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42歳のおっさん、赤ちゃんからやり直す ~営業スキルで異世界改革~  作者: コンペイ党
第2部 営業課長、王都で信用を築く編

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第四十五話 営業課長、誘拐犯を顧客にしてしまう


朝日が、小さな窓から石造りの部屋へ差し込んでいた。


アルトは目を覚ますと、大きくあくびをした。


「ふぁ……。」


「よく寝た。」


見張りの男が思わずツッコむ。


「いやいや!」


「誘拐されてるんだぞ、お前!」


アルトは首をかしげる。


「ねむかった。」


「……大物か。」


「ただの二歳児じゃないな。」


見張りたちは顔を見合わせた。


◇


しばらくすると、ゼクトが部屋へ入ってきた。


「朝食だ。」


木の皿には黒パンとスープが乗っている。


アルトは一口食べると、少し考え込んだ。


「……しょっぱい。」


「そうか?」


ゼクトも一口飲む。


「……確かに。」


料理番が慌てる。


「保存のために塩を多めに……。」


アルトは小さく笑った。


「もったいない。」


「え?」


「パン。」


「スープ。」


「べつべつ。」


「しょっぱい。」


「いっしょ。」


「おいしい。」


言われた通りにパンをスープへ浸して食べる。


「あっ。」


「本当だ。」


「うまい!」


見張りまで真似を始めた。


「俺も。」


「おお、食べやすい!」


ゼクトは思わず笑う。


「誘拐した子どもから朝食の食べ方を教わるとはな。」


部屋の空気が少し和らいだ。


◇


食後。


アルトは縄を見ながら尋ねた。


「いたい。」


「ほどいて。」


見張りは困った顔をする。


「逃げるだろ。」


アルトは首を振る。


「にさい。」


「はやく。」


「はしれない。」


「……たしかに。」


ゼクトは少し考えた後、縄をほどかせた。


「ただし、妙な真似はするな。」


「うん。」


アルトは手首をさすりながら笑顔を見せる。


(まず一つ。)


(小さな信用を積み重ねる。)


営業でも同じだった。


最初から大きなお願いは通らない。


小さな約束を守り続けることで、相手は警戒を解く。


◇


昼頃。


アルトは部屋の隅で木箱を見つけた。


中には壊れた魔道具が山積みになっている。


「これ。」


「どうしたの?」


見張りが答える。


「壊れた商品だ。」


「使えないから捨てる。」


アルトは手に取る。


少し眺める。


「なおる。」


「え?」


「ここ。」


「まがってる。」


魔力回路の金属板を指で軽く押す。


カチッ。


魔石をはめ直す。


送風具が静かに動き出した。


「風、出た。」


「…………。」


部屋が静まり返る。


「直った!」


「一瞬で!」


ゼクトまで目を見開く。


「本当に天才か……。」


◇


「これ。」


アルトは壊れた魔道具を並べる。


「まだ。」


「つかえる。」


「なおす。」


「また。」


「うれる。」


ゼクトが腕を組む。


「修理して売る?」


「うん。」


「すてる。」


「おかね。」


「ゼロ。」


「なおす。」


「おかね。」


「ふえる。」


見張りの一人が感心する。


「確かに……。」


「今まで全部捨ててたな。」


アルトは続けた。


「もったいない。」


その一言が、妙に胸へ刺さった。


◇


夕方。


倉庫の外では別の男たちが戻ってきていた。


「隊長。」


「王都は大騒ぎです。」


「近衛騎士団まで動いています。」


ゼクトは静かに頷く。


「予想通りだ。」


「身代金は?」


「要求していません。」


「なら、何が目的だ?」


部下が尋ねる。


ゼクトは少し黙った。


本当の目的。


それはアルトの才能を確かめることだった。


だが――。


(予想以上だ。)


発明だけではない。


観察力。


交渉力。


人の心を動かす力。


二歳の子どもとは思えない。


◇


その夜。


アルトはゼクトへ話しかけた。


「おじさん。」


「なに?」


「わるい人?」


ゼクトは苦笑した。


「どう思う?」


アルトは少し考えた。


「わるい。」


「でも。」


「いい人。」


「へ?」


「ごはん。」


「くれた。」


「なぐらない。」


「おはなし。」


「きいてくれる。」


ゼクトは言葉を失う。


誘拐犯として見れば、自分は間違いなく悪人だ。


しかしアルトは、それ以外の部分も見ていた。


肩書きではなく、人を見る。


以前、王女エリシアに自然と接していた姿と同じだった。


「……変な子だ。」


「うん。」


「よく言われる。」


ゼクトは思わず吹き出した。


「ははは!」


部下たちまで笑い始める。


誰も気付いていなかった。


部屋の空気は、もう"監禁場所"ではなくなっていた。


営業課長は、会話だけで相手との距離を縮め始めていたのだ。


◇


その頃、王城では。


「居場所が分かりました!」


近衛騎士が地図を広げる。


「廃鉱山跡の倉庫です!」


騎士団長は剣を抜いた。


「夜明けと同時に突入する。」


エリシアは胸の前で両手を握る。


「アルト……。」


王国最強の救出部隊が、静かに動き始めた。


一方その頃。


アルトは修理した送風具を眺めながら、小さくつぶやいた。


「おじさん。」


「これ。」


「もっと。」


「売れるよ。」


ゼクトは苦笑しながら頭をかく。


「お前は本当に……。」


「誘拐犯まで営業する気か。」


アルトはにっこり笑った。


「うん。」


━━━━━━━━━━━━━━


営業メモ㊹


『営業の第一歩は、敵を減らすことではなく、味方を増やすこと。』


人は警戒している相手の話は聞かない。


まずは信頼を築き、「この人の話なら聞いてみよう」と思ってもらうこと。


それが、すべての交渉のスタートラインである。


━━━━━━━━━━━━━━


――次回、第四十六話「営業課長、誘拐犯の心を動かす」


救出部隊が迫る中、ゼクトは人生最大の決断を迫られる。


そしてアルトは、営業人生で培った"ある一言"で、誘拐事件の結末を大きく変えていく――。

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