気を持てる。


営業とは、商品だけでなく、人の可能性を信じる仕事でもある。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十七話「営業課長、国王陛下に呼び出される」


「アルトを王城へ。」


誘拐事件の報告を受けた国王が、アルトとの謁見を望んだ。


そこで語られるのは、王国の未来を左右する新たな依頼だった――。

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